道を歩く時は気をつけて
30年以上前の話になります。とあるゼネコンの土木技術者に「道を歩く時は気をつけてください」と忠告されたことがあります。その技術者よれば「下水道管の上部が腐食して、道路が陥没する。いつ起こってもおかしくない」とのことでした。当時は「そんな、世界のびっくり映像みたいなことがあるのだろうか」と思っていたのですが、2025年1月、埼玉県幸手市で、実際にトラック1台が巻き込まれる道路陥没事故が起きました。まさに、この土木技術者の“予言”が、現実のものとして、われわれの目に飛び込んできたわけです。
下水から発生する硫化水素が、コンクリートの下水道管を腐食させ、土砂を吸い込みながら流れることで、地下に巨大な空間ができたことが、今回の道路陥没の原因だと言われています。下水道だけでなく、水道でも同じことが起きていると想定されるのですが、水道の場合は水圧の関係で水が噴き上がるため、発見しやすいと言うことがいえるでしょう。この水道の漏水率は全国平均で5%ですが、こちらも下水道管と同様に老朽化が進んでいます。
幸手市の事故を受けて国土交通省は、全国の主要下水道埋設地域での調査を指示するとともに、全都道府県に道路管理者や地下占有事業などで構成する「地下占有物連結会議」を設置しました。上下水道、橋梁など、社会インフラの老朽化は刻々と進んでおり、適切な維持管理と補修は喫緊の課題となっており、このことが新たな社会資本の整備を、資金面でも遅らせることになるのは必至です。
発注ロットが小さい
建設経済研究所(RICE)は「建設経済レポート(№72)」で「維持補修工事には発注ロットの大ロット化や適切な積算基準の見直しが必要」と指摘しています。RICEによると、2017年度から23年度までの、「維持補修工事」1件あたりの契約金額の平均額値は、9機関(北海道開発局と各地方整備局)の数値を見た場合、一般土木工事の4~5割ほどの規模にとどまっていることがわかりました。「請負金額が比較的少額で請負企業にとっては利益が出しにくい」ことから、発注ロットの大ロット化を求める声が挙がっています。
建設技術者、技能労働者が減少していく中、小ロットで数多くの仕事をこなすのは、経済原則から考えても厳しいと言わざるを得ないでしょう。同じ技術者、労働者を分散して配置するより、大きなロットの現場一カ所の方が合理的だと思うのは当然でしょう。
アンケートは語る
RICEは「受注者側のインフラ維持管理に関する課題と要望」に関する調査を実施しました(2024年8月11日~9月11日)。公共工事における「維持管理工事」について、日本建設業連合会と各都道府県建設業協会に加盟する企業から選んだ約600社を対象とし、315社が回答を寄せました。
調査結果を見ると、過去5年間に維持管理工事を受注したことがある企業は234社で、回答企業の74・3%を占めました。
その一方で調査では、「なぜ受注しなかったか」という理由も尋ねています。その理由を見ると、最も多いのが「他の分野(得意分野)の受注に注力している」で、以下、「技術者の負担が大きい」「技術者や技能者の確保が難しい」が続いています。特に後者の回答は、以前(2019年8月~9月)に比べ、回答割合が13ポイント増の30%と大幅に増加しています。また「下請の確保が難しい」も7ポイント増の16・3%となっています。RICEでは、この結果について「高齢化による担い手不足が指摘される一方で、前回調査を上回った『採算性が低い』『受注競争が激しい』といった収益面での要因も大きく関わっていると考えられる」と見ています。
果たして儲かっているのか
受注実績がある248社の工種別内訳は、維持系では「道路維持工事」が167社、「除雪」(105社)、「河川改修工事」(101社)、補修系では「橋梁補修工事、橋梁耐震補強工事」(105社)、「舗装補修工事」(89社)と続いています。
それでは「利益」面ではどうなっているのでしょうか。
調査結果では「十分確保できている」「確保できている」と回答した企業は152社で受注実績企業の61・3%を占めました。これに対し「若干赤字である」「赤字である」と回答した企業は18社(7・2%)、「収支が拮抗している」と回答した企業は76社(30・6%)となっており、約4割が「インフラ維持管理工事で利益確保が難しい状況にあることかった」と論じています。
建設業者は「町の医者」
地方のインフラ維持管理工事は、多くの場合、地元企業が「地域の守り手」という使命感から仕事に向かい合っています。地域の人たちの生活を守るのが、地元建設業の役割だという思いからです。夜を徹して行う除雪作業などは、人や交通の安全を守るという使命によるものでしょう。
利益が出せないと回答した企業96社のうち51社(54・3%)は「請負金額が少額のため」ということを理由に挙げています。これに続くのが「現場が点在しており効率が悪い」(46社)、「工種数が多く施工量が小さいため手間がかかる」(46社)と、やはり大ロット化を求める声が多数を占めました。
一方で「積算が十分でない」(35社)、「設計変更が適切に行われていない」(13社)という発注側に対する不満の声も出ています。
「地域の守り手」は、町を健全に保っていくためのドクターであるとも言えるでしょう。患者個々人のことをよく知っている町の診療所が疲弊しないような仕組み作りが求められているのではないでしょうか。

顧問
服部 清二 氏
中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。

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