1.はじめに
平成30年3月30日に、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「本会計基準」)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「本適用指針」)が公表されました。前回は本会計基準の概要及び建設業に与える影響の概要として、項目毎の変更点や論点を取り上げてみました。今回は各々の項目について具体的にみていきたいと思います。
2.建設業に与える影響
① 工事進行基準の適用の要件
本会計基準が建設業に与える影響として、第一に注目されるのが、工事進行基準の適用の可否だと思います。
現行では、工事契約については、「工事契約に関する会計基準」 に基づき、①工事収益総額、②工事原価総額、③決算日における工事進捗度、について信頼性をもって見積もることができる場合には原則として工事進行基準を適用するとされています。この点、本会計基準においては、工事契約における履行義務が一定の期間にわたり充足されると判断される場合に、工事進行基準を適用し、それ以外の場合には工事完成基準を適用することとなります。ここに工事契約において一定の期間にわたり充足される履行義務と判断されるためには、次の2要件(本会計基準第38項(2)(3))のいずれかを満たす必要があります。
本会計基準 | 工事契約に当てはめると… | |
---|---|---|
第38項(2) | 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること | 発注者所有の土地で行われる工事で、工事の進行により生じる建設物を発注者が支配できるケース |
第38項(3) | 次の要件のいずれも満たすこと ①企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること ②企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること |
建設会社所有の土地で行われる工事で、 ①建設会社が建設した発注者仕様の建設物を他に転用できなく、 かつ、 ②建設会社は履行した部分に対する対価を受ける権利があるケース |
今後、工事進行基準を適用するためには、上記2要件のいずれかを満たしているか今一度確認し、契約上、契約解除時の補償条項などは明確に示す必要があります。
② 原価回収基準の認容
現行では、工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度について信頼性をもって見積もることができない場合は、工事進行基準は適用できず、工事完成基準が適用されることとなります。
一方、本会計基準では、履行義務が一定の期間にわたり充足されると判断される場合は工事進行基準が適用され、工事収益及び原価、工事進捗度について合理的に見積もることができないとの理由で工事完成基準を適用する定めはありません。
即ち、現状の実務で工事完成基準を適用する工事であっても、履行義務が一定の期間にわたり充足されると判断され、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、発生原価を期間費用として処理するとともに、当該原価のうち回収可能部分を収益計上することとなります。これは現行認められていない、いわゆる「原価回収基準」の容認がなされているものです(本会計基準第45項)。
但し、進捗度を合理的に見積ることができない理由が契約の初期段階であることに起因する場合、当該契約の初期段階に収益を認識せず、進捗度を合理的に見積もることができる時から収益を認識することができるといった代替的な取扱いも定められています(本適用指針第99項)。
また、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識する、即ち工事完成基準を適用することができるとされています(本適用指針第95項)。
これらは現状の実務をできるだけ踏襲できるように、ASBJが認めたものと考えられます。
③ 工事損失引当金
本会計基準においても、工事契約から損失が見込まれる場合には、現行の処理を踏襲した工事損失引当金の定めを設けています(本適用指針第90項)。
3.おわりに
今回は、本会計基準の建設業に与える影響として、前回挙げた項目のうち、もっとも注目されているであろう①工事進行基準の適用の要件、②原価回収基準の認容、③工事損失引当金についてご説明いたしました。次回以降にて④複数の履行義務、⑤契約変更や追加工事、⑥変動対価、⑦重要な金融要素、⑧本人と代理人の区分について順にみていきます。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
新たな会計ルール
「新収益認識基準」とは