専門委員会がスタート
国土交通省は10月9日、国土審議会地域生活圏専門委員会(委員長・石田東生筑波大学名誉教授/学長特別補佐)の初会合を開きました。同省では、ポストコロナ時代の目指すべき国土構造の重点施策として「地域生活圏」を打ち出しており、各地で、その形成実現に向けた「リーディング事業」を創設することにしています。
では、この「地域生活圏」とはどういったものでしょうか。
同省の資料によれば「分散型国土構造」のイメージとして、「全国」「広域ブロック」「地域生活圏」と、小学校区程度のサイズである「生活エリア」の4つを挙げています。この中で「地域生活圏」は「日常生活の基盤(通勤・通学圏)」「日常の都市的機能の提供」を担い、「地域金融機関、法律・会計等の業務支援機能」「大学や高等専門学校などの高等教育機関」「圏域内外の交通手段(鉄道、バス、空港)」「救急救命を担える医療機関」「衣・食・住などの総合的な買い物サービス」を主な役割とした、人口規模としては10万人程度を想定しています。
国土構造を変えるための取り組み
「国土のカタチを変える」という言葉で思い出されるのが、1972年6月に田中角栄元総理が発表した「日本列島改造論」です。その主旨は「工業再配置と交通・情報通信の全国的ネットワークの形成をテコにして、人とカネ、ものの流れを巨大都市から地方に逆流させる『地方分散』を推進する」ことでした。74年6月には国土の均衡ある発展を図るため国土庁(現国土交通省)が設置され、国の施策として全国総合開発計画(全総)とそれに続く新全総、第3次、第4次、第5次「新しい国土のグランドデザイン」が策定され、事業が続いていきました。蛇足ながら、この日本列島改造論は一時、大きなブームとなりました。
さて、最後の全総に続く国土形成計画(全国計画)は、2008年7月に閣議決定されました。05年7月に従来の「国土総合開発法」を抜本的に改正し、「国土形成計画法」が公布され、同計画はこの法律に基づいて策定されました。その後、15年8月には第2次形成計画、23年7月には第3次計画が閣議決定され、現在に至っています。
第3次計画の概要
この計画では、目指す国土の姿を「新時代に地域力をつなぐ国土」と描き、その実現に向けて「列島を支える新たな地域マネジメントの構築」が必要だとしています。また、そのためには「デジタルとリアルの融合による活力ある国土づくり」「巨大災害、気候危機・緊迫化する国際情勢に対する安全・安心な国土づくり」「世界に誇る自然と多彩な文化を育む個性豊かな国土づくり」の3点を、国土づくりの視点として①民の力を最大限発揮する官民連携②デジタルの徹底活用③生活者・利用者の利便の最適化④縦割りの打破(分野の垣根を越える横串の発送)――の4点を挙げています。
その上で「デジタルとリアルが融合した地域生活圏の形成」を図るとともに、「持続可能な産業への構造転換」「グリーン国土の創造」「人工減少下の国土利用・管理」との相互連携による相乗効果が発揮され、新しい資本主義、デジタル田園都市国家構想を実現していくとしています。
デジタルとリアルの融合
地域生活圏形成に不可欠な要素として示されている「デジタルとリアルの融合」。その例として示されているのが、デジタル化の推進では、行政・民間等の各種手続きのデジタル化やオンライン診療・教育などの環境整備、デジタル技術導入によるローカル産業の生産性向上、テレワーク推進に向けた環境整備・雇用慣行の見直し、高齢者をはじめとする地域住民のIT(情報技術)リテラシー(情報技術を操作して活用する能力)の向上、産学官や個人のさまざまなデータを共有するデータ連携基盤の構築などです。
一方のリアルは、充実を図った上で、デジタルと有効に組み合わせるとしています。充実させるリアルとしては、都市的機能の確保・持続的な提供、中心市街地活性化、交通ネットワークの利便性向上、良好な地域経済循環の構築、女性や高齢者の労働参画、子育て環境の整備、地域分散型エネルギーシステムの構築、周辺地域とも連携した地域防災。国土管理の適正化、地域固有の文化やアイデンティティーに基づく魅力ある地域づくりといった項目を例示しています。
この両者が合わさって「デジタル×リアル」は、①ビックデータを活用した個々人に対するきめ細やかな生活関連サービスの提供②対面と遠隔のベストミックスによる効率的で質の高い医療・教育等のサービス③生活におけるさまざまな活動と移動・交通のシームレスな連携④リアルタイムでの避難者情報の把握による災害の迅速かつ適確な支援⑤AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット化)を活用した地域エネルギー需要の最適化⑥テレワークの活用による、地方に居住し都市の所得を得る「新たな暮らし」の実現⑦デジタル・リアルのデュアルモードによる地域間交流の充実――を達成し、住民にとって利便性が高く、持続可能かつ暮らしや文化などが多様で、さまざまな人が共生する個性ある地域を形成。このことが暮らし方や働き方、生き方に対する多くの選択肢を提供できるようになるととともに、こうして生まれた地域の魅力が新たな対流を創出し、これが「真の豊かさ」の実現につながるという将来像を、同省では打ち出しています。
新しい国土構造実現に向けて
「国のタカチ」をどのようにするのが望ましいのか。そのための議論の端緒は「東京一極集中」の是正だったと考えられます。明治以降、東京は政治経済の中心としてわが国を引っ張ってきたことは言うまでもありません。しかし、それが一方では地方との格差を広げてきたといっても過言ではありません。「東京から地方へ流れを変える」ことを打ち出した列島改造論と、その後の国土の均衡ある発展を掲げた全総、さらに国土形成計画へと流れは続いていますが、当然のことながら、社会背景は時の流れとともに変化し続けています。
新産・工特制度をはじめとする地方への工業誘導政策によって、雇用の受け皿確保と大都市の過密問題解消、地域格差の解消という流れとは、現在の状況は大きく変わってきていることはいうまでもありません。海外進出した工場が国内回帰をしはじめていること、大手半導体メーカーが地方都市に巨大工場を建設し、地元雇用確保に貢献するであろうことは間違いなく、立地する地域の経済への貢献度も大きいでしょう。工場立地に伴って交通インフラを中心としたインフラ整備が進むことは想像に難くありません。
デジタル技術の進歩はすさまじく、生活の中にしっかりと浸透しており、今やスマートフォンのない生活は考えられなくなってきました。新型コロナ感染症拡大防止のために自宅での仕事(テレワーク)も、新たな働き方として「公認」されてきましたし、本社を地方に移す企業も少なからず出てきています。雇用と就業の多様化で地方での生活基盤も、以前に比べれば得やすくなってきています。今回の生活圏形成策も、この点は十分に理解していることでしょう。ただ、10万人規模の圏域で都市機能のすべてを持たせるのは、時として、機能の重複による無駄を生み出さないかという懸念があります。そうした懸念を払拭するため、圏域間の機能を相互活用するなども含め、地方からのアイデアをストックして、いつでも、誰でも引き出せるようなカタチを作っておくのも必要なことではないでしょうか。
顧問
服部 清二 氏
中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。
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