はじめに
2019年6月に「担い手3法」が「新・担い手3法」として改正され、現在、この浸透を図るため、全国的に様々な取り組みが進められています。
2014年に品確法・建設業法・入契法が一体として改正された「担い手3法」は、適正な利潤を確保できるよう予定価格を適正に設定することや、ダンピング対策を徹底することなど、建設業の担い手の中長期的な育成・確保のための基本理念や具体的措置が規定されました。
「担い手3法」による5年間の成果を更に充実させ、新たな課題に対処すべく、「新・担い手3法」として改正がなされ、現在その取り組みが活発化しています。今回はこの「新・担い手3法」の改正背景及び概要について見ていきたいと思います。
新・担い手3法の改正背景
建設業界を取り巻く現状と課題について、国土交通省は、以下の項目を挙げています。
①労働者の高齢化と人員不足
- 60歳以上の高齢者(82.8万人、25.2%)の、10 年後の大量離職が見込まれ、それを補う若手入職者の数が不足
②給与賃金体系の見直しの必要性
- 建設業全体でみると給与は上昇傾向にあるが、技能者については製造業と比較して低水準
- 技能者の賃金ピークは体力のピーク(40代後半)となっており、マネジメント能力等の評価が不十分
③社会保険の更なる加入促進
- 社会保険の加入は一定程度進んでいるが、 下位の下請になるほど加入率が低い
④長時間労働
- 建設業は全産業平均と比較して年間300時間以上、製造業と比較して年間80時間以上労働時間が長い
- 他業種では当たり前となっている週休2日制が進んでいない
新・担い手3法においても、上記課題への対処が盛り込まれており、当該改正の最終的な目標は、建設業界に働きやすい環境を整え、人材確保・維持に繋げることにあると言えます。
新・担い手3法の概要
新・担い手3法は、主に以下の3項目に分けられます。
- 働き方改革の促進
- 生産性向上への取組
- 災害時の緊急対応強化/持続可能な事業環境の確保
各項目の内容を以下の表にまとめてみました。
新・担い手3法の項目別内容
働き方改革の促進 | 工期の適正化 | 休日、準備期間、天候等を考慮し、著しく短い工期を禁止 |
---|---|---|
中央建設業審議会が、工期に関する基準を作成・勧告 | ||
施行時期の平準化 | 債務負担行為・繰越明許費の活用による翌年度にわたる工期設定 | |
中長期的な発注見通しの作成 | ||
適正な額の請負代金・工期での下請契約の締結を規定 | 著しく短い工期による請負契約の締結を禁止し、違反者には国土交通大臣等から勧告・公表 | |
現場の処遇改善 | 建設業許可の基準を見直し、社会保険への加入を要件化 | |
下請代金のうち、労務費相当は現金払い | ||
生産性向上への取組 | 情報通信技術の活用 | |
技術検定制度の見直しによる技士補の登場 | ||
技士補を配置する場合、監理技術者の複数現場の兼任を容認 | ||
一定未満の工事金額等の要件を満たす場合は、主任技術者の配置を不要化 | ||
工場製品等の資材の積極活用による生産性向上 | ||
災害時の緊急対応強化/持続可能な事業環境の確保 | 災害時における発注者の責務規定 | 緊急性に応じた随意契約・指名競争入札等の適切な選択 |
災害協定の締結、発注者間の連携 | ||
労災補償に必要な費用の予定価格への反映や、見積り徴収の活用 | ||
災害時における建設業者団体の責務追加 | 建設業者と地方公共団体等との連携の努力義務化 | |
経営管理責任者に関する規制を合理化 | 経営管理責任者について、建設業経営に過去5年以上の経験者が役員にいないと許可が得られないとする現行の規制を見直し、事業者全体として適切な経営管理責任体制を要求 | |
建設業の許可に係る承継に関する規定を整備 | 合併・事業譲渡等に際し、事前認可の手続きにより円滑に事業承継できる仕組み構築 |
上記の他に、品確法において、「公共工事に関する測量、地質調査その他の調査(点検及び診断を含む。)及び設計」を、基本理念及び発注者・受注者の責務の各規定の対象に追加するといった調査・設計の品質確保が求められています。
おわりに
今回は、「新・担い手3法」について、改正の背景と概要を確認しました。
ここまで確認したように、「新・担い手3法」の浸透には、長時間労働の是正などによる働き方改革の推進、限りある人材の有効活用、情報通信技術による生産性向上、頻発・激甚化する災害対応の強化が期待されます。それによって建設業界全体の魅力を増すことが、業界の課題である人材確保・維持につながると言えます。
通常時のインフラ整備のみならず、災害時における地域復旧・復興を担うなど「地域の守り手」としても活躍する建設業者が継続的に発展していくためにも、「新・担い手3法」の浸透は急務といえます。
当コラムが、「新・担い手3法」の理解の参考となれば、幸いです。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。