紙手形の廃止で経理業務への影響は?
2026年度末(2027年3月末)で紙の約束手形が廃止されます。建設業界では特に、工事代金の支払で長年利用されてきたため、今後の取引の支払サイトや自社の資金繰りにどのような影響が出るのか、不安を感じている事業者さまも多いのではないでしょうか?
この記事では、手形廃止に向けたロードマップから法令を遵守しながら資金ショートを防ぐための資金調達手段まで、わかりやすくお伝えします!
CONTENTS
01.約束手形の廃止はいつから? 政府のロードマップを整理
02.そもそもなぜ?約束手形廃止の目的
03.手形廃止に関わる法律は? 取適法と建設業法のルールを整理
04.手形廃止が元請・下請に与えるメリット・デメリットは?
05.手形廃止のなか、資金ショートを防ぐための3つの対策
06.関連サービスのご案内
07.よくある質問
約束手形の廃止はいつから? 政府のロードマップを整理
これまでの記事でもお伝えしたとおり、政府の方針を受けて2024年11月に下請事業者への手形サイトが60日以内になり、続いて2026年1月には取適法(正式名称「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、通称「中小受託取引適正化法」)の施行を受け、手形支払そのものが禁止になりました。
銀行界では、最終的には2026年度末(2027年3月末)を目途に紙の約束手形の交換枚数をゼロにする目標を掲げています。
ただ、2024年時点では電子交換所における手形・小切手の年間交換枚数は1,967万枚に達しており、年間削減枚数も目標値822万枚対比61%の501万枚に留まりました。目標達成が困難といえる状況を踏まえ、2025年3月、全国銀行協会(全銀協)は抜本的な取組みとして2027年度初から「電子交換所における手形・小切手の交換を廃止する」ことを決定しています。
三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行の3メガバンクはすでに、2025年をもって手形の発行受付を終了しています。手形発行終了の動きは、地方銀行や信用金庫にも拡大していますので、取引銀行の対応方針について早めの確認が必要です。
表1 手形廃止に向けたスケジュール
| 2024年11月 | 手形サイト60日以内が原則化。行政指導の対象に |
|---|---|
| 2025年 | メガバンクをはじめとする金融機関が手形発行受付を終了 |
| 2026年1月 | 取適法で手形支払そのものが禁止 |
| 2026年度末 | 手形交換枚数をゼロに(目標) |
| 2027年度初 | 電子交換所における手形・小切手の交換を廃止 |
手形廃止にあたっての注意点は?
- 手形の振出日に注意
- 決済方法の早期切替
すでに多くの金融機関が最終振出期限を設定しているため、振出日が2026年10月以降または振出日の記載のない手形・小切手については、手形交換所で交換されない可能性があります。取引先から受け取ることがないよう、注意が必要です。
すみやかに電子記録債権(でんさい)など資金決済方法の早期切り替えを検討し、取引先に周知する必要があります。
そもそもなぜ? 約束手形廃止の目的
政府と銀行界が一体となって推進する手形廃止ですが、その主な目的は下請事業者・受託事業者の資金繰り改善と手形機能の電子化による金融インフラの見直しです。
1.下請事業者・受託事業者の資金繰り改善
これまで、下請事業者の資金繰りにとって、支払サイトが長期にわたる手形は大きな負担でした。こうした状況は、言い換えれば下請事業者・受託事業者が元請事業者・委託事業者の運転資金を負担している状態ですから、健全な取引とはいえません。
中小事業者が資金繰りを圧迫されている状況を鑑み、中小企業庁はこれまでも手形による支払期間の短縮を推進してきました。支払サイトが60日を超える手形等は旧・下請法上の「割引困難な手形」に該当するおそれがあるものとして行政指導の対象とし、取適法においては手形支払そのものを禁止しています。
その業界の商慣行、親事業者と下請事業者との取引関係や金融情勢等を総合的に勘案して,ほぼ妥当と認められる手形期間を超える長期の手形を指す。※信用力が低いため、金融機関側での手形割引(期日前買取)にリスクが伴うと見做される。
令和6年(2024年)11月より手形の期間が60日を超えるものは「割引困難手形のおそれがあるもの」として指導の対象になっている。
2.手形機能の電子化
もうひとつの背景は、近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)への対応です。
もともと、手形による支払は印紙・郵送・保管・取立などの事務作業のほか不渡りリスクがあるなど、事業者・金融機関双方にとって負担が大きい決済手段でした。金融庁は、今回の手形廃止を機に、電子的決済サービス(でんさい等の電子記録債権やインターネットバンキングによる振込等)へ切り替えることで、双方のコスト削減、事務負荷軽減、リスク低減などのメリットにつながると説明しています。
手形廃止に関わる法律は? 取適法と建設業法のルールを整理
建設業の手形取引と支払サイトには、「取適法」と「建設業法」という2つの法律が関わります。
委託・下請代金の支払に関するルールがそれぞれの法律で定められているため、手形廃止にあたっては、両方の規定を整理しておくことが重要です。
1.取適法の規定
工事請負契約以外、例えば資材の購入や測量などの委託契約には、「取適法」(旧下請法)が適用されます。
取適法においては、約束手形による支払のほか支払サイトが60日を超える電子記録債権(でんさい)などでの支払が原則禁止されています(取適法第三条・第五条)。物品や役務を受領した日から起算して60日以内の可能な限り早い期間内で、現金による支払期日を定めなければなりません。
さらに、支払期日までに支払わなかった場合、日数に応じて遅延利息(年率14.6%)を支払う義務が新たに追加されました。支払サイトの見直しや資金繰り計画の再検討は急務といえます。
取適法第五条
委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為(役務提供委託又は特定運送委託をした場合にあつては、第一号及び第四号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。
(中略)
二 製造委託等代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと(当該製造委託等代金の支払について、手形を交付すること並びに金銭及び手形以外の支払手段であつて当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるものを使用することを含む。)。
2.建設業法の規定
工事請負契約には、建設業法が適用されます。建設業法では、元請負人が下請負人に対し、工事の目的物を受領した日(または完成を確認した日)から起算して50日以内、かつ、できる限り短い期間内に下請代金を支払うよう定められています。
また、支払が手形で行なわれる場合、その手形の満期日(支払期日)までの期間について、公正取引委員会が定める「割引困難な手形」に該当しないよう配慮する努力義務が課されています。
上記のように、建設業法では、工事請負契約について手形での支払が禁じられているわけではありません。ただ、紙手形自体が廃止に向かっているため、現実問題として対応策の検討は不可欠といえます。
建設業法第二十四条の六
特定建設業者が注文者となつた下請契約(下請契約における請負人が特定建設業者又は資本金額が政令で定める金額以上の法人であるものを除く。以下この条において同じ。)における下請代金の支払期日は、第二十四条の四第二項の申出の日(同項ただし書の場合にあつては、その一定の日。以下この条において同じ。)から起算して五十日を経過する日以前において、かつ、できる限り短い期間内において定められなければならない。
手形廃止が元請・下請に与えるメリット・デメリットは?
手形の廃止と支払サイトの短縮は、建設業における元請事業者と下請事業者の双方に大きな影響を及ぼします。
下請事業者にとっては長年のリスクが解消される一方、元請事業者は従来の資金繰りの前提が覆されるという課題が生じます。それぞれの立場から、メリット・デメリットを整理してみましょう。
1.元請事業者側の課題:資金繰りへの影響と業務負担
紙手形が廃止されることで、元請企業にとっては事務負担の軽減や印紙税などのコスト削減というメリットがある一方、資金繰りの悪化が懸念されます。
これまで手形で支払を先送りできていましたが、今後は現金(振込)や期日までに満額を現金化できる決済手段へ切り替える必要があります。この場合、建設業で起こりがちなのが帳簿上は黒字でもキャッシュフローが破綻するという状況です。これまで以上に、運転資金を厚く確保しておくことが重要です。
また、電子記録債権(でんさい)といった新たな決済手段へ移行する場合、会計システムによっては改修や新たな運用フローの構築、経理担当者の教育といった業務負担が発生します。また、協力会社に移行の説明を行ない、合意を取りつけるプロセスも必要となるため、計画的な準備が必要です。
元請事業者側のデメリット
- 運転資金の確保
- 資金繰りの悪化
- 新しい決済手段への移行
2.下請事業者側のメリット:資金繰り改善と不渡りリスク解消
一方、下請事業者側のメリットは少なくありません。最大の利点は、売掛金を早期に現金化できることです。支払サイトが短縮されることで資金繰りが改善し、経営の安定化につながります。新たな設備投資や人材確保など、事業成長に向けた投資も行ないやすくなるでしょう。
また、これまで下請事業者が期日前に手形を現金化する場合、金融機関に手形割引料を支払う必要がありました。手形が廃止され、現金振込やでんさいに移行することで、こうしたコストも不要になります。手形の不渡りリスクからも解放され、安心して取引に集中できるようになるでしょう。
下請事業者側のメリット
- 決済が迅速になり資金繰りが改善
- 不渡りリスクがなくなる
- 手形割引に伴うコストが不要に
- 事務負担の軽減
手形廃止のなか、資金ショートを防ぐための3つの対策
前述したとおり、元請側となる事業者にとっては、これまで支払を数カ月先延ばしにできた手形が廃止されることで支払サイトが短期化し、手元の現金が想定より早く枯渇するリスクが生じます。また、下請事業者にとっても、手形割引による現金化といった資金調達手段が失われることになります。
本項では、資金ショートを防ぐための代表的な手段を3つご紹介します。
1.手形廃止後の資金繰りシミュレーション
手形廃止の影響度合いは、事業者ごとに異なります。最初に行なうべきは、現状の資金繰りの把握と、手形廃止後のシミュレーションです。月々の入出金のタイミングや金額を洗い出し、キャッシュフロー計算書等を作成します。これにより、いつ、どれだけの資金が不足するのかを予測できます。
予測に基づき、具体的な資金調達の目標額を設定することが対策の第一歩です。
2.金融機関からの融資や公的支援制度を活用する
シミュレーションの結果、運転資金の不足が見込まれる場合は、早めに金融機関に相談し、融資を検討することも重要です。中小事業者の手形廃止への対応は、金融機関にとっても重要な課題です。相談にも前向きに応じてもらいやすいでしょう。
また、中小企業向けの融資制度や支援策も複数存在します(表2)。手形廃止に伴う資金繰りへの影響が懸念される場合は、自社が活用できる制度がないか積極的に情報収集を行ない、早めに金融機関へ相談しましょう。
表2 手形廃止に備えて知っておきたい資金調達制度
| 制度 | 概要 |
|---|---|
| 日本政策金融公庫の融資 | 一般貸付や小規模事業者向け融資など。運転資金・設備資金の調達向け |
| 信用保証協会の保証付き融資 | 保証人となって民間金融機関からの融資を受けやすくなるようサポート |
| 地方自治体の制度融資 | 地方自治体によっては、中小事業者向けに運転資金や設備資金の調達を支援する制度融資を設けている場合あり 【例】東京都中小企業制度融資・北海道の中小企業総合振興資金 |
| 中小企業庁のセーフティネット保証制度 | 取引先の倒産や売上減少、自然災害などにより経営に支障が生じている中小企業を対象に、信用保証協会が通常とは別枠で融資保証を行なう制度。資金繰りが悪化した際の支援策として活用できる |
3.ファクタリングなどの代替手段を検討
資金調達の代替手段として有力なのがファクタリングです。
ファクタリングとは、支払期日に達していない売掛債権(工事の未収入金など)をファクタリング会社と呼ばれる仲介業者に売却することで、スピーディに現金化できるサービスです。
即日から現金化できること、融資とは異なり負債を増やすことなく資金調達できる点がメリットです。保証人や担保も不要で、信用情報にも影響しません。
ただし、2社間ファクタリングの場合は手数料負担が高額で、もともと利益率が低い建設業では収益を圧迫する要因となるリスクもあります。常用はおすすめできません。
表3 ファクタリング方式の比較
| 契約方式 | 手数料相場 | 特徴 |
|---|---|---|
| 2社間ファクタリング | 5~20% | 取引先への通知が不要で、資金化までがスピーディ |
| 3社間ファクタリング | 1~9% | 債権譲渡について取引先の承諾が必要。そのぶん手数料を低く抑えられるのがメリット |
関連サービスのご案内
紙の手形廃止は、事業者側にとっては電子サービスへの移行や資金調達など、対応すべき事項が多い問題です。ただ、考えようによっては、経理業務全体の効率化を推進する絶好の機会ともいえます。
手形の電子化をきっかけに、請求書の受領から支払処理、会計システムへの連携までを見直すことで、紙書類の管理や押印、郵送といった作業を大幅に削減できます。また、ワークフローのデジタル化を進めることで、業務負担の軽減だけでなく、入力ミスや処理漏れの防止にもつながります。
さらに、電子記録債権やインターネットバンキングの活用により、資金繰りの状況をリアルタイムで把握しやすくなり、経営判断の迅速化も期待できます。
今後は、取引先との調整や社内体制の整備を計画的に進めながら、自社に適したデジタルツールの導入を検討し、より効率的な業務運営を目指していくことが求められるでしょう。
建設業のバックオフィス業務を支援する建設業ERPシステム“PROCES.S”なら、従来の紙の手形管理だけでなく、電子記録債権(でんさい)やファクタリングも同じように管理できます。支払データや財務データとも連動するので、二重入力などの非効率もなくスムーズな事務処理が可能です。
手形廃止に関連の深い取適法についてわかりやすく解説した資料とともに、PROCES.Sの製品資料をご用意しました。ぜひ、貴社の業務効率化にお役立てください。
よくある質問
- Q. 2026年以降、紙の手形は完全に使えなくなるのですか?
- A. 2026年度末(2027年3月末)に全国の手形交換所が機能停止するため、銀行を通じた手形の取立・決済は事実上できなくなります。
- Q.でんさいとはなんですか?
- A.紙の手形の代替となるでんさいは電子記録債権の略で、手形に代わる電子決済手段です。紙の手形と同様の機能を電子的に実現したもので、手形と同様に分割して譲渡したり、割引(現金化)したりすることが可能です。また、印紙税や郵送費用もかからず、紛失や盗難のリスクもありません。ただし、利用には元請・下請双方がでんさいネットに加入し、取引銀行を通じて利用契約を結ぶ必要があります。
- Q.手形が廃止されると中小企業の資金繰りはどうなりますか?
- A.支払サイトが短期化することや手形割引が利用できなくなることから、一時的にキャッシュフローが悪化するリスクがあります。対策として、ファクタリングやビジネスローンなどを検討し、事前に資金繰り計画を見直すことが重要です。
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