1.はじめに
新型コロナウイルスにより多くの人々の生活スタイルが変化し、住まいに対する考え方も変わってきました。また、新型コロナウイルスは、ウッドショックという形で日本の建設業にも未だに大きく影響しています。原材料高の高騰は2022年度中にはピークアウトするのではないかという予測もありましたが、ウクライナ情勢の動向によっては世界レベルで価格上昇が継続することも考えられ、世界市場の推移には引き続き注視が必要です。
今回はこうした業界を取り巻く現況を確認し、大手住宅メーカーの有価証券報告書の開示もみながら新築住宅市場の今後の動向を考えてみたいと思います。
2.ウッドショックとその影響
木材・木製品の国内物価指数はグラフ①のように推移しています。製材については、輸入価格も落ち着いてきたことに加え、一部で輸入材から国産材への切り替えや他素材との代替が進んだことにより、2022年初頭から概ね横ばいで推移することが見込まれています。
他方、合板や集成材については輸入価格も未だに上昇し続けていることから、今後も国内価格にさらに転嫁されていくことが予想されます。特に集成材は代替が困難であり、大幅な上昇がみられます。
グラフ①
(出典:経済産業省「どうなったウッドショック;価格の高止まりが需要を抑制?」)
こうした原材料高は新築戸建取引にどの程度の影響を与えているのでしょうか。グラフ②の青線は新築戸建住宅売買に加えマンション分譲や土地売買を含む「建物売買業,土地売買業」の活動指数、オレンジ線は新築戸建住宅売買業の活動指数を示しています。
新築戸建住宅売買業の活動指数は2020年4月に緊急事態宣言が発出され急落したあと、その反動で急上昇し、その後緩やかに低下。現在は新型コロナウイルスの影響で急落した水準を若干下回っている状態です。経済産業省では現状について、ウッドショックによる価格高騰が新築戸建取引の抑制に影響しているとみています。
グラフ②
3.新設住宅戸数の推移
次に新設住宅戸数の推移をもう少し長いスパンでみてみたいと思います。グラフ③はここ20年間の新設戸数の変動を示したものです。長期的には減少傾向であることに間違いはありませんが、直近では上昇に転じています。
平成20年にリーマンショックが起きた影響から急激に減少しましたが、その後徐々に回復、平成27年以降は相続税対策等により不動産投資が過熱しました。しかし、平成30年からは不動産投資に対する融資が厳格化されたことにより、再び減少に転じました。
コロナによって更に減少が加速しましたが、直近では4年続いた減少への反発増が表れてかプラスに転じています。
グラフ③
コロナ禍は収束とは言えないながら、徐々に経済活動が再開される中で回復に転じた新設住宅需要は、今後住宅ローン減税と金融政策の方向性によって推移の仕方が大きく変わるでしょう。
住宅ローン減税は令和4年税制改正大綱により、限度額や控除率の引き下げがあったものの、控除期間が拡大されたり、省エネ住宅への優遇措置が拡大されたりと、今のところ新設住宅戸数を大きくマイナスさせるような変化はないようです。
金融政策については、米欧との金利格差による円安が原油高と重なることから判断が難しいところですが、今の所米国や英国に追随せず、利上げをしない姿勢を示しています。
中長期的には人口動態に比例して減少基調となることは間違いありませんが、上記の税制と金融政策が続いた場合は2022年も2021年とほぼ同様の推移で着地するのではないかと予想され、その傾向は2023年度も大きく変わらないのではないかと考えられます。
4.住宅メーカーの見方
こうした動きに対して各住宅メーカーはどのように分析しているのでしょうか。2022年3月期の大手住宅メーカーの有価証券報告書をみてみたいと思います(3月決算以外の会社は直近の四半期報告書)。
2022年3月期の振り返りとしては、やはり多くの企業で前項のようにコロナの影響を引きずりながらも回復基調であるとしている記載がみられました。
(大和ハウス 2022年3月期有価証券報告書)
また、増収となっている企業でも減益となった企業や、売上の増加幅に比して営業利益の増加幅が著しく低い企業も見受けられました。これは原材料の高騰を価格転嫁せずに企業が負担した結果といえます。今は企業努力で持ちこたえている部分も、原材料高騰が長引けば価格転嫁せざるを得ないため住宅市場にマイナスの影響がこれから出てくる可能性があります。
(住友林業 2022年12月期第1四半期報告書)
また、中長期的な戦略として、大手住宅メーカーでは国内需要の落ち込みをカバーするために北米を中心とした海外に基盤を設け、海外での事業拡大を視野にいれており、今後ますますその流れは強くなるものと考えられます。
(大和ハウス 2022年3月期有価証券報告書)
5.おわりに
短期的な動態としては、新型コロナウイルスは広く影響したものの、部分的には既に抜け出ている感があります。ウッドショックについてはウクライナ情勢が引き続き不安定であることもあり、今後、住宅メーカーの企業努力でカバーしきれなくなった価格転嫁がどの程度進むのか、注視する必要がありそうです。
長期的には縮小基調である国内新築住宅市場において底堅い需要を確保するには、中小規模の工務店でも省エネ住宅やスマートハウスのような高付加価値の住宅に対応する技術革新が必要になりそうです。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。