1.はじめに
前回はジョイント・ベンチャー(以下、「JV」とする。)の概要と種類についてまとめました。今回は前回に引き続きJVについて、会計処理にフォーカスしてご説明したいと思います。
2.前回のおさらい
まず、前回ご説明したJVの種類について、目的、施工方式によりいくつかの種類に分類されるとご説明いたしましたが、当該区分別の種類をおさらいしてみたいと思います。
分類 | JV区分 | 組成目的 / 施工方式 |
---|---|---|
目的区分 | 特定建設工事 共同企業体 |
大規模かつ技術的難易度の高い工事に際して、技術力を集結し安定性を確保する目的 |
経常建設 共同企業体 |
中小・中堅建設企業が協業関係を構築し、経営力・施工力を強化する目的 | |
地域維持型建設 共同企業体 |
地域の複数の建設企業の協同を促すことで、持続的に地域維持事業を実施する目的 | |
施工方式区分 | 共同施工方式 | 出資割合に応じて、資金・人員・機材などを拠出して施工を行う |
分担施工方式 | 工事個所別などに分担してそれぞれ施工を行う |
3.JVの会計処理について
JVの会計処理は建設省の告示によると「共同企業体は、原則として独立した会計単位として経理する。」とされています。それに従えば、独立会計方式により処理するべきですが、実際には事務処理上の煩雑さから多くのJVでは取り込み方式を採用しています。
(1)取り込み方式
取り込み方式は、代表会社の会計システムの中にJVに係る全ての取引を取込んで処理することをいいます。この方式を採用すれば、JV工事の進行過程において代表会社の試算表等の財務諸表に、JVの会計データが混入することになります。この方式では、将来のある時点において、出資比率に応じた代表会社の分と構成員会社の分とに分け、修正する必要が生じます。この修正のやり方には次の二つがあります。
①逐次持分把握法
個々の取引の都度、自社の出資比率部分と他の構成員の出資比率の部分を区分して処理する方式。
②決算時持分把握法
個々の取引ではJV全体の処理をし、出資比率に応じた修正をJV決算時や構成員会社の決算時に実施する方式。
(2)独立会計方式
独立会計方式は、独自の会計単位を設け、独立した会計処理とその報告システムをもつことです。JVに参加した個々の企業(構成員)の会計から離れて独立した共同企業体としての会計を別個に実施することを意味します。
なお、どちらの方式を採用することになっても、決算時(最後)の会計情報は同じになります。
JVにおいて、損益計算、原価計算が的確に実施されるためには、その前提となる会計処理が、構成員企業間で合意された統一基準に基づいて、迅速、明瞭かつ一元的に行われる必要があります。したがって、共同企業体で採用されるべき会計処理方法については構成員間で予め取り決めをしておかなければなりません。
なお、経理事務の最高責任者たる所長は、毎月末日現在の共同企業体に関する財務諸表を作成し、毎月各構成員へ提出しなくてはならないとされています。
4.おわりに
今回はJVの会計処理についてまとめてみました。「建設工事共同企業体(JV)の会計処理-会計処理の実態調査とガイドライン-」(財団法人建設業振興基金)によると、「今後、JV制度が持続的に発展していくためには、社会に対してJV自体としてのアカウンタビリティを果たす必要があり、そのためにはJVの会計制度の信頼性と透明性が求められる」と記載があり、当該信頼性と透明性に資する情報として、建設工事共同企業体(JV)の会計処理ガイドラインを公表しております。
当ガイドラインは実際の建設会社で採用されている仕訳を調査・検討したうえで適切な仕訳を採用していることから、比較的実務に即した仕訳が列挙されておりますので、JVの会計処理に悩んだ際は、当ガイドラインを参考にされてはいかがでしょうか。
第2回に分けて建設業におけるJVの概要・種類・会計処理を見てきました。建設業はその業態柄、多額の金額がその構成員企業間で動くこととなりますので、取引一つをとっても細心の注意を払う必要があります。また、工事は長期間に渡ることもあり、期間帰属の判定にも留意が必要です。今回は会計処理の概要を簡単にまとめさせていただきましたが、どういった会計処理をJVで採用するのかは選択の余地があるため、予め構成員企業間でしっかりとコミュニケーションを図った上で、意思統一をすることが重要であると思われます。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。