1. はじめに
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が国連で採択されてから6年が経ちました。言葉自体の認知度は高まり、2021年6月に実施された帝国データバンクの調査によれば「SDGsに積極的な企業」は39.7%まで上昇しましたが、まだSDGsに取り組んでいないという企業は50%を超えています。積極的な企業を規模別にみると、大企業が55.1%、中小企業が36.6%と大きな差があるということが明らかになりました。
建設業界では小規模な事業者も多く、SDGsに取り組むことへハードルを感じている方もいらっしゃるかもしれませんが、今回は事業規模にかかわらずSDGsに取り組むことのメリットや中小企業が取り組む際のポイントをご紹介したいと思います。
2.SDGsとは
まずはSDGsについて、内容を改めて確認したいと思います。
そもそもSDGsは何のために設定された目標かご存知でしょうか。それは「“誰ひとり取り残さない(Leave no one behind)”持続可能で多様性と包摂性のある世界」を実現するためです。その世界を実現するために、2030年を年限とする17の国際目標が国連で採択されたのです。
17の目標は以下のようになっています。
(出典:https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/)
これらの目標の下にはそれぞれ具体的なターゲットが定められており、その数は169に及びます。ユニセフのHPなどではこどもでもわかりやすいように解説したページなどもありますので一度全てのターゲットに目を通してみることをおすすめします。誰しも興味のある分野、または取り組みやすい分野があるのではないかと思います。
SDGsは、企業だけでなく、国際機関・政府・企業・学術機関・市民社会・子どもも含めた全ての人がそれぞれの立場から目標達成のために行動することが求められている点が、これまで提唱された国際目標であるCSRやESGとは大きく異なるポイントです。「SDGsは地球規模での話であり、自社で活動できることがあるのだろうか」と疑問をもたれるかもしれませんが、各国で行われる対応は最終的に個別の企業の取り組みとして実行されるため、次項のステップを踏みつつ中小企業においても取り組みを行っていくことが求められます。
3.SDGsに取り組むステップ
取り組むにあたって、まずは基本のステップを示します。これはSDG compass(https://ungcjn.org/sdgs/files/SDG_COMPASS_Jpn.pdf)でも示されており企業規模問わず活用される手順ですが、ここでは中小企業で取り組む際に参考となるように、整理しポイントを追記しています。
【ステップ1】SDGsを理解する
企業活動にSDGsがもたらす機会と責任を理解することから始まります。はじめは抽象的な理解になってしまうかもしれませんが、ある程度理解が進んだら次のステップに進み、実践の中で理解を深めていくという方法でもかまいません。
【ステップ2】優先課題を決定する
自社の課題の所在を明らかにすることで重点的に取り組むべきSDGs目標を明らかにします。17の全ての目標に取り組む必要はなく、自社の課題・強みと関連がある17の目標を見つけます。自社のバリューチェーンをマッピングし、SDGsの各課題と関連づけ、自社の活動が影響を与える可能性が高い領域を特定します。この時大切になるのが、正の影響だけでなく負の影響についても考慮すること、現在だけでなく将来的な影響についても考慮することです。
(出典:https://ungcjn.org/sdgs/files/SDG_COMPASS_Jpn.pdf)
影響のある領域が明確になったら、自社の活動とそれがSDGs課題に対して与える影響を表す1つ以上の指標を決めます。
自社の活動とその影響を直接測定するのは困難なケースが多いので、代替的に利用できる指標を既存の購買システムなどから選定します。その際には以下のようなロジックモデルを意識すると良いとされています。最終的なアウトカム(=結果)こそ、本来指標として設定したいところであることが多いと思いますが、ロジックモデルの下流(図中右側)に行けばいくほど測定データの入手は難しくなるため、上流で入手可能なデータを測定指標とするのがポイントです。
※↑ 画像をクリックすると拡大表示されます。
(出典:https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/01/gra_pro_soc_gui_03.pdf)
ここまでで自社の活動の影響の規模、強度、可能性や重要性などを把握し、その結果をふまえて優先すべき課題を選別します。
【ステップ3】目標を設定する
目標の設定はステップ2における指標を土台とし、具体的かつ計測可能で期限付きの持続可能な目標とすることが重要です。そして、その目標の全部または一部を公表することが推奨されています。
具体的には、自社で行う取り組みと共に該当するSDGsの目標をホームページ上に掲載するなどが一般的です。
それにより、従業員や取引先のモチベーションを高めたり、外部のステークホルダーと建設的な会話がなされたりすることが期待できるからです。
【ステップ4】経営へ統合する
設定した目標達成のためには、目標を組織で共有しなければなりません。SDG compassでは設定した目標を組織へ定着させるには2つの原則が重要であるとしています。
1つは特に事業として取り組む根拠を明確に伝えることです。持続可能な目標に向けた取り組みの進展が企業価値を創造することや、それが他の事業目標達成に向けた取り組みを補完することについて、 共通の理解を醸成することが重要です。
2つ目は持続可能な目標を全社的な達成度の審査や報酬体系に組み込むこととされています。具体的には、部門や個人が当該目標の達成において果たす役割を反映した特別報償を設けることなどが挙げられます。企業風土によって最適な進め方は異なると思いますが、トップがリーダーシップをとって、各従業員が当事者意識を持てるように意識を醸成していくことが重要です。
【ステップ5】報告とコミュニケーションを行う
中小企業の場合、大企業や上場企業のようにサステイナブルレポートを作成する必要はありません。ただ、日常のコミュニケーションの中でSDGsの取り組みを話題にしようと意識することは効果的です。例えば顧客や金融機関とのちょっとしたコミュニケーション、また採用の場面で企業アピールの一環として話題にするといったことです。こうした意識が他の企業との差別化要因となる可能性も十分あります。
ただし、取り組みを誇張したり、実態が伴っていないことを話したりすることがないように留意しましょう。こういった見せかけだけのSDGsの取り組みは“SDGsウォッシュ”と言われ非難の対象となっています。
4.中小企業におけるSDGsのもたらすメリット
ここでSDGsに取り組むことで経営にプラスになることを特に中小企業の視点で挙げたいと思います。
① 金融機関、取引先、顧客などから信頼を得やすい
② 人材確保に有利になる
③ 社員のSDGsへの意識の高まりがニュービジネスや業務改善につながる可能性がある
補足しますと、①については、現状国としてのSDGsの認証制度はありませんが、認証制度を設けている自治体もあります。今後、そうしたSDGsへの取り組みが金融機関の審査や入札時の入札資格に影響してくる可能性は十分考えられます。実際にSDGsに取り組む企業に有利な金融商品が発表されています。また、エシカル消費を意識する消費者が確実に増加している中、SDGsに取り組まないことによるリスクは今後ますます増大していくとされています。
②の人材確保については採用活動だけにとどまらず、既に雇用している従業員の満足度にもつながる点も見逃せません。たかがSDGsで勤務先を決めるのだろうか、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、今の学生は義務教育からSDGsについて学んでおり、その評価については既に社会経験が長い大人よりシビアといえるかもしれません。
そして、実際にSDGsへの取り組みは長期的に利益につながる点もポイントです。SDGsの対象である17の課題の市場規模は各70~800兆円と言われており(参考:https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/dev/md_3079.pdf)、あらたなビジネスチャンスや経営の強化につながる可能性をもっています。
5.建設業で取り組む事例
建設業界でSDGsに取り組む企業は調査によっては5割超とされていることもあり、決して遅れている業界ではないかもしれません。しかし、だからこそ取り組まないことのリスクがあることを意識しておきたいところです。また前述したように実際にビジネスチャンスとして活かしている中小企業も多く出ています。具体的にどのような目標を設定して、それをどのような指標で測っているのかイメージして頂くために建設業界でいち早く基幹事業とSDGs課題の関連付けを行った山翠社の例をご紹介します。
【株式会社山翠社の例】
山翠社は1930年に創業した木工所。現在は古木を活かした店舗デザインから施工まで一貫したサービスを提供されています。
山翠社が取り組んでいる課題は複数ありますが、重点的な取り組みとしては以下の3つを挙げています。
① 古木の資源活用を通じて環境貢献するビジネスモデルを全国的に広げる
古木を活用した空間を全国に提供することで木の文化継承に貢献すると共に、加盟店(古木ネットワーク)を広げる活動をするという目標をかかげています。これは元々の基幹事業を、SDGsをきっかけに強化した例です。自社のビジネスの拡大と共に、「12. 持続可能な方法で生産し、消費する取組を進めていこう」や「15. 陸上の生態系や森林の保護・回復と持続可能な利用を促進し、砂漠化と土地の劣化に対処し、生物多様性の損失を阻止しよう」等の目標に貢献している活動といえます。これを測る指標として2030年に向けて“パートナーの増加 10社→100社”を設定しています。
② 空き家となった古民家の管理及びサービス
管理サービスを入口として古民家の流動化を促進すること、そして古民家そのものを利用しコミュニティの活性化に貢献するという取り組みを予定されています。「11. 安全で災害に強く、持続可能な都市及び居住環境を実現しよう」や「17. 目標達成のために必要な手段を強化し、持続可能な開発にむけて世界のみんなで協力しよう」といった目標に貢献するとともに、古民家の管理サービスというビジネスチャンスを広げています。2030年に向けて“古民家の管理棟数 100棟→10,000棟”を指標として掲げています。
③ FSC認証自社製品の提供の増加
FSC認証は「環境、社会、経済の便益にかない、きちんと管理された森林からの製品を目に見える形で消費者に届け、それにより経済的利益を生産者に還元する」という仕組みであり、その認証を取得した自社製品の提供の増加を目標としています。「13. 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じよう」や「15. 陸上の生態系や森林の保護・回復と持続可能な利用を促進し、砂漠化と土地の劣化に対処し、生物多様性の損失を阻止しよう」等に関連づけられています。
2030年に向けた指標として“FSC認証自社製品の提供の増加 0件→年1,000件”を掲げています。
このように自社の事業や強みに直接結びつけられると、自社の成長とSDGsの取り組みは相乗効果をもたらすことができるのではないでしょうか。ここまで基幹事業とうまく結びつけられない場合でも、サプライチェーンのどこかに必ず17の目標に関わりがある部分はあるはずですので、ご紹介したステップ2の作業を丁寧におこなってみることをおすすめします。
6.おわりに
今回は中小企業等の事業者の方が取り組むという視点からSDGsをご紹介しました。
最後の事例からもわかるように事業活動に適切に紐づけることで、SDGsは事業者の“犠牲”のもとに成り立つ取り組みではなく、自社の持続可能な取り組みとなり、ひいては持続可能な世界を作り上げる一歩になります。
当コラムが読者の方々の一歩を踏み出すきっかけになればと願います。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
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