業務報酬基準を改正へ-より実態に合った体系に

業務報酬基準を改正へ-より実態に合った体系に

建築設計事務所は構造不況業種?

 建築設計事務所、ゼネコン、専門工事会社、メーカーの人たちが参加する、とあるゴルフコンペの大会会長あいさつで、アトリエ系建築設計事務所のトップを務める当時の大会会長は「建築設計事務所は『構造不況業種』ですから、経営が大変です」と語り、笑いを誘ったことがありました。ゼネコンへの設計・施工一括発注という形が増加してきたことが、この発言につながったものと想像できます。新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う自粛によって建設計画の延期ということもあったのかもしれません。いずれにせよ、この発言は本音に近いものではないかと思わざるを得ませんでした。

建築設計の報酬には基準がある

 ご存知の通り、建築主と建築設計事務所が設計・工事監理等を契約する際の「業務報酬」は、建築士法第25条に算定方法が示されています。2014年の建築士法改正によって、同法第22条の3の4で、「この基準の考え方に準拠した委託金額で契約を結ぶよう努めなければならない」と規定されました。ちなみに、業務報酬基準とは「建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準」という意味です。ただし、この基準に基づいて算出された報酬額は、あくまで契約する際の「目安」となるものです。現在の基準は「告示第98号」と呼ばれています。

 報酬の目安は「直接人件費+直接経費+間接経費+特別経費+技術料等経費+消費税相当」で算出されます。特別経費は建築主の特別の依頼に基づいて必要となる経費、技術料等経費は建築士事務所の創造力の対価で、付加利益を含む経費とされています。

 新築に係る業務で必要経費の精算が困難な場合は、建物用途の確認、その用途の建物の面積に基づく業務量などを確認した上で、業務量×人件費単価×2・1+特別経費+技術料等経費+消費税相当で算出します。人件費単価は国土交通省が毎年度公表している「設計業務委託等技術者単価」の設計業務における「技術(C)」の単価が目安となっています。

告示第98号見直しへ

 21年8月、中央建築士審査会で告示98号見直しに向けた検討が始まり、同年12月の同審査会で改正方針が確認されました。22年5月30日から8月12日にかけて建築士事務所を対象とした「設計業務及び工事監理等の業務に係る実態調査」が、インターネットを使ったウェブ形式で実施されました。

 この調査の結果、①戸建住宅の実態に合った略算表の見直し②難易度の観点に複数当てはまる場合の取り扱い(難易度係数の設定)③複数建築物の取り扱い(算定法の一本化)④改修工事の設計等に関する業務量の整備(改修工事の業務量未定)⑤BIMの業務(BIMを活用した設計業務への未対応)⑥工事監理業務の工事期間等による業務量の増減⑦省エネ基準への適合義務化への対応(省エネ基準適合の全面義務化に対応した業務量の設定)――という課題が浮かび上がりました。

新たな報酬基準24年1月に公布

 10月5日、国土交通省は業務報酬基準改正案をまとめました。建築士事務所の調査結果を踏まえ、業務量確認の際に使う略算表を見直したほか、②では戸建住宅以外と戸建住宅それぞれの難易度係数を算出した上で、難易度が複数当てはまる場合にはかけ算を前提とした算出方法を採用することとしています。

 略算表は建築物の床面積の範囲と業務量が見直されました。具体的には、物流施設第1類(車庫、倉庫、立体駐車場等)は、床面積の範囲としてこれまであった3,200㎡の区分がなくなり、新たに7万5,000㎡の区分などが追加されました。その一方、実態調査でサンプル数が少なかったこと、工事監理業務が大きく減少した運動施設第1類(体育館、武道館、スポーツジム等)と第2類(屋内プール、スタジアム等)、商業施設の第1類(店舗、料理店、スーパーマーケット等)と第2類(百貨店、ショッピングセンター、ショールーム等)、物流施設の第2類(立体倉庫、物流ターミナル等)、宿泊施設の第2類(宴会場を有するホテル、保養所等)、医療施設の第2類(総合病院等)は改正を見送りました。

 この他、総合、構造、設備ごとに設定されていた難易度による補正係数も、難易度が複数にわたる場合にはすべての係数をかけ算できる基準にしました。

 改修工事の設計等に関する業務量の整備については、業務に影響する要素や工事に係る業務内容の調査結果整理のため、BIMの業務については、標準業務の設定や業務量設定の参考となる調査結果整理のため、次回の見直しに向けて「調査を実施」することになりました。

 新報酬基準は来年1月に公布・施行される予定になっています。

適正な報酬での受注を

 建築設計事務所の売り上げの大半は「設計監理料」です。資本主義経済の中で民間企業の受注額を左右する「報酬の目安」を国が示すということにやや抵抗を感じることがあります。その一方で、設計実績を作るために「おや?」という価格での入札ということもありました。それも最近はあまり見られなくなりましたが、企業活動としてはやむを得ないことなのかもしれません。「せっかく報酬基準があるのに」という思いを強くしたこともあります。いずれにせよ、適正な利益を確保し続けなければ企業としては危険です。

 以前、「なぜ結婚しない」と跡取り息子に聞いたアトリエ系設計事務所の社長がいらっしゃいました。聞かれた息子が「こんな安月給で家族は養えない」と答えたという話があります。一体、社員に払う給料はどうなっているのかと、人ごとながら心配してしまいました。

 企業の財産は人です。中でも建築設計事務所は人材による影響の割合が非常に大きいと思われます。優秀な人材を獲得するためにも、相応の待遇が不可欠となるでしょう。そのための原資を確保するためにも適正な価格での受注が不可欠です。業務報酬基準がどのような形で施行されるか、新たな基準を目安にしつつ適正な利益を確保できることが重要であることは言うまでもないでしょう。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
顧問
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。

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