建設業の労働時間短縮は進んでいるか

迫る罰則付き時間外労働上限規制

 建設業にも2024年4月から「罰則付き時間外労働の上限規制」が適用されます。この規制が決まった時、国土交通省だけでなく、業界内でも「5年あると思って悠長に構えていてはいけない。今から手を打ち始めなければいけない」という声が出ていました。建設業は他の産業に比べて労働時間が長く、また、休日も少ないことから若手から敬遠されるという「運命」にあり、若手労働者を確保するためにも「週休2日」と「労働時間短縮」は喫緊の課題であったわけです。

 「年間残業時間720時間以内」という数字は、どれくらい達成されているのでしょうか。日本建設業連合会(日建連)は2020年度の、会員企業に就労する労働者(非管理職/管理監督者)の労働時間と年次有給休暇の取得状況を調査しました。会員数は142社、そのうち回答があったのは85社で回答率は60%でした。

日建連の調査結果を見る

▼ 所定労働時間

 まず、回答した各社の1日の所定労働時間を見ると、「7時間30分」が12%、「7時間40分」が2%、「7時間45分」が15%、「7時間50分」が5%、「8時間」が66%となっており、圧倒的に「8時間」が多くなっています。同様に年間労働時間(回答社数82社)を見ると「1,800時間以下」が1%、「1,800時間超~1,850時間以下」が11%、「1,850時間超~1,900時間以下」が17%、「1,900時間超~1,950時間超」が46%。「1,950時間超~2,000時間以下」が12%、「2,000時間超」が12%という結果になっています。

 ちなみに、所定労働時間というのは、労働者と会社との間で交わされた契約の中で決められた時間で、労働基準法32条で定められた労働時間で「1日8時間、週40時間が上限」となっています。契約で決められた所定労働時間ですが、法定労働時間を超えることは禁止されています。ただし、36協定を結んでいる場合は週45時間まで認められています。

▼ 総実労働時間

 2020年度の総実労働時間は非管理者で2,201時間、管理監督者で2,170時間といずれも前年度に比べて11時間、0・5%増となりました。時系列で見ると非管理者は16年度が2,238時間、17年度が2,211時間、18年度が2,207時間、19年度が2,190時間と減少傾向にあったものが、20年度は増加に転じました。同様に管理監督者はそれぞれ2,192時間、2,153時間、2,162時間、2,159時間となっており、こちらは17年度以降、増減を繰り返しています。

 経団連では2019年度まで総実労働時間の調査をしていました。そこで19年度の数字で比較してみると、全体では2,022時間となっています。これを製造業、非製造業別に見ると製造業が2,027時間、非製造業が2,018時間でした。同年度の建設業と比較しても、建設業の総実労働時間が長いことが分かります。管理監督者と一般労働者(非管理職)との比較では、全産業平均で管理監督者が2,022時間、一般労働者が2,000時間であり、管理監督者と一般労働者の実総労働時間が建設業とは逆になっていることが分かります。その差は管理監督者が137時間、一般労働者が190時間となり、全体に対して建設業の労働時間が長いことを示しています。

 日建連調査ではまた、法定労働時間の年間上限2,080時間と法定時間外労働時間の上限720時間を加えた2,800時間を超える労働者が、非管理職で3%、管理監督者で2%いることも判明しました。早急な改善が求められるところです。

▼ 法定外労働時間(年間)

 いわゆる残業です。実労働時間と同様に時系列で見ると、非管理職は16年度420時間、17年度416時間、18年度387時間、19年度380時間、20年度374時間と減少し続けているのに対し、管理監督者はそれぞれ339時間、319時間、306時間、310時間、312時間と18年度を底に増加しています。

 経団連調査(19年度)との比較では、全体では184時間で、17年度に比べ13時間、18年度に比べ12時間減少しています。経団連では「18年度から19年度にかけて大幅に減少している要因の1つとして、働き方改革関連法の施行があると考えられる」と分析しています。建設業はまだ対象外ですので、この見方が正しいとするなら、24年度以降は大幅に減少することになるはずです。

▼ 年次有給休暇

 建設業への入職を敬遠される要素としてよく言われるのが「3K(危険、汚い、キツイ)」という言葉です。これにさらに2K(給料が安い、休日が少ない)を加えて「5K」だとの指摘もあります。では、建設業の年次有給休暇取得はどのような状況になっているのでしょうか。

 まず、非管理職ですが、これも時系列で見ると16年度が43%(7・6日)、17年度が46%(8・1日)、18年度が50%(8・7日)、19年度が54%(9・7日)、20年度が56%(10・2日)と、年々取得率はアップしています。管理監督者も同様に29%(6・0日)、31%(6・2日)、37%(7・5日)、42%(8・6日)、45%(9・1日)と伸びています。とはいえ、経団連調査と比較すると、19年度の全体取得率は71%(製造業74%、非製造業63%)ですので、建設業はまだ低いということが言えます。

協力業者はどうなっているか

 建設現場の工程遅れは設備工事や内装工事といった、いわゆる協力業者の労働時間にも影響を及ぼします。日本空調衛生工事業協会では、2020年度の「働き方改革に関するフォローアップアンケート」を実施し、会員企業の法定外労働時間(残業)について聞いています。その結果、20年度は企業規模にかかわらず減少傾向にあることがわかりました。

 アンケートには会員企業94社のうち38社が回答しています。年間残業時間、休日取得の状況は図のとおりですが、まず残業時間については「720時間以内」が前年度調査に比べ5・2%増、「720-840時間以内」が0・6%減、「840-960時間以内」が2・0%減、「960時間超」が2・6%減となっており、減少傾向がうかがえます。

 一方、休日取得は「月4休」が0・2%減、「月5休」が0・6%減、「月6休」が0・7%増、「月7休」が0・6%減、「月8休以上」が1・4%増となっており、休日取得日数も増加していることを示しています。

労働時間短縮と休日取得日数増加のために

 生産性向上のための施策を展開することは、建設業に止まらず進めなければならない必須事項ですし、当然、それに向けた技術開発は進められています。加えて、ネットを活用した会議・打ち合わせよるタイムロスの解消など、人の移動を最小化する取り組みも進んでいます。災害復旧を除き、週休2日を考慮した「余裕のある工期」の設定なども公共機関の発注では進んでいます。それをいかに民間発注に広げていくかということが、これからの課題となるのは必至です。建設業への若手入職を促進するということだけでなく、「労働者の健康を守る」という視点からも、発注者、受注者が「無理な工期の仕事を発注しない、受注しない」という姿勢を持つことが大切になってきます。企業はそこに働く人の生活と健康を守るという使命があることを改めて確認し、来たるべき労働時間上限規制に対応していくべきだと考えます。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
顧問
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。

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