インフラメンテが新段階へ-個から群への転換

インフラメンテが新段階へ-個から群への転換

改めて知るインフラの重要性

 2022年2月、ロシアが「特別軍事行動」と称してウクライナに侵攻してから、ちょうど1年が経過しました。膠着状態が続く昨年末、ロシア軍はミサイル攻撃によって、ウクライナの重要なインフラストラクチャーである電力施設を破壊しました。ウクライナ国民は厳冬を電気もない状態で過ごすことを余儀なくされました。

 この攻撃をロシア軍は、ウクライナがクリミア橋を爆破したことに対する報復だとしていますが、それにしても、ウクライナは11月から3月まで「寒い季節」が続き、首都キーフの平均最高気温は4度C未満、1月では平均最低気温は零下6度、最高気温でも零下1度です。こうした厳しい気候条件下での「電気のない生活」というのは、想像を絶する厳しさでしょう。

 このニュースを聞くたびに、ふだん、何気なく使っているインフラのありがたさを、改めて感じます。それは電気だけに限らず、上下水道や物資を運ぶための道路・鉄道・港湾施設なども含まれます。ウクライナからの農産物輸出がストップしたことで、アフリカで多くの人たちに食料が行き届かないという事態も生じており、まさに人道上の問題にまで発展しています。

インフラメンテ元年は10年前

 2012年12月2日、中央道「笹子トンネル」のコンクリート製天井板などが、長さ138mに渡って崩落、車3台が下敷きとなって男女9人が亡くなるという、なんとも痛ましい事故が発生しました。「インフラは劣化する」という当たり前のことが、目の前で現実として具現化されたといえます。それが「インフラメンテ」の重要性を一気に高めたといっても過言ではないと思われます。

 国土交通省は2013年を「社会資本メンテナンス元年」と位置付け、①メンテナンスサイクルの確立②施設の集約・再編等③多様な契約方式の導入④技術の継承・育成⑤新技術の活用⑥データの活用⑦国民の理解と協力――の7項目を掲げ、地方自治体などに対する財政措置、民間資格制度の創設といった施策を展開してきています。同省では、ここまでを「第1フェーズ」とし、2022年から「第2フェーズ」に移行することにしています。

「第2フェーズ」のめざすもの

 第2フェーズでは、インフラを個別の「点」として捉えるのではなく、地域の将来像に基づいて、複数・広域・多分野のインフラを「群」として捉え、総合的・多角的な視点から戦略的に地域のインフラをマネジメントすることの必要性を掲げ「地域インフラ群再生戦略マネジメント」を推進することとしています。

 推進のイメージとして。計画策定プロセスで、まず、群として捉えられたインフラの、地域の将来像に基づいて必要な機能を洗い出し、維持すべき機能、新たに加えるべき機能、役割を果たした機能に再整理した上で、個別インフラ施設の維持/補修・修繕/更新/集約・再編/新設を、適切に実施していくという形をとるとしています。

 その際、主体は地方自治体ではあるものの、国や都道府県、市町村が集まって検討する会議や組織が設置されることも考えられるとしています。基礎自治体より、さらに広域な範囲でインフラの役割を考えることで、より合理的なメンテナンスが可能となるというわけです。

そこに市場はあるか

 国交省は第2フェーズで「速やかに実行すべき施策」として5点を挙げています。第1点が「地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントの展開」、第2点が「そのマネジメントを展開するために必要となる市区町村の体制構築」、第3点が「メンテナンスの生産性向上に資する新技術の活用推進、技術開発の促進および必要な体制の構築」、第4点が「DX(デジタルトランスフォーメーション)によるインフラメンテナンス分野のデジタル国土管理の実現」、そして第5点目が「国民の理解と協力から国民参加・パートナーシップへの進展」です。

 建設産業はこれまで「地域の守り手」という重要な役割を果たしてきました。災害復旧や除雪といった分野で地元建設業者は、なくてはならない存在です。それはなにより、地元をよく知っていること、その地域での高い機動性があるからだと思われます。今後もその役割は変わらないでしょう。もちろん、インフラ整備・メンテナンスという点でも同様です。

 第2フェーズでは、これまでの点で行ってきたインフラメンテが、群に変わるという変化を見せます。同時に、その地域の将来像に適したインフラのあり方と今後の対応策策定という業務も生まれます。インフラメンテは複数の分野におよび、自分が不得手であった分野にも進出せざるを得なくなる可能性も高くなります。「地域の守り手」を標榜してきたのですから、「得意分野ではない」といって何もしないわけにはいかなくなるでしょう。得意分野が違う地元企業がコラボレーションしつつ、地域の守り手としての役割を果たしていくという姿が描き出されます。

待ったなしの老朽化対策

 第2次世界大戦から戦後復興、高度経済成長とわが国は世界が驚くほどのスピードで復興を遂げました。その時代に整備されたインフラは、限界を迎えつつあります。個別の対応には財政的にも能力的にも限界があります。

 地域の将来の姿を描きつつ、従来の自治体という「枠」を超えたインフラ対策は、国土、地域を守る建設業に、新たな活躍の場を与えてくれるものとなるでしょう。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
顧問
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。

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