令和元年の建設投資はこうなる︕建設業界の課題解決

令和元年の建設投資はこうなる︕建設業界の課題解決
荒木 正芳 氏

北海道建設新聞社グループ
株式会社建新総合研究所
代表取締役社長
荒木 正芳 氏

 地方統一選挙も終わり、公共工事の発注が本格化する中、建設投資は公共事業の増額予算によって、久しぶりに明るい状況に。

 しかし、人手不足や資材不足の影響で、手放しでは喜べないのが実態。

 新元号「令和」に変わり、本道の建設需要はどうなるのか、建設業界はどんな課題に直面しているのかを分かりやすく分析・解説いただきました。

令和元年度の公共工事展望

令和元年度の公共工事展望:国土強靭化に3カ年で7兆円を投入

 2018年12月、「防災・減災、国土強靭化のための3か年の緊急対策」が閣議決定され、7兆円を投入して強い国土づくりを進めることが決まりました。
地震、爆弾低気圧、集中豪雨など、平成は非常に災害の多い時代でした。
そこで、国土のインフラを見直し、もう一段レベルの高い防災・減災に取り組むことになりました。

令和元年度の公共工事展望

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

北海道開発予算、異次元の予算編成

 北海道の場合、北海道開発予算として一括して計上され、他府県にない仕組みで予算が決まります。
このうち北海道開発事業費は、北海道全体の公共事業予算です。
開発事業費は、ほぼ横ばいで推移してきましたが、国土強靭化の予算がついたので、2019年度の当初と補正を合わせた金額は前年より15%も増加しました。
しかも、災害復旧費は含まれていません。胆振東部地震の災害復旧費は1,000億円超が見込まれています。

北海道開発事業費の推移

 図を見ていただければわかる通り、1999年度予算は膨大でした。
小泉構造改革がスタートして公共事業費の削減が進み、北海道開発予算も急激に減少しました。
民主党政権時に、どん底になりましたが、自民党政権が復活してアベノミクスが始まり、やっと予算も回復しました。

北海道開発事業費の推移

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

新規事業も続々とスタート

 新しく採択された事業も続々とスタートしています。
予算が少ないとき、新規事業は見送られ、継続事業が中心でしたが、2019年度は新規事業も目白押しの状態です。
道横断道の尾幌-糸魚沢間という釧路から根室に向かうルートや札幌都心アクセス道路は工事が始まり、道横断道の堪能-高野間や北見の高速道路も計画段階評価を経て事業着手に向けて動き出しました。

 防災事業も野塚防災、清瀬防災工事があり、それぞれ総事業費は120億円になると見られています。
いったん事業化されれば、予算が毎年つきますから、将来に向かって明るい展望が開けました。

胆振東部地震が発生、大規模な斜面崩壊や家屋の倒壊も

 2018年9月6日、胆振東部地震が発生しました。
北海道では経験したことのない震度7という激しい地震で、死者は41人、震源地に近い厚真、むかわ、安平町では大規模な斜面崩壊や家屋の倒壊が起きました。

胆振東部地震:札幌市内でも大きな被害が

 札幌市清田区里塚では路盤崩壊、東区では道路の陥没、液状化によって大きな被害が出ました。

胆振東部地震:札幌市内でも大きな被害が

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

胆振東部地震:「ブラックアウト」「断水」で、市民生活と経済活動に大打撃

 ブラックアウト(大規模停電)が起き、北海道全域にわたって市民生活と経済活動に大きな打撃を受けました。
非常用電源の重要性を再認識させられました。

胆振東部地震:被害は公共土木施設で1,500億円超

 土木施設の被害総額だけで1,500億円を超えました。
復旧・復興への動きが本格的に始動し、予算もつきました。
公共工事請負額の統計を見ると、胆振管内だけで現時点で前年度8割増の工事が予定されています。
企業のBCP(事業継続計画)のあり方も議論になりました。問題は発注者がBCPをつくっていなかったことです。
安否確認もできないし、いろいろなところから同じような司令・指示・依頼が来て現場は戸惑いました。
BCPを認識し、きちんと用意しておかなければ、同じようなことを繰り返してしまう。地方自治体も企業も大きな宿題を抱えました。

胆振東部地震:被害は公共土木施設で1,500億円超

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

胆振東部地震:厚真川水系で直轄砂防事業に着手

 直轄農業の敷設し終わった用水路がズタズタになりました。
直轄農業4地区の復旧総額は約485億円。
お金もかかるし、年月もかかります。2019年2月以降、発注が本格化しました。

建設業界が直面する人材問題

建設業界が直面する人材問題:技術者、技能者、建設作業員いずれも不足。

 今、業界が一番頭を痛めているのが人手不足の問題です。
技術者、技能者、即戦力のベテランもいないし、若い人もいない。型枠大工の不足は慢性的な状態。
バブル時に高い賃金をもらっていた型枠大工はバブル崩壊後、単価が下がって生活できなくなり、転職したり、道外に移ったりしました。型枠大工の会社も本州に軸足を移しました。
型枠大工の数は道内で2,000人を切っているかもしれません。
通年で仕事のある本州に軸足を移さなければ生き残れない。
型枠大工の場合、若い子を入れて育てても1年や2年では、まったく通用しません。
7~8年経験して初めて頭の中で図面を展開し、施工図・加工図がつくれるようになる。
工法も型枠大工を使わないS造などに切り替わりつつあります。

労務単価は上昇、公表開始以来最高額を更新

 平均労務単価の推移を見ると、自民党政権になってから意図的・政策的に上昇しており、2019年度には公表開始以来最高額を更新しました。
東日本大震災の復旧で職人が東北に移動、国民・勤労者所得を上げようという政府方針もあり、労務単価は上昇。ピークだった1997年度を超えるまでに回復しました。
それでも人手不足は解消しません。北海道の場合、宮城、東京との差が大きいのも悩みのタネです。

道内建設業界の高齢化は深刻

 もう一つの問題は高齢化です。
若い人が入ってきませんし、せっかく入ってきても定着しない。
必然的に高齢者に頼らざるを得ません。
定年を過ぎても会社側が引き止め、現場の第一線に投入しています。

道内建設業界の高齢化は深刻

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

他産業、全国と比較しても、道内の人材問題は深刻

 生産年齢人口が少ないうえに、北海道は他府県よりも人口減少のスピードが速い。
建設業に限らず、農林水産業、製造業、小売業などでも人材の取り合い合戦が始まっています。

建設業の担い手確保・定着対策

建設業の担い手育成・確保対策:高齢化が急速に進行

 建設業就業者のうち55歳以上と29歳以下の割合をグラフに描くと、ワニの口のように広がっています。
建設業は全産業よりも口が大きく開いている。
小泉構造改革以降、予算が減少し、建設業者の数も減りました。
若い人がいなくなり、高齢者が残りました。
2013年から14年にかけて官民挙げて建設業を押したことで若い人が3万人増えましたが、若い人が少ない状況は続いています。

建設業の担い手育成・確保対策:高齢化が急速に進行

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

高校生の子を持つ母親との懇談会で出た主な意見

 札幌建設業協会は毎年、高校生を対象に建築現場見学会や講演会を行っています。
その時、アンケート調査も実施。「進路を決める際、誰と相談しますか」の回答は1位が母親、2位が学校の先生、3位は、ぐっと下がって父親でした。
母親に「高校を卒業したら建設業者に就職したい」と相談すると、「危ないからやめなさい。休みも少ないみたいだし」とアドバイスされる。
母親たちは建設業に対して夏場は仕事があるが、冬は失業するというイメージを持っています。

建設業の担い手育成・確保対策:高齢化が急速に進行

 高校生を持つ母親を呼んで懇談会を行った際、下記のような意見がありました。

建設業の担い手育成・確保対策:高齢化が急速に進行

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

高卒の建設業就業者離職率は全産業の離職率より高い

 高校を卒業して建設業に入った者の3年以内離職率は46.8%です。全産業の離職率より高い。
土曜日が仕事だと友人と遊びづらいので、多少給料が低くても土日が休める職場を選んでいます。

高卒の建設業就業者離職率は全産業の離職率より高い

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

大卒の建設業就業者離職率は全産業より低い

 対して大卒は建設業のほうが全産業よりも離職率は低い。
土木や建築などの専門学科に学び、専門知識を習得して、ある程度、ものづくりに興味を持ったまま仕事に就くことから比較的定着しています。

大卒の建設業就業者離職率は全産業より低い

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

新規高校卒業就職者の離職状況を北海道と全国で比較

 北海道高校生の3年離職率は60.1%です。6割が辞めてしまう。
全国は48.5%ですから、北海道の離職率の高さが際立っています。

現場見学会や出前講座が効果を発揮

 何とか歯止めをかけようと、いろいろな団体が取り組んでいます。
建設二世会は学校へ出前講座に行ったり、現場見学会で測量体験などをしてもらったりすることで、建設業の魅力を伝えています。
親子見学会、防災運動会なども開き、市民を巻き込みながらPR活動を続け、効果も上がってきました。

現場見学会や出前講座が効果を発揮

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

女性主人公のマンガで建設業の仕組みと魅力を伝える

 北海道建設業協会は他の団体と協力し、『ただいま工事中!!』というマンガを作成、道内の高校に2万冊贈呈しました。
女性のとび工が現場で頑張るという設定で好評を呼び、第2弾も出ました。
建設業振興基金という国土交通省の外郭団体は入職促進のポータルサイトをつくり、PRしています。

女性主人公のマンガで建設業の仕組みと魅力を伝える

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

ドレスメーカー学院とコラボし、生徒から作業着デザインを募集

 北海道建青会(建設二世の全道組織)は北海道ドレスメーカー学院とコラボし、「ドレメコンペティション」を開催しました。
オホーツク二建会という網走建設業協会の二世会のアイデア。
建設業のPR・イメージアップのために格好いい作業着をつくろうと、同学院の生徒から作業着のデザインを募集して11点の優秀作を決めました。

作業着ファッションショーは大きな注目を集めた

 建青会の若手11人がモデルになり、北見の全道大会でファッションショーを実施しました。
話題性があり、テレビでも報道され、北海道新聞でもカラー紙面で取り上げられました。

作業着ファッションショーは大きな注目を集めた

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

土木の世界で活躍する女性たち

 女性の土木技術者は少ない。特にヘルメットをかぶって現場に入っている女性技術者は北海道では数えるほどしかいません。
岩田地崎建設のIさんは非常に有名で、北海道新聞やテレビにも、たびたび出演しています。
工業高校時代、橋のデザインコンクールで優勝し、橋を設計する技術者になりたいと工業大学に入り、卒業と同時に岩田地崎建設に入社しました。
面接の際、「現場に出してくれないなら、採用しなくて結構です」といいきった猛者です。

「建設どさん娘の会」が発足し、活発に勉強会、意見交換会を

 「建設どさん娘の会」が発足、建設業で働く女性技術者、女性技能者が活発に勉強会や意見交換会を行っています。

人材確保・定着の課題

 人材確保・定着の主な課題として下記の5つがあります。
やはり、3年以内の離職をどう食い止めるのかが一番の課題です。
協会やグループで入社3年以内の新人の共同研修などを開催し、出席者同士が横の連携をとり、困ったことや悩みごとを相談しあえるようにしようという取り組みもあります。
新3K(給料、休暇、勤務時間)対策も重要です。
週休2日で育ってきた人たちにとって「土・祝日の仕事」は受け入れにくい。
これも大きな課題です。工業高校の土木科は減っており、普通高校の卒業生を雇わざるを得ない。
ただ、普通高校卒業生が20代で1級土木施工管理技士の資格をとるためには専門学校に行くしかありません。
企業のサポートが重要で、実際、お金を出して専門学校に行かせている企業はたくさんあります。

人材確保・定着の課題

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

教師や親もターゲット、「十勝建設産業の未来を考える会」

 人手不足の問題は一企業では解決が難しい。産学官でスクラムを組んでやろうという取り組みです。
高校生に現場をアピールするとともに、教師や親もターゲットとした活動も行っています。

地元での採用・確保ねらう「日胆地区これからの建設技術者を育てる会」

 胆振地域には室蘭工大、苫小牧高専、工業高校がありますが、地元で採用・確保ができない。日高地域には専門教育機関すらありません。
地場の建設業が管内の若い技術者を確保して定着させるために官民が協力して活動を進めています。

札幌圏と郡部との差を、どのように埋めるか

 札幌圏と郡部との差は人が採れるか採れないかです。
そこで札幌の会社を買って子会社化し、札幌で人を確保して網走、函館など全道各地に回すという取り組みを開始した企業もあります。
いずれにせよ人材の確保・定着対策が生き残りの大きなポイントであることは間違いありません。

札幌圏と郡部との差を、どのように埋めるか

出典:「令和元年の建設投資はこうなる︕~建設業界の課題解決~」セミナー資料より

荒木 正芳 氏
 講師ご紹介 

北海道建設新聞社グループ
株式会社建新総合研究所
代表取締役社長 荒木 正芳 氏

建新総合研究所(略称・建新総研)は、北海道建設新聞社の100%子会社で、建設分野に特化したシンクタンクです。
建設業界の使命や公共事業の役割を一般の人々に理解してもらうための「通訳」として活動していく一方、働き方改革やi-CONの対応、担い手確保など様々な課題に直面する建設クライアントのお役に立てる企業として2019.4.1に設立されました。

【本セミナーレポートに関する免責事項】
当サイトへの情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、
最新性、有用性等その他一切の事項についていかなる保証をするものではありません。
また、当サイトに掲載している情報には、第三者が提供している情報が含まれていますが、
これらは皆さまの便宜のために提供しているものであり、
当サイトに掲載した情報によって万一閲覧者が被ったいかなる損害についても、
当社および当社に情報を提供している第三者は一切の責任を負うものではありません。

また第三者が提供している情報が含まれている性質上、
掲載内容に関するお問い合わせに対応できない場合もございますので予めご了承ください。

プライバシーマーク