ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法

 社会変革をもたらすテクノロジー「汎用技術」とされる生成AIの市場規模は、年42%のペースで成長しています。話し言葉の指示で文章やアイデアの生成、思考アシストなどを行なうChatGPT登場以降、日本でも注目が高まっているのはご存知のとおり。人手不足問題や技能者の高齢化といった問題を抱える建設業では、特に必須の技術といえるでしょう。清水建設や大林組での成功事例を紹介しながら、生成委AI活用の進め方を解説します!

ChatGPTの概要

生成AI・ChatGPT概要

 本日は「ChatGPTの概要」「建設業のDX課題」「ChatGPTによる解決アプローチ」の3部構成となっています。

 ChatGPTとはOpenAI社が公開している自然言語で対話できる生成AIです。ユーザーが命令の情報を伝えると、ChatGPTがその内容を解釈して、人間のように返答したり文章を生成して返したりしてくれます。生成AIは世界にある大量のデータを学習し、画像やテキストを自動生成する技術です。この技術により、これまでなかったものが生成可能となり、ビジネスに多くのブレイクスルーを起こすことができるようになります。ChatGPTの最新バージョンがリリースされたことにより、日本では今年3月頃から話題となっています。

衝撃

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

世界の生成AIの市場規模

 アメリカの大手総合情報サービス会社であるブルームバーグ社は、世界の生成AIの市場規模は年42%のペースで成長し、今後10年間で180兆円の規模に拡大していくと予測しています。その中でも、ChatGPTを出しているOpenAI社の企業価値は特に高く、他の企業の10倍程度となっています。

OpenAIの企業価値

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

 ChatGPTは、過去の活版印刷や電気、自動車、コンピューターなどと同等の、社会変革をもたらすテクノロジー「汎用技術」であるといわれています。ChatGPTでは、話し言葉の指示でプログラムを生成、実行、結果を出力してくれるCode Interpreterという新機能も出ています。

GPTの影響が大きい業界、業務ツールへの統合

 ChatGPTは言語的なタスクや、情報・知識活用、カスタマイズ性、繰り返し作業、リモートなどを得意としています。これらの業務が多い業界として、スライドに金融・保険、メディア・コンテンツなど10業種を挙げました。特に人材、教育、住宅・不動産、医療・福祉、官公庁など、従来DXがあまり進んでいなかった業界では、ChatGPTにより一気にDXが進む可能性があります。

 ChatGPTのテクノロジーは、Microsoft 365 CopilotやZoom、Salesforce、Notionなどさまざまな業務ツールへの統合も予定されています。

影響ある業界

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

ChatGPTによるDXのブレイクスルー

 従来DXの課題として「事業的課題」「組織的課題」「技術的課題」の3つがあります。これらを解決できるのは、人材やリソース、資金が豊富にある先進的な企業や、一部の大企業などに限られていました。しかし、ChatGPTの登場により「知的生産のアシスト」「デジタルを自然に」「知識を資産化」ができるようになり、ブレイクスルーが起こせるようになりました。

 Microsoftは、AIを活用した業務支援サービスをCopilotと言っています。人間と一緒に、隣で仕事をしてくれる存在としてAIがこれから活躍していきます。それにより、デジタル組織と事業組織の分断を超えて、全てのビジネスパーソンがデジタル変革を推進していけるようになるでしょう。

copilot

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

ChatGPTでできること、ChatGPTのユースケース例、移行期に求められる転換

 ChatGPTには文章要約や文章生成、アイデアの生成、思考アシストなどの機能があり、さまざまなユースケースで活用可能となります。これからは、より機動的で探索的なDX推進への転換が求められるようになるのではないでしょうか。

生成AIでできること

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

優位性構築:独自知識がカギになる

 この革新的なテクノロジーをうまく使えた企業が、競争に勝ち残っていきます。アウトプットの品質を良くするために、「プロンプト入力」と「モデル外からの知識インプット」が鍵になります。プロンプトとは命令文のことです。どのような命令を出すかで、アウトプットが変わってきます。しかし、プロンプト入力は習熟が比較的容易なため、大きな差別化要因にはなりにくいと考えます。一方、モデル外からの知識インプットでは、一般には手に入らない自社固有データから作成した独自知識をインプットすることで、競争力の向上につながります。独自知識が優位性の源泉になるのです。

独自知識がカギになる

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

ChatGPTのリスクと対策

 ChatGPTが情報漏洩につながるのではないかと、セキュリティー面を懸念される声をよく聞きますが、きちんと対策をすれば企業での使用は問題ないと考えています。①情報漏洩対策、②著作権・プライバシー、③情報の正確性に分けて、リスクと対策をスライドに記載しています。ご参考ください。

注意事項のまとめ

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

建設業のDX課題

建設業の業界トレンドとDXの状況

 建設業界は生産性向上の強いプレッシャーを受けていると思います。国土交通省の資料「建設業を巡る現状と課題」を見ると、建設投資はピーク時の平成4年度から落ち込み、平成22年度以降は増加傾向にあります。建設業者数や就業者数はピーク時の2~3割の減少傾向となっており、市場規模の増加と人や業者の減少でギャップが出ています。

建設業の業界トレンド

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

 年齢分布を見ても、60歳以上の技能者が多く、全体の約4分の1を占めており、10年後には大半が引退します。一方、29歳以下の割合は減少しています。若手の確保、育成が喫緊の課題となっています。また、働き方改革関連法の適用が始まる2024年問題もあります。

 国も建築業界の厳しい状況を認識しています。国土交通省を主体として省横断的にDXに取り組むためのインフラ分野のDX推進本部を立ち上げ、データとデジタル技術の活用が促進されています。

建設業の業界トレンド:年齢分布

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

国内建設業のDX成功事例

 国内の建設業DXの成功事例としてDX銘柄2023選定企業のうち2社を紹介します。DX銘柄とは、経産省が選定した、優秀なデジタル活用の実績を残している企業を指すものです。

 1つ目が清水建設株式会社です。「Shimzデジタルゼネコン」構想を発表しています。フォークリフト型の自動搬送ロボットでトラックからの荷降ろし作業を自動化する施策や、全国の作業所にデジタルサイネージを導入し、伝達情報をデジタルコンテンツで配信する施策などを行っています。

 2つ目が株式会社大林組です。DX戦略を発表し、現場の稼働状況をリアルタイムに反映する「4D施工管理支援システム」の開発や、ビジュアル工程管理システム「プロミエ」による一元管理などの施策があります。プロミエに施行の進捗や出来高報告、請求処理までを統合することにより、作業効率が大幅にアップしているようです。

建設業界のDX課題

 建設業界では、地場・中堅のマネジメントDXが他に比べて遅れており、個別の現場業務単位での生産性向上はできても、企業経営単位での改革が進みづらい状態になっています。

2つのギャップ

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

 マネジメントDXとは、スライドの「マネジメントDXの例」に挙げたように、「課題解決のデジタル化」であり、単純なツール導入による効率化だけでなく、データドリブン経営に変革していく必要があります。しかし、マネジメントDXは困難でなかなか進まない状況があります。それは、プロジェクトの予算オーバー、人材のミスマッチ、事業のコスト構造非効率など多くの問題があるからです。このような問題が起こるのは、プロジェクトが有機的、コストやリソースが多様、データ不足・未整備、分析体制・プロセス不足、IT・仕組みの不十分があるためです。このことにより、情報が複雑になり、分析するための人材も不足していて、データ活用のコストが高くなり、経営意思決定に活用できるレベルでのデータ分析が難しくなっています。

マネジメントDX とは

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

 これを解決するのが「データとの対話力」になります。ChatGPTを活用して、データとの対話力を上げて解決するのです。

ChatGPTによる解決アプローチ

生成AI活用の先進事例

 生成AI活用の先進事例として、海外のスタートアップ企業3社を紹介します。

 Sparkel社は、設計図書の解釈を助け、時間とコストを節約するAIソフトウエアを開発しました。ChatGPTを用いて、図面から必要な情報を引き出してくれます。BIMモデルやPDFに質問できることが利点です。プロジェクトごとに4万ドル以上のコスト削減が可能となります。

 TOGAL.AI社は、建設業向けのプラットフォームで、文書管理を強化する新しい機能としてChatGPTを統合しました。計画書や契約書、見積もり、スケジュールなどの文書から、自然言語を用いて、必要な情報を問い合わせることができます。

 DigiBuild社は、建設業界向けの供給チェーンおよび建築資材ソフトウエア企業で、ChatGPTの活用により、供給業者とのやりとりやスケジューリングが数秒で済むようになったと発表しています。

建設業のChatGPT活用ユースケース

 現在、建設業でのChatGPT活用は、企業が自社で試行錯誤するステージではないかと思います。営業から施工、メンテなどの建設業のバリューチェーンの中で、PM・施工管理、技術者、事務、経営管理がどのように生成AIを活用できるかを挙げ、スライドの一覧にまとめています。

生成AI 業務活用イメージ:建設業

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

 現場監督の施工管理をアシストするという使い方があります。データとして工事進捗や作業報告、人材のデータ、現場監督業務の自社マニュアルやナレッジを使い、AIを通して工事進捗状況把握や対応策検討をアシストしてもらうことが可能となります。

PM
・施工管理:現場監督の施工管理アシスト

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

 事務でヘルプデスクなどの問い合わせ対応をする場合、過去の対応履歴データや対応の基礎となるマニュアルやドメイン知識を活用し、質問対応の効率化、省力化が可能となります。

事務:問い合わせ対応

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

 経営管理のコスト分析のユースケースでは、自社のビジネスやコストの構造に関する知識を入れておき、プロジェクトのコストデータを社内に蓄積します。そうすることで、経営管理責任者がプロジェクトのコスト状況を分析することが容易になり、問題解決や意思決定を迅速化できます。

経営管理:コスト分析

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

ChatGPT活用の進め方

 ChatGPTの活用を進めるポイントとして、①ビジネス主導、②アジリティ、③組織的習熟、④知識基盤の構築、⑤リスク管理の5つが重要となります。

 先ほど自社固有データから作成した独自知識が優位性の源泉になると説明しました。企業が自社データを基にChatGPTを利用する際、課題解消のために、自社独自のプライベートなChatGPT・データ活用環境の整備が必要となります。

 経営管理のコスト分析のユースケースでは、自社のビジネスやコストの構造に関する知識を入れておき、プロジェクトのコストデータを社内に蓄積します。そうすることで、経営管理責任者がプロジェクトのコスト状況を分析することが容易になり、問題解決や意思決定を迅速化できます。

ChatGPT活用のポイント

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

①ビジネス主導のプロセス

 ChatGPT活用スタートダッシュは、①ビジネス主導と②DX主導の2つのアプローチが考えられます。ビジネス主導を取る場合、現場の人に取り組みに賛同してもらうことが鍵になります。特に課題の共感や、AIへの理解が大切となります。その上で、ChatGPT活用により知的生産を高め、それを体感してもらいます。そして、現場での活用に取り組み、成果につなげていきます。重要なのは「共創体験」です。

①ビジネス主導のプロセス

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

 われわれがこれまで実施したワークショップから、重要だと考えるポイントを紹介します。ワークショップでは、例えばマーケティングチーム、営業チーム、事務員チームなど同じ職種の人を集め、チームに分かれます。チームごとに活用のアイデアを出して、実際にChatGPTと会話をしてみます。

 実際に試したものはどれぐらいのインパクトがありそうか、収益がどれぐらい上がりそうか、コストがどれぐらい下がりそうかなど、ユースケースの有効性を検討します。また、こういうことがうまくいったので他にも使えるかもしれない、こういうふうにブラッシュアップすればいいなど、改善/発展のアイデアも考察します。そして、これらのチームの成果をワークショップの最後に発表して、共有します。

 このような活動を通じて、全社的にChatGPT活用の風潮をつくるアプローチが、ビジネス主導のスタートダッシュの方法です。

②DX主導のプロセス

 もう一つのDX主導は、従来のDX推進に近いアプローチです。ビジネス主導で進めようとしても、現場との調整や時間の確保、スケジュール、環境面の準備など多くの課題が出てきます。それらの課題の調整が難しい場合は、従来のやり方で、実証実験などで早期に成果を出して、その成果を社内に展開して進めていきます。

②DX主導のプロセス

出典:「ChatGPTを活用して建設会社の業務生産性課題を解決する方法」セミナー資料より

 オーソドックスなDXの進め方になりますが、社外・競合・顧客の環境を調べて、どこにChatGPTが使えそうなのかと課題を洗い出します。そして、そこに事務の効率化やマネジメントのDXなど、具体的に想定されるユースケースを考えていきます。優先度を考慮し、有効性や実現性が高いケースで実験をしてみます。AIの実験環境で、実際にデータを加工して、AIを使用し、想定しているユースケースの効果が出るのかどうかを実験します。そして、うまくいったものを第1弾の施策として実用化していきます。

 今回の講演を受けて、ぜひ皆さまにChatGPTの活用を進めていただければと思います。

森一真氏近影
 講師ご紹介 

株式会社リブ・コンサルティング
先進テクノロジーユニット
ACROBAT所長
森 一真 氏

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