動き出した国土強靱化対策 予算確保と法制度の見直しが来年の焦点に

動き出した国土強靱化対策 予算確保と法制度の見直しが来年の焦点に

 国土強靱化基本法に基づいた「基本計画」の見直し議論が内閣官房や与党内で動き出した。内閣官房は「ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会」(座長・小林潔司京都大学名誉教授)を10月末に開催し、国土強靱化政策の展開方向と検討課題を確認。自民、公明両党も国土強靱化政策の新たな方向性を話し合う与党プロジェクトチーム(PT)を立ち上げた。この中で国土強靱化基本法の見直しや、現行の「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の後継となる新事業実施計画の策定なども検討するという。国土強靱化政策のこれまでの動きと現状をまとめた。

第2次補正予算の公共事業費の6割以上が国土強靱化関連予算

 政府が11月8日に閣議決定した2022年度第2次補正予算案では、総合経済対策の関係経費として総額29兆0861億円が計上された。国土交通省分は2兆0355億円で、うち公共事業費は1兆6174億円。内訳は防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策に1兆0358億円、生産性向上などに2548億円(うちこどもエコすまい支援事業1500億円)、災害復旧などに3268億円を充てる。

 この金額を見ても分かるように、コロナ禍の経済対策としてこの3年間、大型補正予算が毎年度編成されているが、公共事業費だけを見ると、国土強靱化のための5か年加速化対策の予算が公共事業費の6割以上を占めている。

 一方、他省庁分も含めた国土強靱化のための5か年加速化対策予算をみると、2020年度第3次補正予算で約1・7兆円(国費)、2021年度補正予算で約1・3兆円(同)、今回の2022度(2022年度)補正予算で約1・3兆円(同)で計約4・3兆円が計上された。この額は年間の公共事業費全体でみても約15%を超える大きな金額となっている。いまや国土強靱化のための5か年加速化対策予算がどのくらい計上されるかが、公共事業費の増減に大きな影響を与えている(表1)。

表1 一般公共事業(国費)の当初予算の配分の推移

東日本大震災を契機に、自然災害から国民を守る目的で法律を制定

 では、国土強靱化対策予算は、どのような経緯でできたのか。ご存じの方も多いと思うが、整理してみた。きっかけは2011年3月に発生した東日本大震災。当時、野党だった自民党の二階俊博氏が党内に国土強靱化に向けた勉強会を立ち上げ、地質や防災の学識者だけでなく、経済界の各専門家を招き、国土強靱化に向けたヒアリングを実施。その成果を踏まえ、事前防災・減災対策などハード面だけでなく、緊急輸送や緊急医療体制など、大規模自然災害から国民を守る各種施策の必要性を訴えた「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱(きょうじん)化基本法」を議員立法で2013年の臨時国会に提出。同年12月に成立した。

 同法は「国土強靱化大綱」と「国土強靱化基本計画」の策定を政府に義務付けたほか、都道府県・市町村にも、国の計画と調和した「国土強靱化地域計画」の策定を求めた。その際、既存の社会資本の有効活用や、施設・設備の効率的な維持管理、自然との共生などに配慮するとともに、民間資金の積極的な活用や、研究開発の推進、その成果の普及に努めることも明記された。公共工事予算のばらまきにつながるとの懸念があることを踏まえ、財政資金の効率的な使用も示された。

 同法に基づいた基本計画は2014年3月に閣議決定された。今後30年以内に70%の確率で発生すると予測されている首都直下や南海トラフの両大地震で懸念される建築物の倒壊・火災や大津波に備える対策が柱となった。国土の脆弱性評価結果も示され、これに基づいて防災・減災対策を優先順位付けした。ただ、各種施策に対する予算措置は予算編成や税制改正で後押しする方針が示されただけだった。

相次ぐ自然災害を踏まえ、基本計画を見直し、緊急3カ年対策を実施

 その後、基本計画に沿って国土強靱化策が実施されたが、2016年4月に熊本地震、2018年7月に7月豪雨(西日本豪雨)、同9月に台風21号による豪雨災害、北海道胆振東部地震など自然災害が相次いで発生。こうした自然災害で得た知見、社会情勢の変化などを踏まえ、同年12月に基本計画を見直した。

 新基本計画では、事前実施した重要インフラの緊急点検結果なども考慮し、▽災害から得られた知見の反映▽社会情勢の変化などを踏まえた新技術の活用や地域リーダーの育成▽災害時に重要なインフラ整備、耐震対策・老朽化対策、BCPの普及などの継続実施▽重点化すべきプログラムなど20プログラムの選定―などが盛り込まれた。

 このうち、重点化プログラムに選定された施策は、緊急を要する施策もあったため、それらを3カ年緊急対策として位置付け、達成目標や実施内容などを明示し、集中的に事業を実施することにした。具体的には2018年から2020年度までの3カ年で約7兆円の事業規模を想定(国費ベースでは約2・5兆円)し、▽大規模な浸水、土砂災害、地震・津波などによる被害の防止・最小化▽医療活動などの災害対応力の確保▽避難行動に必要な情報の確保▽電力などエネルギー供給の確保▽食料供給、サプライチェーン等の確保▽交通ネットワークの確保▽情報通信機能・情報サービスの確保ーなどに関する160項目の施策を展開した。

5か年加速化対策は5カ年で15兆円、これまで半分以上を予算化

 緊急3カ年計画は、7兆円の事業規模となったが、政府が策定するインフラ整備に関する中長期計画で予算規模を示すことは、ここ十数年なかったことで、極めて異例と言える。さらに事業費が当初予算に別枠計上された措置も特筆される。

 この3カ年緊急対策を実施している間も、2019年9月に房総半島台風(台風15号)、同10月の東日本台風(台風19号)などによる被害が発生。こうした状況なども踏まえ、3カ年緊急対策の最終年度となる2020年12月、政府は新たな緊急対策となる「国土強靱化のための5か年加速化対策」(2021~2025年度)を閣議決定した(表2、表3)。

表2 国土強靭5カ年加速化対策
事業規模 概ね15兆円
うち公共インフラ関係 概ね6割程度
所要総国費 概ね7兆円台半ば
うち公共インフラ関係 概ね8割程度
表3 国土強靱化予算インフラ関係国費:兆円
2020年度第3次補正予算
国土強靱化加速化5カ年
約1.7兆円
2021年度補正予算
国土強靱化加速化5カ年
約1.3兆円
2022年度補正予算
国土強靱化加速化5カ年
約1.3兆円
国土強靱化加速5カ年
累計
約4.3兆円
※表はいずれも佐藤信秋参議院議員事務所作成の資料から作成

 5か年加速化対策は、激甚化する風水害への対応や切迫する大規模地震への対策、老朽化するインフラ施設の維持更新を加速させることが盛り込まれた。具体的には▽河川の河道掘削、堤防強化▽高規格道路のミッシングリンクの解消▽送電網の整備、強化▽インフラ施設の老朽化対策▽学校施設の老朽化対策ーなど幅広い分野の123対策を整備目標に定め、5カ年に重点的に実施するとした。

 事業規模は約15兆円で、国費ベースでは7兆円台半ばと見られている。うち公共インフラ関係に限ってみると、事業規模が約9兆円、国費ベースが約6兆円。予算規模で言えば前の3カ年緊急対策に比べ3割増しとなったが、この3年間は前述したように予算措置がすべて補正予算で計上されており、当初予算での別枠計上はされてない。このため、予算措置に不安を抱える自治体なども多い。また、国費累計は本年度分も足すと、すでに4・3兆円に達しており、来年度も同規模の予算が確保されれば、最終年度の2025年度の予算は極端に減額される可能性があり、この点についても自治体や建設業界からは、確実な予算確保を要望する声が高まっている。

岸田首相の指示で、来夏までに基本計画を見直し、中長期計画を法制化

 今回の国土強靱化基本計画の見直しは、岸田文雄首相が10月25日の国土強靱化推進本部で、現在検討中の次期国土形成計画と一体として、基本計画を来夏にも改定するよう指示。これを受け、内閣官房が「ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会」(座長・小林潔司京都大学名誉教授)を10月31日に都内で開催し、国土強靱化政策の展開方向と検討課題を確認した。現在、脆弱性の予備評価を実施中で、起きてはならない最悪の事態を回避するために必要な施策や解決課題などを今後整理する。2023年1月をめどに結果をまとめ、同3月末にも基本計画の改定案を作成する予定。脆弱性評価結果も本年度中にまとめ、2023年夏に次期基本計画の閣議決定を目指している。

 一方、自民、公明両党が立ち上げた与党プロジェクトチーム(PT)は11月17日に東京都内で初会合を開いた。来年12月で制定から10年を迎える国土強靱化基本法の見直しを議論。現行の「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の後継となる5~10年程度の新たな事業実施計画を検討していくという。

 会合は非公開のため、詳細は不明だが、自治体や建設業界などからの強い要望も踏まえ、新たな中長期事業計画の法制化を検討。将来にわたり安定した行政運営や企業経営が見通せるような財源の確保を後押しする方針だ。

25年度から実質1年前倒しで次期計画を実施、安定した強靱化予算を

 現行の5か年加速化対策の事業は、2021~2023年度の3年で約4兆~5兆円になる見通しで、最終年度の2025年度の支出は大幅に減るとの見方が強い。PTの佐藤信秋事務局長(参議院議員)は5か年加速化対策後の後継計画について、2025年度から実質1年前倒しする形で始める必要性を述べている。

 国土強靱化に関する法制度や基本計画の見直しは、事業内容や予算確保などの面で建設業界に大きな影響を与えることは間違いない。異常気象による自然災害は毎年のように発生し、南海トラフや首都直下など髙確率で大規模地震の発生を指摘する意見もある。こうした状況で、事前防災・減災対策の予算を削減することは許されない。建設業界も安定的な事業費のもとで、賃金アップや週休2日制の導入、労働時間の短縮、技能者の処遇改善などを進めてきた。もし、予算が削減されると、こうした事業が後退することも考えられる。国土強靱化関連予算は増やすことはあっても、減らすことはあってはならない。

坂川 博志 氏
 執筆者 
日刊建設工業新聞社
常務取締役編集兼メディア出版担当
坂川 博志 氏

1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。

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