カーボンニュートラル(CN)に建設現場はどう向き合うか

カーボンニュートラル(CN)に建設現場はどう向き合うか

カーボンニュートラルを目指して

 カーボンニュートラル(CN)は「ニュートラル」という言葉の意味が示すように、二酸化炭素(CO2)をメーンとする温室効果ガスの排出量と吸収量を「均衡」にしようというもので、その実現に向けて、政府、企業、一般家庭がそれぞれに知恵を絞っています。企業では生産ラインやオフィスの省エネルギー化を進めるとともに、再生可能エネルギーの開発・導入に取り組んでいることはよく知られているところです。

 各地に太陽光発電施設や風力発電施設が建設され、いわゆる「モノを燃やしてエネルギーを得る」ということを少しでも減らそうという流れになっていました。ただ、電力会社による電力の「固定価格買い取り制度」に基づく買い取り価格の下落によって、こうした新電力からの売電による収益は、当初とは大幅に減っているのも事実だと思われますが、「地球市民」として果たすべきわが国の役割を考えた時、やはり再生エネルギー開発は進めて行かざるを得ないだろうと思われます。そうした視点から見れば、CNはこれからの産業の「米」であると言えるでしょう。

建設業の取り組み

 建設業界も当然、このCN達成に向けてしんな取り組みをしています。企業市民として、自社オフィスの省エネルギー化を進めることは、自分たちが持つ技術力をアピールするためのシュールーム的な役割を持たせています。

 洋上風力発電を初めとする非化石燃料分野開発への進出は、すでに相応の実績を持っていますし、河川や下水道、地熱といった未利用熱の利用、廃熱回収による熱の有効利用に加え、海の潮の満ち引きを利用した海洋波力発電、海水の温度差を利用した海洋温度差発電といった分野にも注目が集まっています。

 一方で、製造工程で大量のCO2を排出するコンクリートにCO2を吸収させて、CNを実現しようという動きも、最近、活発になってきました。

 これとは別の動きとして、建築物に積極的に「木」を使うということがあります。日本を代表する世界的建築課である隈研吾氏が手がけた新国立競技場には、ふんだんに木が使われています。隈氏自身、某民放の番組で、地球環境保全のために建築に木を使うことの重要性を語っています。ただ、同時に同氏は、コストが安いからといって、海外の木を国内に運んでくるのは、輸送に伴って排出されるCO2を考慮すれば不合理であり、国内産の木を使うべきだと主張しています。そうすることで日本の林業の再生にもつながるとも語っています。近年、木を使った超高層建築の構想が発表されるなど、環境に優しい木への注目は高まってきています。

建設現場の悩み

 ところで、建設現場には土木、建築を問わず多くの材料が運び込まれます。特に都心部での大規模再開発では、資材置き場が確保できないために「オンタイム」での資材搬入が求められることになります。大規模再開現場の近くの道路に、資材を積んだ大型トラックが「時間待ち」をしているのに出会うのも、珍しいことではありません。

 大体は早朝であることが多いのですが、そうは言っても1車線をふさぐというのは交通渋滞を招く要因になります。建設現場とそれを所轄する警察とで定期的に協議はしているようですが、なかなか「時間待ち停車」は解消されないようです。警察側は、この時間待ちトラックに移動するように警告することになるのですが、その結果、1カ所にとどまれないトラックは、現場周辺をぐるぐると周回することになります。輸送に伴うCO2の「余分な排出」ということができます。せっかく、オフィスの省エネやCO2を吸収するコンリートの開発を進めても、これでは元の木阿弥ではないでしょうか。これをすべて輸送業者の責任としてしまうのは、あまりに可哀想な気がします。建設業としてのCO2削減の努力はしても、それに付随するもののCO2削減を図るのも不可欠でしょう。運輸業者のことだからと目を背けるわけにはいかないはずです。

路上待機解消に向けて

 こうした事態を受けて2021年9月、新しい組織が誕生しました。一般社団法人都市環境改善センター(TKKC、上坂元勇次代表理事)です。国や地方自治体が所有する土地を借り、そこをトラックセンターのようにすることで、路上待機を減らし、かつ搬入時間までの周回運転をなくそうというのが狙いです。そこでは、センターで低炭素車両に資材を積み替えて現場まで搬送しようという構想もあるようです。もちろん、運転手の休憩施設なども整備したい意向です。設立の念頭にあるのはSDGs(持続可能な開発目標)やCN推進活動による、都市部の再開発工事に伴う地域の交通問題の解決と環境問題の改善です。

 ちなみに、警視庁管内では待機車両を原因とする死亡事故が、2021年に3件発生しています。こうした事故の防止にもつながるわけです。

 環境負荷低減に向けて、例えば大手衛生陶器メーカーでは、製品の梱包を簡素化するなどして建設現場からのゴミの排出量を減らすようにしてきました。現場でも廃棄物の分別収集に努めています。「きれいな現場は事故が少ない」と言われています。少しずつ現場内部はきれいになってきています。

 問題は目に見えない地球温暖化ガスの排出抑制です。資材の生産、機器の性能といった面では省エネによる温暖化ガス排出抑制は進んでいます。それに加え、資材搬入という面にも目を向けなければならなりません。現在、燃料価格は高騰しています。CO2削減は燃料に係る費用削減にもつながることになるのは自明の理です。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
顧問
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。

PickUp!
3大事例!
建設業はカーボンニュートラルにどう取り組むべきか?

プライバシーマーク