1.はじめに
コロナ禍の影響が落ち着いた昨今ですが、物価高騰や歴史的な円安、株価の暴落など、世界規模で起きた出来事が私たちの日常生活にも大きな影響を及ぼし、不安が渦巻く時代が続いています。円安については企業業績を好転させていることもありますが、多くの事象はあらゆる産業界に大きな打撃を与え、コロナ関連の支援が終了した頃から倒産件数は増加しています。建設業も例外ではなく、非常に厳しい状況が続いています。そこで今回は帝国データバンクのデータを基に建設業の倒産動向をおさえていきたいと思います。
2.建設業の倒産動向~2023年の振り返り~
まずは2023年の建設業界の倒産状況からみていきたいと思います。帝国データバンクの調査によれば、2023年の倒産件数は1,671件と8年ぶりに1,600件を超えました。これは前年度比+38.8%であり急増しているといえます。これはコロナ禍で実質無利子・無担保での貸付等の支援政策により抑えられていた倒産が、政策的な支援策が終了したことにより顕在化したものとみられています。このような急激な倒産の増加はその取引先への影響も大きくなる可能性が高く、更なる倒産を招きかねません。倒産企業を規模別にみると小規模事業者が大きな割合を占めており、建設業もそれは同様です。背景には建築資材の高騰や人手不足が挙げられ、この状況は2024年に入った現在も回復傾向がみられません。
3.2024年上期の倒産動向
では2024年に入ってからの動向について同じく帝国データバンクのデータをみていきたいと思います。
全業種における倒産件数は4,887件と前年同期に比較して881件、+22%増となっています。その一方で、倒産企業の負債総額は約6,810億円と前年同期の金額9,065億円を大きく下回り、このことからも中小企業の倒産が増加していることが伺えます。業種別にみると、サービス業1,228件、小売業1,029件、建設業はそれに続く917件となっています。917件のうち、従業員数が10人以下が843件とやはり小規模事業者の倒産が圧倒的多数を占めました。業種別でみると、「職別工事業」が418件、「総合工事業」が307件、「設備工事業」が192件となっています。これらは前項で記載したように建築資材の高騰や人手不足やそれに伴う人件費の高騰が大きな要因となっています。そこで次項から、この2つの倒産について深堀りしてみたいと思います。
4.建設業界における物価高倒産
物価高による倒産は全業種で484件となり、年間1,000件に達するペースで推移しています。業種別にみると建設業が最多の124件となっています。物価高がいかに建設業に打撃を与えているかが明確に示されています。そして、物価高つまり仕入れ価格の高騰が価格転嫁できていないという事実もみてとれるでしょう。一般社団法人 日本建設業連合会のパンフレット(2024年8月版)によれば、建設資材物価は価格高騰が始まる前の2021年1月と比較して32%増加しているといわれています。また、ウクライナ情勢やコンテナ不足等により建築資材の納期が大幅に遅れるケースが増えています。その場合、よく行われるのが、納期遅延をカバーするために代替品を調達し、本来の資材到着後に再度工事を行って引き渡し完了させるといった方法です。この場合、仮資材の調達や追加工事の費用については契約時に見積れなかった想定外の事項であるため、価格転嫁するのが難しい現状があります。公共工事では物価水準の変動を請負金額に反映させる「スライド条項」が契約に盛り込まれるのが一般的ですが、民間工事ではなかなか受け入れてもらうのが難しい状況です。
5.建設業における人手不足倒産
続いて建設業にとって深刻なのが人手不足による倒産です。全業種で182件ですが、そのうち、建設業が53件と全体の約3割を占めます。いわゆる「2024年問題」といわれる時間外労働の上限規制が適用されたことが大きく影響しました。倒産は前述したように中小規模の事業者が中心です。建設業全体ではDX化など省人化に向けた取り組みのような人手不足解消への動きが進んではいるものの、現状でそれに投資できているのは一定の資本力のある企業だけであるという状況が浮き彫りになったといえるでしょう。
また、建設業界全体における人手不足は人件費の高騰を招き、前項の物価高倒産にもつながります。原価のうち、人件費の占める割合は建設業においては30%前後といわれるため、人件費の高騰は原価率の上昇に大きな影響があります。
6.おわりに
コロナ禍以降、ゆるやかに上昇してきた倒産件数は2024年に入り急増しています。産業界全体の傾向であり建設業だけの問題ではありませんが、物価高や人手不足等の社会問題の影響が特に大きく出る結果となりました。
建設業は1人親方や従業員数が少ない事業者が多く、資本力のある企業は一部に限られます。そのため、コロナウィルスの流行やそれに続く物価高、「2024年問題」等、社会問題が立て続けに発生するとそれに耐えきれる財務体力を持ち合わせていない事業者は倒産に直結してしまうと考えられます。また、重層下請構造の業界であるため物価高による価格転嫁がしづらい、労働環境が改善しきれていないため人を採用しづらいといった従来からの建設業特有の問題が顕在化したともいえるでしょう。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
建設業の最新動向2023
~倒産数増加をどう食い止めるか~