1.はじめに
2019年10月1日を施行日として、新消費税率10%がスタートします。前回は、消費税率引上げに伴う建設業特有の論点を見ていく為のベースとして、適用税率の原則や経過措置の概要をご説明しました。今回は具体的項目として、請負工事に関する経過措置について見ていきたいと思います。
2.請負工事等における経過措置
2013年10月1日(前回税制改正指定日)から2019年3月31日(今回の税制改正の指定日の前日)までの間に締結した工事(製造を含む。)に係る請負契約(一定の要件に該当する測量、設計及びソフトウェアの開発等に係る請負契約を含む。)に基づき、施行日以後に課税資産の譲渡等を行う場合において、当該課税資産の譲渡等については、旧税率8%が適用されます(下図参照)。
なお、当該経過措置の適用を受けた課税資産の譲渡等を行った場合には、相手方に対して、当該課税資産の譲渡等が経過措置の適用を受けたものであることを書面にて通知することとされています。
請負工事等の経過措置
当該請負工事等の経過措置の適用対象となる契約とは、具体的に以下に示すものとなります。建設業では主に①と③が関係します。
請負工事等の経過措置の適用対象
契約の種類 | 内容説明 | |
---|---|---|
① | 工事の請負契約 | 日本標準産業分類の「大分類:建設業」に分類される工事につき、工事の完成を約し、かつ、それに対する対価を支払うことを約する契約 |
② | 製造の請負契約 | 日本標準産業分類の「大分類:製造業」に分類される製造業につき、製造に係る目的物の完成を約し、かつ、それに対する対価を支払うことを約する契約(但し、製造物品であっても、その製造がいわゆる「見込み生産」によるものは、「製造の請負に係る契約」によって製造されたものにはならない。) |
③ | その他の請負等に類する契約 | 測量、地質調査、工事の施工に関する調査、企画、立案及び監理並びに設計、映画の制作、ソフトウェアの開発などの請負に係る契約で、仕事の完成に長時間を要し、かつ、仕事の目的物の引渡しが一括して行われるものであり、仕事の内容につき相手方の注文が付されているもの |
請負工事等の経過措置の適用にあたって、留意すべき点を具体例にて取り上げます。
① 機械設備等の販売に伴う据付工事が行われる場合
機械設備等の販売契約における一条項として据付工事に関する定めがあり、かつ、当該契約においてその据付工事に係る対価の額が合理的に区分されているときは、その据付工事については工事の請負に係る契約に基づく工事に該当します。よって指定日の前日(2019年3月31日)までに契約締結がなされている場合、据付工事が施行日以降に終了する場合であっても旧税率が適用されます。
② 経過措置適用工事に係る請負金額に増額があった場合
経過措置が適用される工事について、指定日以降に対価の額が増減された場合には、当初契約の請負金額(対価の額)と最終契約の請負金額との差額により、次の通りに取り扱われます。なお、最終的に対価の額が増額された場合には、その増額部分については、当該経過措置は適用されないことに留意が必要です。また、増額の理由が、追加工事などの当初契約に定められていなかったことによるものの場合には、その追加工事ごとに経過措置が適用されるかどうか別途判断することとなります。
経過措置適用工事に係る請負金額に増額があった場合
①最終の請負金額が当初契約の請負金額より少ない場合
→最終の請負金額全額が経過措置の適用対象
②最終の請負金額が当初契約の請負金額より多い場合
→当初契約の請負金額を超える部分については、経過措置が不適用(新税率の適用)
3.おわりに
今回は請負工事等における経過措置についての概要、適用対象、及び留意点についてご説明いたしました。次回は、請負工事における経過措置適用の結果、元請契約と下請契約について適用税率が異なる場合について、見ていきたいと思います。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。