1.はじめに
現在、建設業界においては、「建設バブル」と言われるほど高い建設需要が続いています。昨今の需要の高まりは、都市再開発に係る需要、東日本大震災を初めとした日本各地の災害からの復興需要、そして首都圏における交通網、ホテル、各種商業施設への需要など、複数の要因が重なったことによるもので、2020年にピークを迎えるとされています。それでは、時期が過ぎればこの建設バブルも終了してしまうのでしょうか。今回は2020年以降の建設業界の動向について考えてみたいと思います。
2.受注高・手持ち工事高の推移
受注→施工→完成と、一つの案件に長期間を要することが一般的な建設業界の動向を検討するにあたっては、建設会社の「売上高」に加えて、「受注高」が特に重要なファクターになるといえます。「売上高」は、工事の出口部分である「完成された分」のみが反映され、受注直後、施工中のものが含まれません。一方の「受注高」は、受注・施工の段階にある「完成していない分」も含まれるため、将来の業績や業界動向を予想するにあたって重要な要素になるといえます。
今後の建設業界の動向を検討するにあたって、建設業界大手50社における受注高と手持ち工事高(契約済みだが、未着手の工事分)の推移を見てみます。
上グラフのように、受注高については、ここ10年弱で月々の変動はあるものの、概ね上昇傾向にあると言えるでしょう。特に2013年中頃からは、一際その傾向が顕著になっていることが見て取れます。手持ち工事高に関しては、10年間でほぼ右肩上がりといえます。即ち、契約はなされたものの未着手の工事が多く残っているということができます。
3.今後の建設需要
上述より、建設業界において手持ち工事は増加していることがわかりました。よって2020年以降も当分は引き続き高い建設需要が維持されることが予想されます。しかし、当然ながら手持ち工事を施工していくのみでは、いずれ建設需要はなくなります。今後も建設業界における好景気を維持していくためには、新たな受注を獲得していくことが重要です。今後注目される主だった大型案件として以下のものが挙げられます。
- 2025年の大阪万博
- 2027年のリニア新幹線開業
- 都市再開発
- 耐震防災工事
また近年では、新規案件以外にも、既存のインフラにおいて維持・補修・改修を行うといった維持修繕工事の割合が増加しています。これは高度成長期に大量に整備されたインフラ設備が老朽化してきており、修繕改修の時期に差し掛かっていることが背景となっています。
4.おわりに
今回は、2020年がピークとされている需要の高まりの中にある建設業界が、2020年以降どうなっていくのか検討してみました。受注高や手持ち工事高、また既に見込まれている大型案件や維持修繕工事の影響を鑑みると、建設需要は今後もある程度維持されていくものと考えられます。
このように高い需要が維持される中、建設業界で一番の問題となってくるのは、やはり労働力の確保といえるでしょう。労働者の高齢化と減少が進む現在、人材確保のための働き方改革、女性の活躍促進、外国人技術者の育成、また労働生産性向上のためのIT化やAIの導入は必要不可欠となっています。今後続くであろう高い建設需要に対応するためにも、業界全体で、労働力の確保、及び維持を最重要課題として取り組むことが求められています。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
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