設計労務単価が12年連続引き上げ/積算基準も見直しに/時間外規制がいよいよ適用

設計労務単価が12年連続引き上げ/積算基準も見直しに/時間外規制がいよいよ適用

 建設業界に時間外労働(残業時間)の罰則付き上限規制が2024年4月から適用された。これまで官民を挙げて、労働時間短縮に向けた様々な取り組みを実施してきたが、工期の制約を受けやすい民間工事では、未だ規定の時間外労働時間をクリアできてない現場もあるという。建設会社にとっては、労働時間の短縮だけでなく、政府が取り組む賃上げの動きにも対応しなければならない。国土交通省は3月から新たな公共工事設計労務単価を適用した。12年連続の引き上げで、過去10年では最大の5・9%の引き上げを行った。設計労務単価の引き上げという追い風はあるものの、労働時間の短縮と賃上げはいずれも経営を圧迫することは間違いない。公共工事設計労務単価や積算基準の見直しなど、最近の動きをまとめた。

過去10年で最大、5.9%の伸び率を確保

 2月16日、斉藤鉄夫国土交通相は閣議後の会見で、新しい公共工事設計労務単価を発表した。設計労務単価は公共事業の積算に用いるもので、今回は全国・全職種の単純平均で前年度に比べ5・9%の引き上げとなった。過去10年で最大の伸び率で、「おおむね5%の賃上げ目標を掲げ、建設業界と一体で取り組んだことが反映された」と胸を張った。さらに「単価上昇が建設各社の賃上げと、次なる単価引き上げの好循環の実現につながるよう各社の賃上げを強く働き掛けていきたい」と強調。その上で「建設業界に時間外労働規制の導入に向けた準備を着実に進めるよう強く促す」とも話した。

 今回の公共工事設計労務単価の引き上げは前年度を大きく上回り、都道府県別・職種別で1000以上ある単価のすべてがプラス改定となった。新しい労務単価は全職種の加重平均で日額2万3600円。最高値を更新し、法定福利費相当額の反映など算出手法を大幅変更した2013年度単価以降、12年連続の引き上げを実現した。2012年度単価と比較すると、全国・全職種の単純平均は75・3%も上昇している。今回の伸び率だけでみると、直近の物価上昇率を超え、国交省と建設業主要4団体が2023年の賃金上昇率の目標に設定した「おおむね5%」を労務単価ベースで上回る水準となった。新単価はすでに3月1日から適用されている。(表1、表2

表1 主要12職種の設計労務単価
職種 全国平均値 2023年度比
特殊作業員 24,074円 4.0%
普通作業員 20,662円 5.7%
軽作業員 15,874円 6.3%
とび工 26,764円 4.8%
鉄筋工 26,730円 3.6%
運転手(特殊) 25,249円 5.7%
運転手(一般) 21,859円 5.8%
型枠工 27,162円 3.8%
大工 26,657円 4.9%
左官 25,958円 4.0%
交通誘導警備員A 15,967円 7.1%
交通誘導警備員B 13,814円 6.3%
表2 近年の公共工事設計労務単価の単純平均の伸び率(単位:%)
2013
年度
2014
年度
2015
年度
2016
年度
2017
年度
2018
年度
2019
年度
2020
年度
2021
年度
2022
年度
2023
年度
2024
年度


15.1 7.1 4.2 4.9 3.4 2.8 3.3 2.5 1.2 2.5 5.2 5.9


12

15.3 6.9 3.1 6.7 2.6 2.8 3.7 2.3 1.0 3.0 5.0 6.2

2012年度比
全 職 種:75.3%
主要12職種:75.7%

 時間外労働の罰則付き上限規制が4月に適用されることを踏まえ、それぞれの単価には上限規制に対応するために必要な費用を反映。同様の措置は2年前から講じているが、適用を目前に控え建設各社で各工種で様々な準備が進展している状況をより考慮したという。急激な物価上昇を背景に支給事例が増えている「インフレ手当」も正確に把握するなどして、現況の賃金実態をより適切・迅速に反映させた。

朝礼や準備体操、後片付けなども把握し歩掛かりに

 国交省は、働き方改革のコスト増を踏まえ、予定価格の単価アップに向けて直轄土木工事の積算基準も改定した。これまで工期全体(通期)で取り組んできた直轄土木工事の週休2日を、新たに月単位で求めることを原則化。経費補正のあり方を見直し、月単位の週休2日に対応した補正係数を新設した。土日休みの完全週休2日を促すため、先行的に土日休みを実施した企業には工事成績評定で加点する措置も設ける。

 月単位の週休2日は予定価格3億円以上の本官工事を発注者指定型、それ以外の分任官工事を受注者希望型で対応する。経過措置的な意味合いで通期の週休2日に適用する従来の補正係数の一部を2024年度に限って存置する。それに月単位の週休2日に対応した補正係数を足し合わせた数値を、実際に月単位の週休2日で発注する工事に適用する。2025年度以降は月単位の週休2日の実施状況を踏まえ、改めて補正係数を検討する。

 柔軟な休日取得を後押しするため月単位の週休2日工事にも、工期途中で部分的に現場閉所から交代制に切り替えられる試行を拡大。休日の質の向上をさらに推進するため、土日休みの完全週休2日の実施に努めることを「土木工事共通仕様書」に規定。土日休みの実施企業には工事成績評定の「創意工夫」で加点する。(表3

表3 2024年度以降の直轄土木工事の週休2日補正計数
「工期全体(通期)の週休2日」の補正分① 「月単位の週休2日」補正分② 実際に適用する「月単位の週休2日」の補正係数①+②



2024
年度
労務費 1.02 労務費 1.02 労務費 1.04
機械経費 1.02 機械経費 1 機械経費 1.02
共通仮設費 1.02 共通仮設費 1.01 共通仮設費 1.03
現場管理費 1.03 現場管理費 1.02 現場管理費 1.05
2025
年度
以降
(廃止) 実施状況等を踏まえた数値を検討


2024
年度
労務費 1.02 労務費 1.02 労務費 1.04
現場管理費 1.01 現場管理費 1.02 現場管理費 1.03
2025
年度
以降
(廃止) 実施状況等を踏まえた数値を検討

 現場管理費率も4年ぶり改定。書類作成の経費や下請の本社経費などの直近の実態を調査し増加分を反映した。例えば河川工事では純工事費に対応し15・91~44・05%(従来は14・98~43・43%)の率を新たに用いる。工種によって率は異なるが、いずれの工種も直接工事費1億円の工事では率が1ポイント程度の引き上げになるという。

 時間外労働規制を見据えた積算の適正化では、これまでも朝礼や準備体操、後片付けなどの実態を把握・分析し標準歩掛かりに順次反映してきた。今回から路上工事など常設の作業帯が現場に設けられない工事を念頭に、資材基地からの移動時間などを詳細に把握できるよう調査票を見直した。舗装版破砕工や電線共同溝工など11工種で、現場移動などで作業時間が短くなり日当たり施工量が減少している傾向があり、2024年度の歩掛かり改定に初めて反映させた。

賃上げ企業を優遇する公共調達方式が負担に

 設計労務単価の大幅な引き上げや積算基準の見直しで、2024年度に発注される公共工事の予定価格は確実に引き上げられる。ただ、工事が受注できるかどうかは、建設企業の実力次第。特に直轄工事では総合評価方式で受注者が決まるため、各建設企業がどれだけ加点評価を受けられるかも大きい。そこで重要になるのが、政府が2022年度から導入した賃上げ企業を優遇する公共調達の措置だ。

 この措置は、賃上げによるデフレ脱却の好循環をつくるため、一定水準の賃金引き上げで従業員と合意したことを示す「表明書」を提出した入札参加者(建設企業)を、総合評価方式で加点する仕組み。配点割合は加算点・技術点の合計の5%以上に設定。加点は対象工事の規模や点数配分にもよるが、配点数は1~4点と言われる。例えば40点満点の場合、表明書提出による加点は3点(合計の約7%)となる。

 国交省が昨年まとめた直轄工事を対象にした賃上げ表明企業による加点措置の実績(2022年度)によると、2022年4月の加点措置開始から2023年3月末までの賃上げ表明者は、競争入札参加者の67%に当たる3010社、落札者の75%を占める2029社に上った。賃上げを表明した企業のうち、実績が確認できた暦年表明の367社は、全て賃上げ目標を達成していたという。この措置は2024年度も継続される見通しで、建設各社はこの加点を得ようとすると、3年連続の賃上げが必要となり、人件費の増加が大きな負担になることは間違いない。

24年度建設投資は前年並み、継続的な投資規模を

 受注単価が上がることは、働き方改革を進める建設会社にはありがたいことだ。ただ、人件費などの支出がそれよりも膨らんでいけば、経営的には苦しくなる。ここで重要になってくるのが、建設市場のパイが縮むことなく、一定規模以上が今後も維持されることだ。将来の建設市場の見通しが定量確保できれば、賃上げの対応もしやすくなる。

 幸い2024年度は前年度並みの公共事業費が確保され、2023年度補正予算で2・2兆円規模の公共事業費が計上されたため、この繰り越しを考えると、2023年度並みの予算は確保される。建設経済研究所と経済調査会が1月に発表した建設投資予測でも、2023年度の投資総額は名目値で前年度比4・6%増の71兆9200億円、2024年度は0・7%増の72兆4100億円と試算。物価変動の影響を取り除いた実質値で見ても、対前年度の増減率は2023年度が2・1%増、2024年度が0・1%増と堅調に推移すると見ている。ただ、建設コスト高を背景に民間工事では新規着工を控える動きも出ているというから注意が必要だ。

 働き方改革を進め、担い手を確保していくには、建設業界で働くすべての人たちの賃金を上げ、休日を増やすなどの処遇改善が欠かせない。それを進める基礎となるのが安定した市場規模。昨年成立した改正国土強靱化法などで、数年後まで見通せる公共事業量をどのくらい確保できるのか、日本企業の旺盛な設備投資がいつまで実施されるのか、それが建設業界の働き方改革の進展にも大きな影響を与えることは間違いない。

坂川 博志 氏
 執筆者 
日刊建設工業新聞社 常務取締役事業本部長
坂川 博志 氏

1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。

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