約束手形のサイトは60日以内へ短縮
中小企業庁では、中小企業の取引適正化の重点課題の1つに「支払条件の改善」を位置づけ、取り組みを進めてきました。2024年11月以降、下請法上の運用が変更されサイトが60日を超える約束手形や電子記録債権の交付、一括決済方式による支払は行政指導の対象となります。
CONTENTS
01.約束手形のサイトは60日以内へ短縮
02.各団体などへの要請内容
03.約束手形とは
04.手形サイトの短縮とその影響
05.関連法規と行政指導のポイント
06.新しい規制に違反した際の処置
07.企業が直面する課題と対策
約束手形のサイトは60日以内へ短縮
日本国内での商取引における約束手形の取り扱いには、大きな変革が求められています。特に、従来は90日や120日などと長期化することが一般的だった取引手形の支払期日が、2024年11月以降は原則60日以内に短縮されることとなりました。この制度改正は、中小企業の資金繰りを円滑にし、日本経済全体の健全な循環を促進することを目的としています。
新しいルールにより、企業は60日を超える支払期日を設定した場合には、行政からの指導対象となるため、法令の厳格な順守が求められます。これに対応するため、企業は取引先との契約内容を改めて見直し、新たな規定に則った契約条件を整備する必要があります。特に、中小企業にとっては、この変更が与える影響を最小限に抑えるための迅速かつ適切な対応が求められます。
約束手形の支払期日の短縮は、企業のキャッシュフローを改善し、取引関係の安定性を高める効果も期待されています。企業間取引において、この新しい支払期日を意識した商習慣の確立が急務となっているため、全ての関係者が適応できるよう積極的な対応が求められます。
各団体などへの要請内容
事業者が手形などの支払サイトを短縮できない理由として、上位取引先からの支払方法が手形であること、またそのサイトが長期化していることが多く挙げられています。下請法の対象外となる取引も含め、サプライチェーン全体で支払サイトの短縮を進めることが、中小企業の取引を公正化するために重要です。
さらに、手形サイトの短縮に取り組む事業者の資金繰りへの影響にも配慮する必要があります。このため、中小企業庁は、公正取引委員会と共同で、各産業の業界団体、金融機関およびそれらを監督する省庁などに対し、下記の内容の要請文を発出しています。
- サイトが60日を超える手形等を下請法の割引困難な手形等に該当するおそれがあるものとして指導の対象とする運用が、2024年11月1日から始まること。
- ファクタリング等の一括決済方式については、サイトを60日以内とすることに加え、引き続き、一括決済方式への加入は下請事業者の自由な意思によること並びに親事業者、下請事業者及び金融機関の間の三者契約によることを徹底すること。
- 下請法対象外の取引についても、手形等のサイトを60日以内に短縮する、代金の支払いをできる限り現金によるものとするなど、サプライチェーン全体での支払い手段の適正化に努めること。とりわけ、建設工事、大型機器の製造など発注から納品までの期間が長期にわたる取引においては、発注者は支払い手段の適正化とともに、前払い比率、期中払い比率をできる限り高めるなど支払条件の改善に努めること。
- 手形等のサイトの短縮に取り組む事業者からの資金繰り支援の相談に丁寧かつ親身に応じるとともに、事業者の業況や資金需要等を勘案し、事業者に寄り添った柔軟かつきめ細かな資金繰り支援に努めること。
・中小企業庁「手形等のサイトの短縮への対応に関する要請文」
約束手形とは
約束手形とは、振出人が受取人に対して、将来の特定の期日に一定の金額を無条件で支払うことを約束する有価証券の一種です。振出人は、受取人に対してその金額を支払う義務を負います。このため、約束手形は商取引や資金調達の手段として広く利用されてきました。
また、受取人は手形を銀行などの金融機関に持ち込むことで、期日前に現金に換えることができます。手形は将来の支払いを約束するものなので、資金繰りに役立つ手段として活用できます。
約束手形は、支払手形や為替手形とは違い、手形を発行した人が直接お金を支払う義務を負います。そのため、発行者の信用力が重要となり、手形を使う取引では、発行者の支払い能力に対する慎重なチェックが必要です。
手形の種類と特徴
手形には、大きく分けて「約束手形」と「為替手形」の2種類があります。
約束手形は、振出人が受取人に対して、一定の期日に特定の金額を支払うことを約束する有価証券です。この手形は、振出人が直接的に支払いの義務を負うため、受取人にとって支払確実性が高い特徴があります。約束手形は、国内取引や資金調達の手段として広く利用されています。
為替手形は、振出人が第三者(支払人)に対して、受取人に指定金額を支払うよう指示する手形です。この手形は、通常、輸出入取引などの国際貿易において多く利用されます。為替手形は、複数の当事者が関与するため、約束手形に比べて手続きが複雑ですが、支払条件を柔軟に設定できる点が特徴です。
どちらの手形を使用するかは、取引の性質や関係者間の信用状況、取引の目的によって選択されます。
手形サイトの短縮とその影響
約束手形の支払期日が60日以内に短縮されることの影響は大きく、中小企業の資金繰りが改善される点が挙げられます。従来の長期的な支払期日では、資金の流動性を欠き、経営に悪影響を及ぼすことが少なくありませんでした。しかし、新しいルールでは60日以内に支払いが行われるため、キャッシュフローの見通しが立ちやすくなります。
その一方で、取引先との交渉や手形の管理がより厳密に求められるようになるため、企業の内部プロセスや契約内容の見直しも進めていく必要があります。
60日以内に短縮される理由
約束手形の支払期日が60日以内に短縮される背景には、中小企業の資金繰りを改善するという政策的な意図があります。
長期の支払期日は中小企業の資金繰りに負担をかける要因となり、経済活動の停滞を招く原因となっていました。
その問題を受けて、1966年以降、中小企業庁及び公正取引委員会は、業界の商慣習や親事業者と下請事業者との取引関係や、金融情勢等を総合的に勘案し、繊維業を除く業種に対して「120日を超える長期の支払期日を持つ手形」は、下請事業者が規制する「割引困難な手形」などに該当する恐れがあるものとして指導してきました。
さらに、中小企業庁は取引の適正化と支払条件の改善を目指し、業種ごとの下請ガイドラインや自主行動計画を通じて手形の支払期日を短縮する取り組みを進めてきました。
しかし、一部ではなかなか改善はされなかったため、2021年3月には、下請法の運用見直しに関する議論が行われ、各業界の商慣習や金融情勢などを考慮した上で、公正取引委員会は支払期日が60日を超える手形を「割引困難な手形」として指導対象とする運用の見直しを発表しました。
新しい適用開始時期
2024年11月以降、下請法の運用が変更され、支払期日が60日を超える約束手形や電子記録債権の交付、一括決済方式による支払いは行政指導を受ける対象となります。
この新ルールはすべての商取引や契約に適用され、とりわけ中小企業に大きな影響を与えることが予想されます。企業は、この新しい規制に対応するために、契約内容の見直しやシステムの更新が必要です。適用開始に向けて、社内の業務プロセスを再構築し、取引先との交渉を円滑に進めることが重要です。
関連法規と行政指導のポイント
期日短縮に関連する法規は、「中小企業振興基本法」や「資金繰り改善策」に基づいており、これらの法規範によって中小企業の資金流動性を確保することを目指しています。
行政がこの新しい期日設定が適切に運用されているかを監視するため、企業はこれらの法規をしっかり理解し、適法な手続きで取引を進めることが求められます。
中小企業振興基本法とは
「中小企業振興基本法」は、日本における中小企業の健全な発展を促進するための基本的な法律です。この法律の目的は、中小企業が経済社会において重要な役割を果たすことを認識し、その振興を図ることにより、国民経済の健全な発展と国民生活の向上に寄与することです。
具体的には、中小企業が直面するさまざまな課題に対応するための政策がこの法律に基づいて策定されます。これには、技術革新の支援、経営基盤の強化、取引条件の改善、資金調達の円滑化などが含まれます。
資金繰り改善策とは
「資金繰り改善策」は、中小企業が抱える資金繰りの問題を解消するために、政府や関連機関が提供する支援策を指します。これらの改善策は、中小企業が安定した経営を維持するために、必要な資金を円滑に調達できるよう支援することを目的としています。
具体的には以下の施策により、中小企業が安定した資金繰りを確保し、持続可能な経営を行うことが支援されています。
- 融資制度の拡充: 公的金融機関や信用保証協会による低利融資や信用保証の提供。
- 支払条件の適正化: 取引先からの支払条件の改善や、長期化した支払いサイトの是正。
- 経営相談や助言: 専門家による経営改善のアドバイスや、資金繰りに関する相談窓口の設置。
新しい規制に違反した際の処置
2024年11月1日以降に支払に用いる約束手形、一括決済方式、電子記録債権のサイトが60日を超える場合は、下請法に定める親事業者の禁止行為に該当するとして、公正取引委員会から下請法に基づく指導を受ける可能性があります。
また、建設業法令遵守ガイドラインも同様に改正される予定です。手形サイトが60日を超える支払いは、建設業法第24条の6第3項に違反することになります。
・国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン(第10版)」
企業が直面する課題と対策
約束手形の支払期日が60日以内に短縮される新たな規制は、企業にとってさまざまな課題をもたらします。特に中小企業はその影響を強く受ける可能性があります。資金繰りの改善という恩恵もあるものの、短期間での現金の準備や取引先との調整が必要となります。また、キャッシュフローの見通しが不安定になる恐れもあります。それでも、事前に対策を講じておくことで、これらの課題を最小限に抑えることが可能です。まずは内部の資金管理体制を見直し、適切な予測と計画を立てることが重要です。
手形の支払期日はシステム管理がおすすめ
手形の支払期日を効率的に管理するためには、システムの導入がおすすめです。
紙ベースの手形管理では期日を逃してしまうリスクが高く、手作業のミスも発生しがちです。
そこで、手形管理システムを活用することで、支払期日の把握や通知機能を使って業務を効率化し、リスクを減らすことができます。また、システム導入により時間の節約や業務効率の向上が期待でき、手形管理をよりスムーズに行える環境が整います。弊社で開発している建設業ERPシステムPROCES.Sでは手形支払いの期日管理だけでなく、でんさいにも対応しています。
手形・期日払い管理モジュールの機能について知りたい方は「手形・期日払い管理モジュール」の機能紹介ページをご確認ください。