1.はじめに
気候変動は、私たちの日常生活だけでなく、経済にも大きな影響を与えています。そして、そのリスクはますます高まっており、これは日本だけでなく、世界全体で取り組むべき課題です。建設業界も例外ではありません。個々の企業ができることには限りがあるかもしれませんが、大手ゼネコンや住宅メーカーが地球温暖化対策を進めている以上、そのサプライチェーン上に存在する企業にとっても無視できない問題となりつつあります。そこで今回は、気候変動が建設業界にもたらすリスクと、業界における脱炭素化の取組みについてご紹介したいと思います。
2.建設業における気候変動リスクと対策
地球温暖化が進んでおり、経営上も大きなリスクの一つとして認識されていますが、特に建設業界ではどのようなリスクが考えられるでしょうか。1人親方や中小規模の企業を前提として考えてみましょう。
まず、身近な問題として熱中症が挙げられます。猛暑日の増加により熱中症の危険が高まり、作業効率が低下することが懸念されます。また、大型台風やゲリラ豪雨による作業中断、それに伴う工期の遅れも増加しています。これらは建築資材の輸入元でも生じているため、建築資材の納期遅延や価格高騰につながることがあります。
気軽にできる対策としてアイドリングストップや重機や車両の省燃費運転が推奨されます。省燃費運転講習は日本建設業連合会等で受講可能です。また、使用する重機について、燃費を向上させるために定期的な適正整備点検を実施し、買い替えの際は低燃費の機器を選択するといった対策が考えられます。現場でのCO2排出割合の約7割が軽油によるとされていますが、バイオディーゼル燃料に変更することによっても大きな効果が期待できます。さらに、現場で小型太陽光発電設備を設置し再生可能エネルギーを利用するといった選択肢もあります。
3.建設業界のCO2排出状況
次に、建設業界全体のCO2排出量についてみていきましょう。温室効果ガスにはCO2以外のものも含みますが、ここではCO2の排出量を他業種と比較したデータについてみていきます。
下記は、環境省が発表している産業部門からのエネルギー起源CO2排出量の業種別内訳です。建設業界の排出量は全体の2%に過ぎず、決して多い方ではありません。しかし、大手ゼネコンや住宅メーカーではRE100に参加したり、後述するSBTを申請する企業も増加しており、その影響は中小企業にも及んでいます。
4.SBT認定企業とは
前項で触れたRE100とSBTはいずれも地球温暖化に対するグローバルな取組みです。RE100は主に大企業をターゲットとしているので、今回はSBTについて説明します。
SBT(Science Based Targets)はCDP、国連グローバルコンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)が共同で運営している組織です。日本語訳では「科学的根拠に基づいた目標設定」などと訳されたり、環境省では「パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のこと」と表現されたりしています。簡単にいうとSBT認定企業となることは、この目標削減への参加を宣言をすることです。
2024年3月時点で、世界のSBT認定企業は4,779社、日本企業はそのうち904社にのぼります。業種別では電気機器と並んで建設業の会社が多くなっており、企業規模別内訳は704社が中小企業です。
RE100にも企業が温室効果ガス削減目標を公に宣言する仕組みはありますが、SBTの特徴は、削減対象が、その企業自身だけではなく、サプライチェーンとしての排出量であるという点です。そのためSBT認定は受けていない企業でも大企業と取引のある中小企業は排出量の算定や削減を求められており、その必要性を早い段階で認識した企業はSBT認定の取得を進めています。SBTはscopeによって削減目標も異なりますが自社がscope1である場合は、世界の平均気温上昇を1.5℃以内に抑えられるよう、温室効果ガスの排出量を少なくとも年4.2%削減することなどを求めています。
5.おわりに
今回は気候変動問題と建設業界の現状についてご紹介しました。地球温暖化のようなグローバルな問題に対する対応は大企業から始まりますが、中小企業にもその影響は及んできており、その波が大きくなることは間違いないでしょう。規模が小さい事業者にとっては大掛かりな対応をすることは難しいかもしれませんが、補助金を出している自治体などもありますのでぜひ活用していただきたいです。今すぐに対応しないとしても、建設業界にどういった影響があるのか、大企業や先進的な中小企業の取組みがどこまで進んでいるのかを注視しておくことをおすすめします。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
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