◆持続可能な開発目標「SDGs」
◆サステナビリティ経営とは何か・事例:大手ゼネコン
◆サステナビリティ経営とは何か・事例:全国建設業協会
◆建設業を取り巻く現状
◆生産性の向上と働き方改革
◆DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
◆SX(サステナビリティトランスフォーメーション)
◆政府のカーボンニュートラル宣言
◆グリーン成長戦略
◆カーボンニュートラルは実現できるのか
◆サプライチェーン排出量とは
◆スコープ3に着目するのはなぜか
◆脱炭素ドミノ
◆大手デベロッパーの動向
◆ゼネコン各社の取り組み
◆まとめ
SDGs・ESGといったキーワードに代表されるように昨今、企業経営におけるサステナビリティの視点がより重要視される時代になっています。建設産業も例外ではありません。サステナビリティ経営の視点は、いまやDXの推進と並んで企業経営の一丁目一番地になりつつあります。
なぜ、いまサステナビリティ経営が重視されるのか。その引き金になったのは、政府の2050年カーボンニュートラル宣言です。
企業の規模を問わず、脱炭素化への積極的な貢献が求められる中、カーボンニュートラルを切り口に建設業におけるサステナビリティ経営の最新動向を弊紙での報道を踏まえて解説します。
サステナビリティ経営とは何か?
サステナビリティ経営とは、「社会の持続可能性に配慮した経営」ということです。地球環境に配慮した経営を続ける企業が、社会やマーケットから信頼され、求め続けられます。持続的に発展・成長できることが、サステナビリティ経営を考える上で重要になってくるのです。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
持続可能な開発目標「SDGs」
SDGsとは2015年9月の国連サミットで採択されたもので、日本語では「持続可能な開発目標」と訳します。「誰1人残さない」持続可能で多様性と包含性のある社会実現のため、2030年を年限とする17の開発目標です。⑦エネルギー、⑪都市、⑬気候変動などは、建設業と親和性が高く、建設業が果たすべき役割に大きく関連しています。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
サステナビリティ経営とは何か・事例:大手ゼネコン
大手ゼネコンの事例を紹介します。大成建設株式会社はSDGsへの対応強化のため4月1日付で「サステナビリティ総本部」を新設しました。多くのゼネコンでもSGDs対応は進んでいますが、環境経営推進室などいわゆる「室」レベルの組織であるケースが多いのですが、大成建設が新設したサステナビリティ総本部は建築総本部などと並ぶ組織であり、本業である土木・建築に匹敵する重要な位置付けとなっています。
これまで企業にとって環境配慮などは社会貢献活動であり、経営にとって余計なコストになっていた部分もあるのではないかと思います。しかし、今では環境対応をビジネスとして取り込むことで、企業の成長に直結させるサステナビリティ経営が必要となってきます。最近はこれをSX(サステナビリティトランスフォーメーション)と言います。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
サステナビリティ経営とは何か・事例:全国建設業協会
次は全国建設業協会の取り組み事例です。地域建設業が果たす役割はSDGsに掲げる17の開発目標と親和性が高いですが、建設業のSDGsに対する認知度の低さが多くの企業にとって高いハードルになっています。こうした実態を踏まえ全国建設業協会では「地域建設業SDGs経営指針」を策定しました。既存の経営・業務内容をSDGsと結び付ける「後付けマッピング」を入り口にして、まず自社の取り組みの現状を把握してもらいます。そして、そこで見えてきた経営課題を「先付けマッピング」によって整理し、優先順位を決めて経営戦略に反映させるというものです。
具体的にインフラ整備の推進や、労働時間の短縮、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及など、それぞれの取り組みがどうSDGsに関連しているのかを整理することで、SDGsの実践につなげてもらう内容になっています。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
建設業を取り巻く現状
国土交通省の建設投資見通しによると、直近5年間の建設投資は61兆円から62兆円の間で推移しており、政府予算のうち公共事業関係費は当初予算ベースで横ばいを堅持しています。人口減少下により、中長期的に右肩上がりの伸びは期待できないですが、極端に減ることもなく、横ばいを維持していくでしょう。
また、少子高齢化や急速な人口減少化により、建設業就業者数、建築技能者数ともに減少傾向にあります。さらに高齢化が大きな課題となっています。若者の入職促進のために、働き方改革が待ったなしの状況にあるのです。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
生産性の向上と働き方改革
建設業を取り巻く現状から、まずは建設需要に対応できるだけの担い手確保が重要となってきます。担い手確保を進めるために、週休2日の推進を含む労働環境の改善、すなわち働き方改革を進める必要があります。その一方で、より少ない人数で同じ仕事量をこなす省人化・省力化のための生産性向上に、同時並行的に取り組むことが現在の建設業では必要です。
生産性の向上については、BIM/CIMの活用などデジタルツールを活用した業務の効率化・合理化の視点で、施工だけではなく、現場運営などさまざまな場面でDXが進んでいます。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
DX推進の象徴的な事例として、昨年9月に大手ゼネコンの鹿島建設、竹中工務店、清水建設の3社が中心となり、複数の準大手・中堅ゼネコンが参画する「建設RX(ロボティクストランスフォーメーション)コンソーシアム」が設立されました。建設RXコンソーシアム設立の目的は、建設業が直面する担い手不足と、それに付随して積極的な展開が求められる建設現場の省力化・効率化の推進を、建設業界の共通課題として、連携して解決していくことです。各社は競合関係にありながらも、このようにDXに本気で取り組んでいます。取り組みの必要性に迫られていることを端的に表す事例かと思います。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
SX(サステナビリティトランスフォーメーション)
最近になって、SDGsやSXなどのキーワードが急速に建設業界の中でクローズアップされています。その背景にあるのは政府によるカーボンニュートラル宣言です。世界的な脱炭素化の潮流の中で、大手ゼネコンを中心に、SX、GX(グリーントランスフォーメーション)、EA(エネルギートランスフォーメーション)を企業経営の軸に据えるという動きがますます加速していくでしょう。
特にカーボンニュートラルに的を絞ると、建設市場あるいは金融市場・投資家からの目線に、企業としてどう応えていくのか、サステナビリティ経営に積極的に取り組む企業姿勢を内外にアピールする必要性に迫られているのです。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
政府のカーボンニュートラル宣言
2020年10月に所信表明演説の中で、当時の菅首相が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするというのは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量を継続的に削減すると同時に、それでもなお排出される分から森林などによる吸収量を差し引いて、「差し引きゼロ」を達成するという意味です。
また、政府は2050年カーボンニュートラル実現への中間目標として、2030年のCO2排出量を2013年比で46%削減としました。従来の目標が26%でしたので、46%というのは、ほぼ倍となりかなり衝撃的な数字でした。これがトリガーとなり、一気に脱炭素化推進の流れは加速していきました。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
グリーン成長戦略
政府は2020年12月に、カーボンニュートラル実現への指針となる「グリーン成長戦略」を策定しました。物流や人流、土木インフラ産業、住宅建築物産業を含む重要分野を対象に、温室効果ガスの排出削減や脱炭素技術の需要拡大・コスト低減などの目標を設定しています。このグリーン成長戦略に沿って、予算や税制、政策面で国策として各産業分野のカーボンニュートラルへの取り組みを後押しすることになります。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
カーボンニュートラルは実現できるのか
カーボンニュートラルを実現するための最大の鍵は、排出量の大半を占めるエネルギー起源CO2の削減です。2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、2018年に12.4億トンとなっている排出量を減らす排出削減の取り組みと、森林や大気中に既に存在しているCO2を回収して処理をするネガティブエミッションという吸収・除去の推進によって、差し引きゼロを目指します。ここで重要となるのが、CO2排出量の算定です。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
サプライチェーン排出量とは
CO2排出量の算定手法は、スコープという枠で捉えます。スコープ1は事業者自らによる温室効果ガスの直接排出で、燃料の燃焼や工業プロセスといったものです。スコープ2は他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出、スコープ3はスコープ1、2以外の間接排出となります。スコープ3は事業者の活動に関連する他社での排出であり、自社でコントロールできません。建設業がこれから最も重視していかなければならないのが、スコープ3のサプライチェーン全体での排出量だと考えています。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
スコープ3に着目するのはなぜか
スコープ3に着目するのは、事業活動に関するあらゆる排出を合計した排出量であるためです。原材料の調達から製造、物流、販売、廃棄に至るまで、一連の流れ全体、いわば建物や構造物のライフサイクル全体で排出するCO2排出量が算定の枠の中に入ってくることになります。当然のように施主、顧客からもサステナビリティ経営を求められます。建築主にとっては、工事を発注した先、つまり建設企業の脱炭素化への取り組みはサプライチェーンの中に組み込まれるため、取り組みを進めてもらわなければ困るのです。結果として、建設業はサプライチェーンの一員として、否応なしに脱炭素化の対応に迫られることになります。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
脱炭素ドミノ
サプライチェーンの上流にある企業がCO2排出量を削減すると、下流の取引先までその効果が波及していきます。まさに「CO2削減はみんなで削減=脱炭素ドミノ」と言える状況になっています。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
大手デベロッパーの動向
大手デベロッパーの動向として、工事を請け負う建設業に相応の取り組みを求める動きが表面化しています。例えば、三井不動産レジデンシャル株式会社は、建物の建設段階におけるCO2排出量削減の取り組みとして、施工を担う建設会社に「建設時CO2削減計画書」の提出を求めると発表しています。また、三菱地所株式会社も同様に、グループのサプライチェーン全体におけるサステナビリティ関連の取り組みを推進するため、「サプライヤー行動規範」を制定しています。この行動規範では、建設工事で元請け企業となる1次サプライヤーだけではなく、その下請けとなる2次以降のサプライヤーも対象に組み込んでいます。
いまやカーボンニュートラルへの対応は、発注者にとってもサプライヤーとなる建設業にとっても、決して無視できるものではなくなっています。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
ゼネコン各社の取り組み
大成建設株式会社は建設現場で発生するCO2排出量を計測、集計するシステムを開発しました。AIによる画像認識機能を使い、建設機械の稼働状況から現場で発生するCO2を自動算出します。現場のCO2排出量を正確に把握し、その数値を施主、顧客に提供するという企業としての取り組み姿勢が、サプライチェーン排出量を考える上でそのまま競争力につながるのです。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
まとめ
政府のカーボンニュートラル宣言をトリガーとして、建設業におけるカーボンニュートラルへの取り組みは、経営戦略の一丁目一番地になりつつあります。つまり、脱炭素化を軸にしたサステナビリティ経営の推進こそが最重要課題になっているのです。そして、それはサプライチェーン全体で取り組んでいく必要があることから、大手、準大手ゼネコンだけではなく、地方ゼネコンあるいは専門工事会社、メーカーなどあらゆるプレーヤーに波及していきます。中小企業も決して無視できないというのが、目の前の現実になっています。また、サプライチェーンの一員として、顧客のサステナビリティ対応への貢献を含めた取り組み姿勢を示すことが、競争力になっていくのです。
DX・脱炭素化・GXの好循環とは、脱炭素化によって光熱費などの低減メリットが創出され、金融市場での評価が高まることで、資金調達力がアップする。そして、競争力が高まることで、企業としてのブランド力も高まっていくという循環です。
変化の激しい時代ですが、今後も建設業が取り組むべき経営課題について、紙面を通じて発信していきたいと考えています。ぜひご期待ください。
出典:「2022年建設業の経営課題~サステナビリティ経営と建設業DXの最新動向」セミナー資料より
日刊建設工業新聞社
佐藤 俊之氏
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