建設業の2024年問題と長時間労働対策

 2024年4月から、建設業でも時間外労働の上限規制が適用されます。工期の影響を受ける建設業では労働時間について他業種より長時間になりやすい傾向があり、その改善は容易ではありません。上限規制が適用されることにより起こるであろう諸問題、2024年問題。その詳細とITツールを用いた対策、法改正に伴い必要となる事務手続きまでをお伝えします。

2024年問題とは

2024年問題とは

 2024年4月から建設業界にも時間外労働の上限規制が適用されます。それに伴い法令違反のリスクや人材不足の深刻化という問題が想定されます。

2024年問題とは

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

時間外労働の上限規制の概要(1)原則

 法令労働時間は1日8時間、1週間40時間が原則ですが、36協定の締結により時間外労働が可能となります。この時間外労働について、特別な事情が無い場合、月45時間、年360時間を超えて働かせることは出来ません。変形労働時間制適用の場合は、月42時間、年320時間です。

 ただし、臨時的な特別な事情がある場合に限り、月100時間、年720時間の時間外労働が年6回まで認められます。ただ2~6カ月平均で80時間以内に収める必要があります。

時間外労働の上限規制の概要(2)改正前と改正後の比較

 改正前、労働時間の上限は特に設けられておらず、月45時間、年360時間の労働時間は大臣告示による運用とされており、違反したとしても特に罰則適用はなく、行政指導のみでした。

 法律改正後は時間外労働の上限が明文化され、建設業においても2024年4月以降は、違反した場合は罰則が適用されます。

時間外労働の上限規制の概要(2)改正前と改正後の比較

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

時間外労働の上限規制の概要(3)適用除外

 災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合、この上限規制は適用されません。想定される場面としては、地震、津波、雪害、火災等への対応、人命救助などがあります。ライフラインの維持・保守や道路の早期復旧のための作業などは上限規制の対象外となっています。

 時間外労働の上限規制の適用を除外するためには、事前あるいは事後、所定の様式を労働基準監督署への提出する必要があります。

時間外労働の上限規制の概要(3)適用除外

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

時間外労働の上限規制の概要(4)必要な手続き

 2024年4月以降、新しい36協定(特別条項)の様式を使います。月45時間、年360時間を超えない場合は、従来と変わらない一般条項のみの36協定様式を使用しますが、上限規制を超える臨時的な時間外労働が必要な場合は、特別条項付きの36協定を締結する必要があります。

時間外労働の上限規制の概要(4)必要な手続き

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

時間外労働の上限規制の概要(5)36協定(特別条項)の様式

 特別条項付きの36協定の様式では、限度時間を超える場合の業務内容、年に何回になるかという回数(6回以内)、想定される月の時間外労働時間数(100時間未満)、想定される年間の時間外労働時間数(720時間以内)の記載が必要です。また、労働させる場合の手続きとして、労働者への事前の申し入れなどを記載する項目、そして労働者の健康および福祉を確保するための措置として、例示された項目の中から選択して記載する項目があります。この記載例では③の勤務間インターバルを選択し、11時間の勤務間インターバルを設定すると記載しています。

時間外労働の上限規制の概要(5)36協定(特別条項)の様式

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

2024年問題の影響(1)法令違反リスク

 時間外労働の上限規制に違反した場合、罰則が適用される可能性があります。罰則が適用され、悪質だと判断された場合は、営業停止処分を受けるリスクも考えられます。

2024年問題の影響(1)法令違反リスク

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

2024年問題の影響(2)人材不足

 人材不足は一番大きい問題だと思います。長時間労働が制限されるため、人手不足がより深刻になると考えられます。長時間労働や休日労働を前提とした工期はかなり厳しくなると思われますし、労働環境の悪化による離職のリスクもあります。例として、大阪万博のパビリオン建設工事では、工期の厳しさや人件費、材料費の高騰により、建設業者による受注の手控えが起きています。作業量が多いため人手不足によりうまく現場が回らないという話もありました。

2024年問題の影響(2)人材不足

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

建設業に対する時間外労働の上限規制に関するQ&A(一部抜粋)

 会社に集合して社用車で工事現場に向かう場合の移動時間は労働時間になるでしょうか。労働時間に該当するのは、社用車を使うことが指示されている場合、社用車に資材の積み込みをする場合、車内で上司との打ち合わせがある場合などです。労働時間に該当しないのは、現場への移動が労働者の意思に任されている場合でした。これは会社の指揮命令下にあるかどうかが重要です。


 降雪に備えて自宅待機をしている時間が労働時間になるか、という点については、自宅における本人の自由な行動の有無によって、労働時間とみなすかどうかが決まります。

建設業に対する時間外労働の上限規制に関するQ&A(一部抜粋)

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

建設業の実態

建設業の労働時間

 2022年の建設業の労働時間は、産業全体の労働時間に比べ約1.2倍、時間にして328時間長い、1,962時間だったとのことです。この労働時間の長さは休日の少なさが影響していると思われます。2014年以降徐々に減少してきていますが、特に2020年、2021年はコロナ禍の影響で工事が落ちついていたと考えられます。

建設業の労働時間

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

建設業の休日数

 産業全体の年間労働日数は約211日ですが、建設業では240日となっています。全産業対比で約28日も労働日数が多くなっています。休日数の実態を見ると、完全週休二日制に近い4週8閉所の事業所は36%強ですが、週休1日の事業所は27.4%、それ以下の事業所が6.4%もあります。このような働き方では時間外労働の上限規制を守ることは厳しいのではないかと思われます。

建設業の休日数
建設業の時間外労働の現状

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

建設業の時間外労働の現状

 建設業における時間外労働時間の実態を見ると、全体平均では6割超の人が45時間以内で働いていますが、1割強の人が80時間を超えております。これが続いた場合、また、45~60時間の14.9%、60~80時間の13.5%の人も45時間を超えることが常態化した場合、上限規制に触れることになります。

建設業の時間外労働の現状

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

長時間労働の要因分析

 労働時間は、現場作業時間と事務作業などの付随業務時間に分けられます。この2つを足したものを労働者数で割ることで1人当たりの労働時間が算出されます。

長時間労働の要因分析

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

長時間労働の要因(1)現場作業時間

 現場作業が長時間になってしまう要因としては、無理な工期設定が挙げられます。工期延長により損害金が発生することがあるため工期を遵守せざるを得ず、時間外労働や休日出勤の増加につながるという実態があります。無理な工期の契約をしないことや工期の後ろ倒しの相談などが必要になるかもしれません。

 2020年10月に建設業法が改正され、無理な工期設定、つまり著しく短い工期の禁止が明文化されました。時間外労働の上限規制に抵触するかどうかが「著しく短い工期」の判断材料の1つになると思います。元請事業者は著しく短い工期を設定しないことが必要になるため、下請企業の時間外労働状況の把握が求められるのではないかと思われます。

長時間労働の要因(1)現場作業時間

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

長時間労働の要因(2)付随業務時間

 付随業務のうち長時間労働の要因となっているものに移動時間と紙業務があります。会社の命令により一度会社へ集合し現場に向かう場合は、その移動時間が労働時間とみなされるため、現場への直行・直帰が労働時間の削減となります。また建設業には元請企業への報告などの事務作業が多いという印象があり、この紙業務の効率化が労働時間の削減のための需要なポイントだと思います。

長時間労働の要因(2)付随業務時間

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

長時間労働の要因(3)人材不足

 建設業では若年層や外国人労働者の離職率が高い傾向にあります。その結果1人当たりの労働時間が増えることになるため、離職率の低減が求められます。また作業のきつさや安全性への不安など建設業に対するネガティブイメージがあり、入職率が低くなっていると思われます。

長時間労働の要因(3)人材不足

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

 企業が考える若年技能労働者が定着しない理由として、「作業がきつい」「職業意識が低い」「人間関係が難しい」「賃金が安さ」「休みが取りづらい」などが挙げられています。一方、実際に離職をした労働者が辞めた理由としては「雇用が不安定」「遠方の作業場が多い」などがあり、企業側の認識と大きなギャップがあります。その他離職者側に挙げられている「休みが取りづらい」「労働に対して賃金が安い」「作業に危険が伴う」という理由は企業側の認識にも上位に位置しています。

 休みの取りづらさや安い賃金に関しては、長時間労働対策によって改善できる可能性がありますし、作業場が遠方であることの不満に対しては移動手段の効率化などの対策が有効ではないかと思います。

長時間労働の要因(3)人材不足
長時間労働の要因(3)人材不足
長時間労働の要因(3)人材不足

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

建設業の抱える課題

 労働者の離職防止のためには、労働時間の削減や休日数の増加などの労働環境の整備・改善が必要です。雇用の不安定という課題に対してはキャリアパスを明瞭化していくことが求められます。

 入職率を上げるためにはWebサイトからの情報発信やSNSを用いて現場の作業員の状況や雰囲気などを伝えていくことも有効でしょう。また高校や大学へ積極的な相談や連携を行うことも必要になります。

建設業の抱える課題

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

建設業における長時間労働対策

建設業における長時間労働の要因

 長時間労働の要因としては、現場作業、付随作業、労働者数が挙げられます。そのうち自社のみで対応可能なものは、移動時間の効率化、紙業務の削減、離職率の低下です。

建設業における長時間労働対策

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

付随業務の長時間化に係るブレークダウン

 前述の通り、出社後に現場へ移動する場合、移動時間が労働時間になるケースが多くなります。多くの場合、タイムカードを押したり、日報などの書類作成業務を行ったりするために、出社が必要となっています。これを解決するためには、紙作業をITツールに置き換えることが有効です。タイムカードや日報の電子化により、事務所との往復が不要になり労働時間が短縮できるわけです。

付随業務の長時間化に係るブレークダウン

付随業務の長時間化に係るブレークダウン

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

ITを用いた長時間労働対策

 まず、紙を使用する報告書業務の電子化が考えられます。専用のシステムを使用することで、書類の一括管理、入力の無駄の削減、入力ミスのチェックの効率化などができます。これによって移動時間の短縮、ひいては労働時間の短縮が可能となり、離職率の低下につなげることができます。

 求められるITツールの要件としては、ネット上で完結し、リアルタイムに情報更新ができること、現在使用中の報告書等の項目が網羅できていること、共有漏れを防止するために必須項目を設けることなどが挙げられます。

ITを用いた長時間労働対策

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

建設業における長時間労働対策

 紙作業のために出社が必要な場合の一日の流れです。7時に出社、現場に移動し現場作業の後、事務作業のために会社に戻り19時に退社した場合、実働11時間で3時間の時間外労働時間が発生します。出勤日数を月20日とした場合、60時間の時間外労働が見込まれ、上限規制の45時間を超えることになります。

建設業における長時間労働対策

建設業における長時間労働対策

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

 紙業務をITツールに置き換えた場合を確認します。現場に直行し、8時にスマートフォンなどから勤怠システムを使用して打刻をし、現場作業の後、18時にWEBアプリで報告などの事務作業を終え帰宅します。この場合直行・直帰の時間は労働時間に含まれないため、労働時間は8時から18時で実働9時間となり、時間外労働時間は1時間となります。月の時間外労働時間は20時間となり、上限規制はクリアすることになります。

 紙業務のIT化によるメリットとしては、労働時間の短縮、紙の管理コストの削減、先進的な取り組みのアピールにより求職者の増加などが見込まれます。

 一方デメリットとしては、ITツールの利用料がかかることがあります。しかしこれは交通費や割増賃金との相殺が可能です。またITツールの操作学習のための時間が必要です。学習期間を長引かせないためにも、経営陣が主導し、現場の作業員に対してトップダウンで学習推進をしていく必要があります。

建設業における長時間労働対策

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

総括

 2024年問題が間近に迫り残業時間の短縮が急務となっています。また2024年問題の影響により、更なる人材不足が懸念され、その背景には紙を用いた業務や出社を必要とするがゆえの移動時間など、非効率な業務の影響があります。

 今後求められる対応としては、まず2024年4月1日から新たな36協定書の提出が必要です。それと並行して労働時間を適切に管理し、労働時間の削減、休日数の確保が必要になります。紙を用いた業務や移動時間などの無駄なくし、労働時間を削減するためにIT活用が必要不可欠になると思います。時間外労働時間については、今後も注視されるポイントとなることから、迅速に対応を進めることが重要です。

総括

出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より

高橋氏
 講師ご紹介 

RSM汐留パートナーズ社会保険労務士法人
パートナー 社会保険労務士
高橋 佑介 氏

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