1.はじめに
政府は、2017年3月28日に「働き方改革実行計画」を策定しました。本計画では「同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善」、「賃金引上げと労働生産性向上」、「罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正」など、働き方改実現に向けた諸課題への対応策が示され、産業界・各企業に対して積極的な取り組みを求めております。
特に建設業においては、人材不足、人材の高齢化、長時間労働など問題が多岐にわたります。日本建設業連合会では、2015年4月に策定した「建設業の長期ビジョン~再生と進化に向けて~」に基づき、建設技能者の処遇改善、生産性の向上、建設キャリアアップシステムの活用などの諸課題につき活動を展開しております。今年度は新たに週休二日について推進本部を設けて、業界一丸となっての取組をスタートさせております。
本コラムでは、いつもの建設業務に関する会計税務とは少し変わって、労務管理に関して、次回と2回にわたってご説明致します。
2.労働時間(時間外労働に対する限度時間)
(1)取り組み内容
政府主導で行われてきました「働き方改革実現会議」の中で、建設業においても一般企業と同様に時間外労働に対する限度時間を設定するという実行計画案が示されました。
具体的には、以下の通りとなります。
【原則】
週40時間を超えて労働可能となる時間外労働の限度を、原則として、月45時間、かつ年360時間とし、違反には特例を除いて罰則が課されます。
【特例】
労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、上回ることができない時間外労働時間を年720時間(=月平均60時間)とする。 |
年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限を設ける。 |
この上限については、 ①2か月、3ヵ月、4ヵ月、5カ月、6ヵ月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで80時間以内を満たさなければならないとする。 ②単月では、休日労働を含んで100時間未満を満たさなければならないとする。 ③時間外労働の原則は、月45時間、かつ年360時間であることに鑑み、これを上回る特例の運用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする。 |
(2) 建設業への適用について(時間外労働の上限規制)
建設業については、罰則付きの時間外労働規制の適用除外とはせず、改正法の一般則の施行期日の5年後に、罰則付き上限規制の一般則が適用されます。
- ※ただし、復旧・復興の場合については、単月で100時間未満、2ヵ月ないし6か月の平均で80時間否の条件は適用されません。
将来的には、一般則の適用を目指す旨の規定が設けられると思われますが、5年後の施行に向けて、発注者の理解と協力も得ながら、労働時間の段階的な短縮に向けた取り組み強化が推進されております。
(3) 長時間労働の是正に向けた取り組み
①週休二日の推進
- 他産業と比較して建設業の週休二日制度の導入は全体の約17%ほどです。非常に厳しい人材獲得競争の時代の中にあって、建設業は、週休二日が普及して初めて他産業と同列のスタートラインに立てる事を踏まえると、週休二日の実現は最優先の課題として取り組む必要があります。平成29年3月に発足した週休二日推進本部が4月に策定した「週休二日推進の基本方針」に沿って、本年9月に「週休二日実現行動計画試案」が公表されました。形態としては、土曜閉所を原則とし、5年程度での普及目標に検討されています。
- 請負契約締結にあたっては、「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」に沿って、当該工期の考え方等を発注者に対して適切に説明するとともに、適正な工期設定が求められます。
②総労働時間の削減
- 総労働時間削減の為には、週休二日の確保、定着が最も実効を期待できる方策であり、最優先課題でありますが、関係法令の施行後5年で罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されますので、これに適合できるよう、時間外労働の削減に早急に取り組む必要があります。
【具体策】
- 36協定の適正な運用
- 時間外労働の適正化に向けた自主規制の施行・・・
- 改善目標を設定し、段階的に強化する事により、法適用後の規制に柔軟に対応。
3.労働時間短縮の効果
建設業界としても、長時間労働の常態化は好ましくありません。技術労働者は高齢化により、今後10年で100万人程度が離職する公算が大きいです。若者が他業界との比較で建設業への就職を避けるようになれば、将来、建設業が成り立たなくなります。労働時間の短縮は、建設業界の業績が上向いている今、取り組まなければなりません。官民が連携して進める必要があります。
4.まとめ
本コラムでは「労働時間(時間外労働)」、「休日」について取り上げました。政府において働き方改革の議論が盛り上がりをみせる中、建設業界の対応が問われております。労働時間が長く、週休二日制をまだ実施できていないのが現状です。労働時間を制限した場合、工期の長期化やコストアップが避けられないのも事実です。しかし、今是正しないと将来は人が集まらず、建設業が成り立たなくなる可能性があります。今回のレポートが、貴社の労務管理において参考となれば幸いでございます。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
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