入管法・技能実習法一括改正案/外国人材受け入れ制度が「技能実習」から「育成就労」に

入管法・技能実習法一括改正案/外国人材受け入れ制度が「技能実習」から「育成就労」に

 政府は3月15日、技能実習に代わる外国人材受け入れの新制度「育成就労」の創設を柱とする「出入国管理・難民認定法と技能実習法の一括改正案」を閣議決定した。外国人材の「就労を通じた人材確保・育成」を目標に掲げ、3年間で特定技能1号の技術水準までの育成を目指す。新たに認める本人意向による職場の転籍(転職)の制限期間は原則1年とし、激変緩和措置として産業分野ごとに最長2年までの延長を認める。まだ、新制度の詳細は明らかにされていないが、現段階で考えられる問題点などを整理してみた。

外国人材は10年で10倍に、5人に1人は外国人材

 新制度「育成就労」を説明する前に、まず現行制度と建設業で働く外国人材の現況を説明する。建設現場ではいまや、外国人材の活用なしでは、成り立たないとも言われている。現に鉄筋工事業では5人に1人が外国人材と言われ、日本人の若年労働者の入職を諦め、外国人材を積極的に育成、活用する専門工事業者も多いという。

 国土交通省の資料によると、建設分野に携わる外国人数は2011年に1万2830人だったが、2022年には11万6789人に増加し、約10年間で10倍近くまで膨らんでいる。この急増の背景には、従来の技能実習制度に加え、2015年4月から始まった時限措置「外国人建設就労者受け入れ事業」(すでに制度が終了)と、2019年4月から開始した改正出入国管理法(入管法)に基づく新在留資格「特定技能外国人」制度がある。

 1993年にスタートした技能実習制度は日本の滞在可能期間によって、在留資格が1~3号に区分される。技能実習1号は1年間滞在でき、入国1年目に取得できる在留資格。入国後すぐに原則2カ月の入国後講習を受けなければならないため、受け入れ企業での雇用期間は実質10カ月。受け入れ企業は実習生ごとに「技能実習計画」を作成し、認定を受ける必要がある。

 技能実習2号は2年間滞在できる在留資格で、入国後2~3年目が対象。技能実習3号は同様に2年間滞在でき、入国後4~5年目が対象期間となる。1号と同様に、受入れ企業は2号、3号に移行する際、各実習期間に対応した技能実習計画を作成し、認定を受けなければならない。技能実習3号を取得する実習生は、3号の技能実習開始前または開始後1年以内に、1カ月以上1年未満の一時帰国が決められている。

 また、1号から2号に、2号から3号に移行する際には対象職種と対象者の条件を満たさなければならない。対象職種は88職種161作業(2023年7月時点)に限られ、仕事の内容がこれらの職種に該当し、対象者は所定の技能検定(基礎級など)に合格しなければならない。

特定技能の外国人材も急増、永住できる特定技能2号の26人

 一方、2019年度から開始された新在留資格「特定技能外国人」制度は、政府の肝いりでできた在留資格。一定の技能を持った外国人を日本の労働力として受け入れ、国内産業の持続的な発展を目指すのが狙い。在留資格は「特定技能1号」と「同2号」の2種類で、1号の在留期間は上限5年。2号は職長レベルの人材を想定し、在留期間は無期限(更新制)で家族も帯同できる。特定技能の外国人材は急増しており、2023年10月末現在で2万2309人にも達する。内訳は特定技能1号が2万2283人で、特定技能2号が26人となっている。

 東京五輪前の旺盛な建設需要に対応するため、時限措置としてできた「外国人建設就労者受入事業」では、外国人材の失踪や不法就労などが指摘された。このため、国土交通省は特定技能制度の適切な運用に向け、建設業の特性を踏まえた独自の受け入れ計画・審査の仕組みを構築。外国人材の入国に先立ち、受け入れ企業による計画の作成、国土交通省の独自審査、法務省による入国審査と3段階の手順を設けた。外国人材の処遇についても同等の技能の日本人と同等以上の報酬を月給で支払うほか、技能習熟に応じた昇給などの徹底を求めた。

 特定技能の外国人材の受け入れるためには▽海外訓練と試験(日本語能力と技能)▽国内の試験のみ(訓練などは受け入れ企業が実施)▽国内の試験なし(技能実習からの移行)―の3ケースのいずれかをクリアしなければならない。特定技能1号の試験は、国土交通省が提携する訓練校の在校生から希望者を募り、現地の短大や専門学校で行う。日本語と日本式施工の訓練をした後に学科・実技の技能試験を行う。

 海外での試験などを行うため、建設業界では同制度の開始と同時に「一般社団法人建設技能人材機構(JAC)」を設立。JACは国内外での試験だけでなく、受け入れ企業への人材紹介や外国人材に対する必要な知識の提供、転職のマッチング、相談・苦情の母国語対応などで、外国人材の受け入れを支援している。

 国土交通省は2022年8月末、特定技能の在留資格制度に関する建設分野の運用方針の改正を決定。建設業に関連する全作業をカバーできる緩やかな枠組みとして、新たに▽土木▽建築▽ライフライン・設備-の3つの区分を設定。これまで技能実習では外国人材の受け入れが認められていたが、特定技能(19区分の工種に限定)では認められていなかった工種もあったが、3区分の大括りにしたことで、ほぼ全ての工種で技能実習から特定技能への移行が可能になった。

就労期間中の転籍を容認、受入企業は教育費や賃金アップなどが必要

 では、新制度の「育成就労」はどういう制度で、これまでの技能実習制度と何が違うのか。今回の制度の見直しの大きな柱は、外国人材のキャリアアップの道筋を明確にし、就労期間中にきちんと技能や技術を身に付けてもらい、特定技能に移行してもらうのが最大の狙い。同時に労働者としての適切な権利保護を行う上で、就労期間中の転籍も認めるとした。

 もう少し具体的に見ていく。まず育成就労の在留期間は3年間。この期間内に一定の技能・技術を身につけてもらい、引き続き国内で働きたい外国人材に対しては特定技能1号に円滑に移行してもらう。この際、特定技能制度の設定分野にしか移動ができないが、建設業は前述したように3区分に大括りにしたため、ほぼ全業務で移行が可能になっている。

 一方、これまで2号あるいは3号の技能実習を良好に終了した者は、試験なしで特定技能1号に移行できたが、新制度では「国内での試験なし」がなくなり、技能検定3級または建設分野特定技能1号評価試験の合格かつ、日本語能力試験(N4以上)などの合格が必要となる。このため、受け入れ企業は育成就労後も外国人材に働いてほしいと思うと、これまで以上の教育、育成が求められ、コスト負担が必要になる。

 また、技能実習制度では原則転籍は認められておらず「やむを得ない場合の転籍」(人権侵害などが対象)だけがかろうじて認められていた。新制度では「やむを得ない場合の転籍」の範囲が拡大され、手続きも柔軟化される。例えば、契約時の労働条件などと実態との差異があり「事前に聞いていた話と違う」となった際、転籍が認められる可能性がある。

 さらに、就労期間が1年を超えているなどの条件を満たしていれば「本人意向による転籍」も認める。まだ詳細は公表されておらず、最初の受け入れ先からの転籍を制限する期間は業種によって異なるが、原則1年(業種によっては2年)とされている。転籍可能な範囲は「同一の業務区分内」に限定する方針だが、給与面などに良い同業種に転籍する外国人材が増えることは間違いない。

 このため、専門工事業などでは給与の高い3大都市圏の会社に外国人材が移動してしまうという懸念の声がすでに上がっている。このため、国土交通省は転籍前の受け入れ企業が支出した初期費用などの一部を、転籍後の企業に補償してもらう仕組みを検討中だと言われている。

 育成就労制度の転籍支援は監理団体が中心になる見込み。併せて民間の職業紹介会社も転籍支援を扱えるようにするもようで、悪質な事業者の関与を防止する対策も必要となる。特に監理団体は、現行の監理業の許可とは別に、就労育成制度の新たな要件を満たした許可申請が必要で、これまで以上に審査が厳格化される可能性が高い。また、特定技能制度の登録支援機関についても、実務の厳格化が予想されている。

 外国の送り出し機関については、訪日前の手数料などで大きな開きがあり、不当に高額な手数料を徴収し、監理団体や受け入れ企業へキックバックなどを行う送り出し機関もあると言われている。こうした悪質な送り出し機関は排除し、国際的な労働市場のルールを徹底させ、外国人材に対する適正な賃金の支払いや労働条件の整備を進める方針だ。受け入れ側企業にとっても、外国人材の教育費や賃金面での増加など、これまで以上のコスト負担を求められる可能性が高い。

外国人材に選ばれる国に、選ばれる産業にしていく

 改正法案が今国会で成立すると、公布から3年以内に施行される予定で、新制度は2027年にも始まる。移行期間中の技能実習生の扱いなど、まだ制度の詳細は見えてこないが、今後どのような仕組みになっていくのか、注視する必要がある。いまや外国人材なくして、建設現場は回らなくなりつつある。円安や賃金安などで日本で働くことのメリットを感じない外国人材も急増している。日本が外国人材に選ばれる国にならなければ、建設業界の人材不足は今後ますます深刻な状況に陥るだろう。日本の若者だけでなく、海外の若者たちにも魅力を感じてもらえる産業にしていけるのか。新4K(給与・休暇・希望・格好いい)の実現も含め、建設産業の真価が問われている。

坂川 博志 氏
 執筆者 
日刊建設工業新聞社 常務取締役事業本部長
坂川 博志 氏

1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。

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