
1.はじめに
建設業を取り巻く環境は大きく変化しています。とりわけ「脱炭素」は、設計や施工の技術課題にとどまらず、経理・財務の領域にまで深く関係するテーマとなりました。
建材の選定から補助金の活用、長期的なコスト評価まで、数値を扱う部門が担う役割は年々大きくなっています。本稿では、建設業の経理担当者が押さえておきたい脱炭素の最新トレンドと、実務に直結する会計の視点を整理します。
2.「初期コスト」中心の考え方から
LCC(ライフサイクルコスト)の重視へ
脱炭素建材や高効率設備は、一般的に従来の建材・設備と比べて初期コストが高いといわれています。その多くは、建物完成後のエネルギー費削減やメンテナンスコストの低減、長寿命化などによって中長期的に投資を回収していくという考え方に立っています。この全体像を適切に評価するため、公共工事・民間工事ともに ライフサイクルコスト(LCC) の考え方が広がってきています。
ライフサイクルコストを検討する上で押さえておきたいポイントをいくつか挙げます。
投資回収期間の算定が求められる
脱炭素関連設備への投資については、発注者から「何年で回収できるのか」という説明を求められる場面が多くなります。そのため、脱炭素対策を講じたことにより増加した初期投資額が、何年で回収できるのかを説明できるようにしておく必要があります。
運用費(光熱費)の将来価格も試算に含める
従来、建設完了後の運用コストについては建設業者が深く関与する領域とはみなされていませんでした。しかし昨今では、建築方法・建築資材の選択によって運用コストが大きく変動することから、電力価格の変動を織り込んだ複数シナリオを検討する必要性が高まっています。こうしたコスト計算の国際的なルールの1つとして「国際コスト管理基準」が策定されており、当初は建築物のイニシャルコスト(建設時の初期費用)のみを対象としていましたが、現在はランニングコスト(維持・管理費用)まで対象範囲が拡大されています。
減価償却のスケジュールとLCCの整合性を意識する
脱炭素化の対策として設備・建物自体の長寿命化が推進されています。上述したランニングコストとも関連しますが、従来とは耐用年数・更新サイクルが変わることで、キャッシュフローに与える影響が大きく変化します。したがって、減価償却のスケジュールとLCCの整合性を意識しながらこれらを織り込んだコスト計算を行う必要があります。
これらは、従来の「建設コスト中心の見方」だけでは捉えきれない領域であり、プロジェクト初期段階から経理担当者が関与する価値が一層高まっていると言えるでしょう。
3.カーボンプライシングの影響
世界的に広がるカーボンプライシングは、日本でも導入が進みつつあります。カーボンプライシングはCO₂ 排出に“値段”をつけて、排出量が多いほどコストが増える仕組みといえます。炭素排出に費用を課すことで削減行動を促す仕組みであり、建設業にも大きな影響を及ぼします。施工時の燃料使用や建材製造で排出されるCO₂にもコストが発生するため、企業は省エネ施工、再生材・低炭素コンクリートなどの採用、設計段階での環境配慮を進める動機が強まります。結果として、建設プロセス全体での脱炭素化が加速し、サプライチェーン全体の効率化や環境性能の高い建物の普及につながると考えられています。建設業の原価計算においては、“CO₂の少ない材料や工法を選んだほうが、将来のコストが安くなる”という時代に突入し、“炭素コスト”を含めた新しい原価計算が求められるようになります。
4.原価計算
では原価計算にどのような影響が生じるのか、もう少し具体的にみていきます。
まずは直接費への影響です。炭素価格が材料に転嫁されることで材料費が上昇します。特にセメントは CO₂排出が多く、炭素価格への感応度が高いといわれています。また、重機の燃料や現場の電力等、エネルギー消費の大きい工程ほど影響が大きくなります。
間接費への影響は多岐にわたりますが、見落とされがちな経費として、CO₂削減対策(省エネ機材・低炭素材料の検討、LCA計算など)に要するコストが管理費として積みあがってくることが挙げられます。
炭素価格が高まるほど、工程別・材料別のCO₂排出量を精緻に把握することが原価管理で重要な要素となります。繰り返しになりますが、単純に「最も安い材料」が最適とは限らず、炭素コストを含めた総合原価で材料・工法を選定していく必要があります。
5.資金調達の選択肢拡大
建設業が脱炭素に取り組む際には、初期投資の大きさを補うため、多様な資金調達・補助制度の活用が重要となります。国の支援としては、経済産業省の「カーボンニュートラル投資促進税制」により、省エネ設備や再エネ導入に対する税額控除・特別償却が受けられるほか、環境省の「脱炭素先行地域支援事業」では、ZEB化や再エネ活用に対する大規模な補助が用意されています。また、国土交通省は建設機械の電動化・低炭素化を促進する補助事業を実施しており、今後も排出削減に寄与する機械更新への支援が手厚くなることが予想されます。民間資金では、ESG金融やグリーンローンを活用し、環境効果の高いプロジェクトについて低利での資金調達を実現している事業者も見られます。さらに、地方自治体による再エネ設備導入や省エネ改修への補助も有効ですので、各自治体の制度を確認してみると良いでしょう。
これらを組み合わせることで、建設企業は脱炭素化のコスト負担を軽減しつつ、競争力の強化と環境価値の向上を同時に実現できるよう、資金計画を策定することが重要になります。
なお、補助金を受けた場合は益金算入が原則となるため、納税資金の手当てについてもあらかじめ留意しておく必要があります。
6.おわりに
脱炭素は、技術や設計に関わるテーマであると同時に、コスト管理・資金調達・投資判断・原価計算といった経理の領域にも深く関係してきます。負担として捉えがちな脱炭素への対応も、経理部門が主導することで、企業価値を高めるチャンスとも捉えられます。変化の大きい今だからこそ、会計・財務の視点から脱炭素を捉え直すことが、将来の成長につながっていくという視点で前向きに脱炭素に取り組んでいただきたいと思います。
1981年北海道釧路市生まれ。新日本監査法人(現 EY新日本有限責任監査法人)監査部門にて製造業、小売業、情報サービス産業等の上場会社を中心とし た法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、M&A関連支援、デューデリジェンス等のFAS業務に数多く従事。2008年に汐留パートナーズグループを設立、代表取締役社長に就任。2009年グループCEOに就任し、公認会計士・税理士・弁護士・社会保険労務士等のプロフェッショナル集団を統括。公認会計士(日本/米国)・税理士・行政書士。北海道大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院経営管理研究科(EMBA)修了。

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