半世紀を迎えるPPP・PFI事業/再び件数が増加

半世紀を迎えるPPP・PFI事業/再び件数が増加

 民間の資金や経営力、技術的能力を生かして公共サービスの維持や質を向上させるPFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)が施行され、今年9月で25年目を迎える。官民連携事業と言われる「PFI・PPP」事業は一時期、件数や事業金額が伸び悩む時期もあったが、その度に法律を改正し、官民双方が「Win・Win」の関係になるよう仕組みを変えてきた。政府は財政状況が厳しい中、PFI・PPP案件の普及に力を入れている。毎年度改定している「2024年度版アクションプラン」では、自衛隊施設での適用やウォーターPPP(上下水道一体)の強化などを盛り込んだ。事業開始から四半世紀を迎えたPFI・PPP事業の最新の動向を紹介する。

英国などでの実施を参考に1999年に法律施行

 PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)制度を今さら詳細に説明する必要はないと思うが、簡潔に言うと、民間の資金とノウハウを活用して、公共施設等の設計・建設・維持管理・運営を行う手法。財政状況が厳しく、公共サービスの質の低下が指摘されていた英国などで導入され、日本ではその手法を見習う形で、1999年に議員立法でPFI法が成立し、同年9月に施行された。

 同法の対象となった施設は当初、▽道路、鉄道、港湾、空港、河川、公園などの「公共施設」▽庁舎、宿舎などの「公用施設」▽「賃貸住宅」と教育文化施設、スポーツ施設、集会施設、廃棄物処理施設、医療施設、社会福祉施設、駐車場などの「公益的施設」▽情報通信施設、熱供給施設、研究施設など▽船舶、航空機、人工衛星など。

 同法に基づく事業を行う場合、まず公共施設などの管理者がPFI手法の内容を定めた実施方針を公表し、PFIで行うことが適正であれば、その事業を特定事業に選定する。その後、総合評価方式を原則に民間事業者を選ぶ。選定された民間事業者は事業を専門に行う特定目的会社(SPC)を設立し、実施方針に明記された7~30年度程度の事業期間内で対象施設の設計や施工、運営を手掛ける。その運営費収入などで当初出資した建設費などを回収し、一定の利益を得る。

対象案件が年間40件以上で推移したが、一時期低迷期に

 同法が適用された第1号案件は、1999年度に神奈川県が実施方針公表した「県立保健医療福祉大学(仮称)特定事業」。これを皮切りにPFI事業が本格的にスタートし、2008年度までは年間40件を越える案件の実施方針が公表されていた。だが、その後は年間20件台に低迷し、伸び悩んだ。建設した施設をSPCが所有する場合、固定資産税の負担が大きいことや、対象施設が限定されていたこと、民間事業者の提案がほとんどできなかったことなどがその背景にあった()。

PFI事業数の推移

 政府は、こうした問題を解決するため、これまで7回も法律改正を行っている。その中でも最も影響が大きかったのが2011年の法律改正だ。その前にも議員立法として2回の法律改正が実施されたが、2011年の改正では政府提案の法律改正案として国会に提出。施設の所有権と管理者としての責任を公共主体が保有したまま、運営権を民間事業者に設定するコンセッション(公共施設等運営事業)方式の導入が盛り込まれたほか、対象施設の拡大や民間事業者による提案制度なども明記された。

2011年にコンセッション方式や民間提案を導入

 このコンセッション方式は既存、新設いずれの施設でも運営権の設定が可能で、公共主体にとっては事業主体から対価を徴収することにより、施設収入の早期回収を実現できる。一方、事業者側にとっては、運営権を独立した財産権とすることで、抵当権の設定などが可能となり、資金調達の円滑化に加えて、自由度の高い事業運営が行えるようになった。

 同方式を取り入れた事業として、2014年に「仙台空港特定運営事業等」などの実施方針が公表された。すでに整備されていた空港の運営権を民間に任せるもので、それ以降、同方式の適用は有料道路、下水道、旧監獄の保存・活用、国際展示場、芸術起業支援施設、アリーナ、ガス事業、駅舎、大学宿舎、美術館、宿泊施設、水力発電所、公共駐車場、オートキャンプ場、工業用水道、上工下水一体事業、スタートアップ支援拠点、学校跡地、観光・レクリエーション施設、ラグビー場、緑地再編整備など各種分野に拡大していった。

様々な施設が対象に、文化社会教育分野が約4割占める

 その後、2013年の改正ではコンセッション方式を含めたPFIが活用しやすいように、官民ファンドとなる民間資金等活用事業推進機構(PFI推進機構)を設立。地方の自治体などに寄り添った支援を可能にした。同時に政府がPFI、PPPを強力に後押しするためのアクションプランを作成。具体的な事業目標などを打ち出した。こうした幾度もの制度の見直しにより、2014年度には再び実施方針の年間件数が40件台に戻り、2019年度には年間最高の76件にも達した。累計では2022年度末に1000件を突破している。

 PFI事業を分野別にみると、コンセッション方式の導入などにより、学校施設や文化・教育施設といった文化社会教育分野が38%と最も多くなった。次いでMICE(国際的なイベント)、観光・地域振興施設、住宅といった経済地域振興の施設が23%、庁舎や宿舎など行政が12%、斎場や廃棄物処理施設、浄化槽などの環境衛生が11%、上下水道、工業用水道、道路、港湾施設といったインフラが10%、病院・診療所、児童福祉施設など医療・福祉が5%と、様々な施設や構造物に広がりを見せている。

2031年度までに13重点分野で目標件数650件

 では、PFI・PPP事業は今度、どうなっていくのか。6月に政府のPFI推進会議(議長・岸田文雄首相)がまとめた2024年度版「PPP/PFI推進アクションプラン」では、財政状況の逼迫や生産年齢人口の減少、インフラ・公共施設の老朽化といった社会課題に対応するため、成長型経済のけん引手段としてPPP/PFIは有効とし、今後も積極的に後押しする方針を打ち出している。

 これまでPPP/PFIの事業件数を2031年度までに13の重点分野で575件の目標を掲げていたが、自衛隊施設やスポーツ施設など75件を追加し、目標件数を650件に引き上げた。追加案件の内訳は自衛隊施設50件、スポーツ施設10件、文化・社会教育施設5件、大学施設で10件となる。

 このうち、自衛隊施設は2023年度から5年間で約4兆円を投入し、強靱化のための施設の再配置・集約化などが計画されている。この中でPFIやECI方式、包括民間委託などを組み合わせた民間の最適な活用方法を適用する「防衛省版PPP」の推進を掲げた。具体的には約300の基地・駐屯地にある宿舎や体育館などの福利厚生施設などを対象にPFIの実施を求め、重点分野に自衛隊施設を新たに追加。2026年度までに20件、2031年度までに50件の具体化を目標とした。

 さらに、火葬需要の増加に伴う火葬場整備や、スポーツと地域経済の振興・活性化に向けたスタジアム・アリーナなどの整備を掲げるとともに、再生可能エネルギーの需要を踏まえた水力発電(ハイブリッドダム)や、河川敷地を利用した各種施設、新たな漁港整備、ウォーターPPP(上下水道一体)の強化も盛り込んでいる。

地方建設業者が再びPFI・PPP事業に参入するのか

 PFI・PPP事業が今後も増え続けることは間違いない。政府は財政が逼迫する中でも、公共サービスの低下を避けるたるためには、民間のノウハウや資金が欠かせないからだ。今回のアクションプランの発表と同時に、適正な価格の算出を目的とした「PFI事業実施プロセス」と「契約」の二つのガイドラインを改正したのも、民家事業者に積極的に参入してもらうのが狙いだ。

 このガイドラインでは、災害時の管理者と民間事業者の役割・情報連絡を明示しておくことや、予定価格に労務や資材などの最新実勢価格を適切に反映させることなどを明記。さらに、民間事業者の適正な利益確保に向け、市場価格への感応度が高い物価指数や、業務・費用・地域に連動した物価指数の採用を求めるとともに、民間事業者との協議の場の設置も提案した。契約変更が認められる場合の考え方なども示した。

 案件形成に関しても、人口減少社会の到来や自治体の職員不足への対応などを踏まえ、自治体内の異なる施設や、複数の自治体による共同利用などの施設の事業化を掲げている。PFI・PPP事業を上手に使い、分野横断型・広域型の施設などを民間事業者に整備・運営してもらい、公共サービスの質の低下を食い止めたい考えだ。

 こうした政府の施策を新たなビジネスチャンスと捉えることができる民間事業がどのくらいいるのか。特に地域に密着している地方建設業者が再びPFI・PPP事業に参入してくるのかどうか、今後の動向を注視したい。

坂川 博志 氏
 執筆者 
日刊建設工業新聞社 常務取締役事業本部長
坂川 博志 氏

1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。

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