赤伝処理とは? 契約トラブルから身を守る3つのポイント

公開日:2024.6.14
更新日:2024.8.17

要注意! 赤伝処理を巡るトラブルが急増中

多くの業界の経理現場で一般的に用いられる赤伝処理ですが、近年、建設業界では、不適正な赤伝処理を巡る元請・下請事業者間の契約トラブルが相次いでいます。本稿では、建設業の事務担当者さま向けに、赤伝処理がコンプライアンス違反になる具体的なケースとそうした事態を防ぐポイントについて、わかりやすく解説します!


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赤伝処理とは? 読み方と意味

経理用語でいう「赤伝票」とは、処理済み(計上済み)の伝票を取り消す際に発行する伝票のことです。金額に誤りがあったり値引きがあったりした場合に、赤字で訂正(逆仕訳・マイナス処理)する流れを指して「赤伝処理(あかでんしょり)」「赤伝を切る」などと表現します。

建設業においては、元請事業者が下請代金を支払う際、工事に伴う追加費用を協議・合意なく一方的に差し引く(相殺する)といった不適正な赤伝処理が問題となっています。建設業法に違反するおそれがあることから、特に元請事業者に留意が求められていますが、トラブルを避けるためには、下請事業者も正しい知識は欠かせません。

令和元年(2019年)以降の建設業界では、赤伝処理を巡る元請・下請事業者間の契約トラブルが急増しています。

公益財団法人 建設業適正取引推進機構は、令和3年(2021年)の資料で赤伝処理を巡るトラブル件数が平成30年度比で5~6割増加していることを報告しており、国土交通省(以下、国交省)も「建設業法令遵守ガイドライン」のなかで不適正な赤伝処理について多くの頁を割いて注意喚起を行なっています。

不適正な赤伝処理が業界全体における重大事と見做されていることがおわかりいただけるでしょう。

トラブル件数比率

建設業における不適正な赤伝処理で扱われる追加費用の具体例について、国交省はつぎのように挙げています。

一方的に提供・貸与した安全衛生保護具などの費用
一方的に提供・貸与した安全衛生保護具などの費用
下請代金の支払に関して発生する費用
下請代金の支払に関して発生する費用(振込手数料など)
運搬処理費用
工事に伴う建設発生土など再生資源・産業廃棄物の運搬処理費用
駐車場代
それ以外の諸費用(駐車場代・弁当ごみなどの処理費用・安全協力会費・CCUSカードリーダー設置費用及び現場利用料など)

建設業法と赤伝処理

工事請負による取引金額が高額になる建設業では、携わる事業者の資質向上と工事請負契約の適正化は、常に重要な課題です。そうした背景から昭和24年(1949年)に建設業法が制定され、時代に合わせた改正を行ないながら、ルール整備が為されてきました。

違反者に対して営業停止処分や許可取消処分などの行政処分のほか、罰金・懲役などの厳格な罰則が設けられた建設業法は、建設業事業者にとって最高規範ともいえる法律です。

当然ながら、赤伝処理を行なう場合も建設業法に準則する必要があります。

前項で挙げたからの追加費用について、元請・下請事業者間の力関係を背景にした一方的な請求、差し引く根拠が不明瞭なものや実費に対して過大な請求のほか、元請事業者が責任及び費用負担を明確にしないままやり直し工事を別の工事業者に行わせてその費用を一方的に下請代金から減額するなどの赤伝処理は、すべて建設業法第19条第3項に違反するおそれがあります。また、建設業法第28条第1項第2号に該当しかねません。

建設業法第19条第3項(不当に低い請負代金の禁止)
注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。

建設業法第28条第1項第2号(指示及び営業の停止)
建設業者が請負契約に関し不誠実な行為をしたとき。

さらに、前項で挙げた追加費用のうち❶❷❸の負担について契約書面に記載しなかった場合は建設業法第19条第1項、見積条件として具体的な内容を提示しなかった場合には建設業法第20条第4項に違反します。

建設業法第19条第1項(建設工事の請負契約の内容)
建設工事の請負契約の当事者は、(中略)契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
7 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
10 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
12 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法

建設業法第20条第4項(建設工事の見積り等)
建設工事の注文者は、請負契約の方法が随意契約による場合にあつては契約を締結するまでに、(中略)第十九条第一項第一号及び第三号から第十六号までに掲げる事項について、できる限り具体的な内容を提示し(中略)なければならない。

赤伝処理が問題となった実際の事例

国交省からの委託を受けて建設工事の請負契約に関するトラブルについて相談対応を行なう建設業適正取引推進機構は、赤伝処理を巡るトラブルについて、実際の事例を報告しています。

CASE 元請が施工主に支払った賠償費用を合意なく下請代金から差し引く
本事例の相談者は、戸建住宅の基礎工事を一次下請として請負い、施工した。施工中、三次下請事業者が第三者の塀を壊してしまった。被害者の申し入れを受け、元請事業者は一次下請(相談者)に無断で高額の賠償金を支払った。その相当額が下請代金から差し引かれる旨、一方的に通知された。

POINT!
被害者対応についての事前の合意に反し、元請事業者が無断で高額の賠償金を支払った
元請はその費用負担を下請に押しつけようとした

不測の事態がつきものとなる建設業では、誰であれ他人事とはいえない事例です。ただ、くり返しになりますが、元請事業者と下請事業者双方の協議・合意なく一方的に下請代金を減額する赤伝処理は、建設業法第19条第3項に違反するおそれがあります。

また、建設業法第19条第1項では、工事請負契約書について「工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め」の明記が求められています。

本事例でも、工事請負契約書の内容を精査し、赤伝処理の前に協議の場を設けていれば、トラブルにまではならなかったでしょう。

赤伝処理のトラブルを防ぐ3つのポイント

赤伝処理を行なうこと自体がただちに建設業法上の問題となることはありません。ただ、前項で述べたとおり、赤伝処理を巡るトラブルは昨今、急増しています。

国交省の「建設業法令遵守ガイドライン」では、主に力関係で上位となる元請事業者への留意が求められています。ただ、下請事業者側も正しい法的知識を得ておかなければ、いざというときに身を守れないでしょう。

赤伝処理に関するトラブルを避けるために、本稿では3つのポイントについて解説します。

建設業適正取引推進機構は、契約トラブルの大きな原因として、元請・下請事業者間のコミュニケーション不足を挙げています。工期中に定期的なミーティングの場を設け、進捗や変更点を共有することで、多くのトラブルを未然に防止できる筈です。元請・下請業者はどちらが上というものではなく、あくまで対等のパートナーであることにも留意すべきでしょう。

口頭での工事請負契約で着工したためにトラブルになった事例は、枚挙にいとまがありません。工事請負契約では、工事の内容・請負代金額・工期のほかにも、損害金の負担のあり方なども含め責任範囲を文書の形で明確化しておく必要があります。

赤伝処理を行なう場合の差引額の算定根拠についても、見積条件や契約書面に明示されているかを確認しましょう。追加工事による追加・変更契約のときも、追加工事の施工前に書面を交わす手順を踏み、口頭のみの契約で進めることは避けるべきです。

また、建設業法だけでなく、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)でも、建設副産物の再資源化に関する費用を契約書面に明示することが義務づけられています。こちらも併せて留意すべきでしょう。

建設リサイクル法第13条
対象建設工事の請負契約の当事者は、建設業法第十九条第一項に定めるもののほか、分別解体等の方法、解体工事に要する費用その他の主務省令で定める事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

建設業における赤伝処理は、下請事業者に費用負担を求める合理的な理由があるものについて、元請・下請事業者間、双方の合意のもと、はじめて行なえるものです。

例えば、安全協力会費については、下請工事の完成後に当該費用の収支について下請事業者に開示するなど透明性の確保が図られるべきでしょう。過剰な費用負担を下請事業者側だけが被るのでは、公正とはいえません。

安全協力会費のほか、駐車場代や弁当ごみなどの処理費用、建設キャリアアップシステムに係るカードリーダー設置費用及び現場利用料などは、建設業法第19条第1項による書面化義務の対象となっていませんが、後日の紛争を回避するために契約書に明文化しておくことが望ましいでしょう。

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適正な赤伝処理を行なうためには、契約内容の透明性確保が欠かせません。そのためには、着工前に契約内容を文書化することが必要です。

工事請負契約書は、そうした協議・合意の証拠となるもので、双方の認識違いによるトラブルを避けるうえで重要です。契約変更や項目の追加の際にも、書面に明文化して協議・合意を行なうプロセスを踏むことはおろそかにできません。

とはいえ、紙での契約業務では、対面や郵送の手間が発生し、すみやかな合意と締結が困難です。大量に保管された書類に紛れ、更新された最新版の契約書がどれかわからなくなるような事態も起こり得ます。

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よくある質問

Q “赤伝処理”とは? 読み方と意味を教えてください。
A “あかでんしょり”と読みます。処理済み(計上済み)の伝票を取り消す際に発行する伝票のことです。建設業において問題とされる不適正な赤伝処理は、元請事業者が下請代金を支払う際、工事に伴う追加費用を協議・合意なく一方的に差し引く(相殺する)行為のことで、近年、トラブル件数が増加傾向にあります。建設業法に違反するおそれがあり、主に元請事業者側に留意が求められています。
Q “赤伝処理”は違法ですか?
A赤伝処理自体が法に触れるというわけではありません。ただ、建設業法では、工事に伴う追加費用について協議・合意なく一方的に差し引く(相殺する)行為について禁じられています。建設業法に違反するおそれがある旨について、国土交通省より何度も周知されています。
Q建設業の工事請負契約に電子契約は導入できますか?
A建設業法では、工事請負契約について、長らく書面(紙)でのやりとりが求められてきましたが、2001年の改正建設業法において、相手方の承認があれば電子契約にも法的効力が認められる旨が明文化されました。ただ、この時点では電子契約の具体的な範囲や技術的基準については不明瞭だったといえます。2018年以降、グレーゾーン解消制度によって、国土交通省や経済産業省から具体的なシステム例としてクラウド型電子契約サービスや立会人型電子契約が適法との声明が正式に発表され、普及への弾みとなりました。

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【参考】
・国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン
・(公財)建設業適正取引推進機構「建設業の適正取引に向けて ~実際のトラブル事例を踏まえて~
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