1.はじめに
地球規模で取組が進んでいる温室効果ガス対策ですが、大企業が主体的に取り組んでいるイメージがあり、中小企業で取り組めることはないのではないか、コストが増大するのではないかといった意見が多いかと思います。特に建設業界では、固定の場所が主たる業務場所ではないためできることは少ないとお考えの方もいらっしゃいます。
簡単に実現できることではありませんし、コストに目が行きがちだと思いますが、取り組むことによるメリットもあります。そこで、今回から2回にわたり中小企業における脱炭素化の取組とメリット、建設業界の現状等についてご紹介したいと思います。
2.脱炭素社会とカーボンニュートラル
まず「脱炭素」と「カーボンニュートラル」という用語から確認したいと思います。よくいわれる脱炭素又は脱炭素社会とは、「温室効果ガスの排出をゼロにした社会」を意味します。そして、カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を低減させつつ、排出されてしまう温室効果ガスについては何らかの方法によって吸収し、「温室効果ガスの排出量をプラスマイナスゼロにする取組」のことです。環境省でもこの2つの言葉はほぼ同義に使用されており、公式に違いについては言及されていません。脱炭素社会を実現するための方法としてカーボンニュートラルが進められていると考えれば良いでしょう。
3.GHG排出量とは CO2排出量との違い
さて、脱炭素社会の論点と切っても切れない「温室効果ガス」について、簡単に確認したいと思います。太陽光によって温められた地表熱は徐々に大気圏外へ放出されます。しかし大気中に存在する温室効果ガスは大気中の熱を吸収し、再放射する働きがあり、これによって地表熱は一定量が地表へ再放射されます。
温室効果ガスが無ければ地球の平均気温は-19℃になるとも言われており、温室効果ガスは生物の生存に必須のものです。しかし、温室効果ガスの増加によって地球温暖化が進んでいることは問題視されています。
温室効果ガスにはメタンやフロンガス等複数あり、中でもCO2はよく知られているでしょう。温室効果ガス排出量と同様のニュアンスで「CO2排出量」と表現されるのをほとんどの方がご存知かと思います。
ちなみに、同様の文脈でGHG排出量といった言葉もあります。GHGとはGreenhouse Gasの略で、温室効果ガスのことを指します。GHG排出量とCO2排出量もほぼ同義で使われることも多いですが、厳密にはGHG排出量の方が広い範囲を指します。
4.中小企業が脱炭素化に取り組むメリット
冒頭にも述べたように、中小企業では大企業と比較して脱炭素への取組が進んでいないのが現実です。しかし、中小企業でも取り組むべき以下のような動機があります。
1.中小企業も大企業のサプライチェーンの一部である
大企業では脱炭素化への取組が進んでおり、自社グループだけでなくサプライチェーン全体にも温室効果ガス排出について報告させる、削減を要請するといった場面が今後増加すると考えられます。有名なところではAppleが2030年までにサプライチェーン全体でのカーボンニュートラルの達成を目指すとし、サプライヤー企業における省エネプロジェクトを推進、再生可能エネルギーの使用を進めています。
建設業界においては、スーパーゼネコンといわれる企業で徐々に温室効果ガスの排出削減が進められていますが、その下請け企業に対しても取組を求めるようになる可能性は十分にあります。
2.金融機関からの要請
企業が融資を受ける際に、その企業の地球温暖化対策に対する取組を評価しているところも増えています。積極的な取組をしている企業に対しては融資条件を有利にするといった対応がなされることがありますので、今後は取り組まない企業が損をするという時代がやってくるかもしれません。また、タイミングによっては地球温暖化対策のための融資を行う際に、国が利子を補填するといった制度等を利用できることもありますので、地球温暖化対策に取り組むことは資金調達に有利に働くというのは間違いないでしょう。
3.知名度や認知度の向上
前述したように、中小企業ではまだまだ環境投資は進んでいません。その為、今の段階から積極的に取り組むことで、世間の注目を集めやすい状況です。特に建設業界の中小企業の取組事例はまだまだ少ないので、いずれ取り組むのであれば、早い段階から取り組むことによるメリットを享受できるかもしれません。
また、知名度や認知度の向上は人事面でも有利に働きます。それにより、優秀な人材を獲得できる、現在勤めている社員へのリテンション効果も期待できます。
5.脱酸素を目指すための投資
実際に脱炭素に向けてアクションを起こすにあたって最大の懸念点は、資金面かと思います。
内閣府が過去に実施したアンケート調査によると、地球温暖化対策を中心とするグリーン投資により設備投資額、及び研究開発費が増加するとした企業割合はそれぞれ47.0%、52.4%となっており、やはり設備投資額や研究開発費は増加すると予定している企業が多いようです。業種別でみると、特に建設業では研究開発費が増加すると見込んでいる企業が他業種に比しても多いことがわかります。
自己資金だけでこれらを賄うのは難しく、新たな資金調達が必要になってくる企業が多いと思います。一般社団法人全国銀行協会が提供する「全国銀行 eco マップ」では、金融機関から受けられる環境問題対策支援を検索することもできます。また、国からの補助金を利用できる可能性もあります。この点について次回、詳細をご紹介したいと思います。
6.おわりに
脱炭素は社会全体で取り組まなくてはならない問題です。個人、中小企業、大企業など規模によって実行できることは異なるかもしれませんが、上手に資金調達をしながら積極的な姿勢で向き合っていく必要がでてくるでしょう。次回は脱炭素化にむけた計画策定や補助金等をご紹介していきたいと思います。
執筆者
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
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建設業はカーボンニュートラルにどう取り組むべきか?