1.はじめに
前回は消費税の基本とインボイス制度の概略について解説しました。今回は、簡易課税とインボイス制度のどちらを選択すべきなのか、インボイス制度の開始にあたり適格請求書発行事業者となる場合、いつまでにどういった手続が必要なのか、といった具体的な話を中心にみていきたいと思います。また、前回のコラムで解説したように、インボイス制度の導入は事業者によっては事務作業や経済的負担が増大します。そのため、令和5年度税制改正によって小規模事業者に対しての支援措置が講じられていますので、まずはそちらからご紹介したいと思います。
2.令和5年度税制改正インボイス制度支援措置~納税額の軽減制度~
令和5年度税制改正で大きく打ち出された支援策が“2割特例”です。これは消費税の納税額を簡便的に計算することで事務負担を軽減させると同時に、税負担も軽減させる制度です。対象者は2年前(基準期間)の課税売上が1000万円以下等の要件を満たす事業者のみです。つまりインボイス制度の導入がなければ消費税の納税義務がなかった事業者になります。元々消費税の納税義務者であった場合は対象とならない点に留意してください。
この“2割特例”の場合の納税額は売上額にかかる消費税の2割となります。本則課税、簡易課税、2割特例の3つのケースで納税額がどのように異なるか比較してみましょう。
売上高700万円(税額70万円)、経費150万円(税額15万円)のケース
本則課税:70万円-15万円=55万円
簡易課税:70万円-(70万円×70%)=21万円
2割特例:70万円-(70万円×80%)=14万円
2割特例の計算方法としては、前回ご紹介した簡易課税制度のみなし仕入率が80%である場合と同様になります。そのため、みなし仕入率が80%以上である、第1業種・第2業種以外の場合は2割特例を適用した方が納税額を少なくすることができます。建設業においては第3業種(みなし仕入率70%)、もしくは第4業種(みなし仕入率60%)の場合がほとんどで、納税額が高くなる簡易課税を選択するメリットはほとんどないかと思いますので本則課税か2割特例のいずれかの適用を検討するべきでしょう。
3.インボイス制度支援措置~補助金~
小規模事業者を中心にインボイス関連で申請できる補助金は主に2つあります。
①小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は賃上げ枠や創業枠等があり、小規模事業者が自社の経営を見直し、販路開拓や生産性向上を支援するための補助金です。今回特例として、それに上乗せされる形で、インボイス枠が設けられました。そのため、インボイス事業者登録に要した費用のみを、できるだけ手間をかけずに申請したいという場合には②のIT導入補助金の方が適切かもしれません。
詳細は全国商工会連合会のガイドブックをご参照ください。
②IT導入補助金
IT導入補助金には複数の枠がありますが、インボイス制度導入にあたり広く利用しやすいのはデジタル基盤導入類型といえます。ITツールやPC・タブレットが補助対象となり、補助金額は以下となります。
◇PC・タブレット等:~10万円(補助率1/2以内)
◇レジ・券売機等:~20万円(補助率1/2以内)
今回、補助下限額が撤廃されたことで、中小事業者が主に利用する安価なプランも対象になりました。この補助金を申請するには、gBizID(経済産業省や中小企業庁の複数の行政サービスを1つのアカウントにより利用することのできる認証システム)や、「SECURITY ACTION」(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する中小企業・小規模事業者等自らが、情報セキュリティ対策に取組むことを自己宣言する制度)での宣言、「みらデジ」(中小企業庁が実施する中小企業・小規模事業者等の経営課題をデジタル化により解決することをサポートするポータルサイト)の登録と経営チェックを行うこと等が必要になります。申請に当たって初めて実施する要件もあるかと思いますが、難易度の面で見れば専門家に依頼せずとも可能な作業です。ただ、申請にかかる手間と申請できる補助金額を鑑みながら申請を検討されると良いかもしれません。
4.インボイス制度の申請手順や申請期限
さて、実際に適格請求書発行事業者(=インボイスを発行できる業者として登録した事業者)となることを決定した場合、納税地を所轄する税務署長に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出する必要があります。窓口だけでなく、e-Taxや郵送でも申請可能です。
申請期限ですが、インボイス制度が開始される令和5年10月1日から登録したい場合は、令和5年9月30日までに登録申請書を提出する必要があります。申請書提出から登録通知が届くまでに日数を要しますが、通知書が届いていなくても提出が完了していれば同日から登録されたものとみなされます。
また登録申請時点で、2割特例を受けるかどうかを選択する必要はなく申告時に選択すれば良いこととなっています。
5.申請手続の経過措置
ではインボイス制度開始後の申請はどうなるのでしょうか。この点についても経過措置が設けられています。
令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日が属する課税期間中に登録申請を行うと、提出日から15日以降の希望の日から登録することができるという経過措置が設けられています。そして、この経過措置を受ける者が簡易課税制度を希望する場合、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができます。ただし、簡易課税制度は一度選択すると2年間は継続して適用されるため、翌事業年度のことも考慮して選択することをおすすめします。
また簡易課税を選択した場合も、2割特例を受けるかどうかは申告時に選択すれば良いこととなっています。
6.おわりに
インボイス制度について、増税というイメージを持たれる免税事業者もいるかもしれません。ですが厳密にいえば、今まで納めるべき消費税が免除されていたところ、きちんと納めなければならなくなったというのが実態です。勿論制度対応に時間や費用が掛かってしまうという面もありますが、この状況を受けて、適切な価格交渉に成功すれば、自社ビジネスの価値を高める機会とすることも可能です。
とはいえ、免税事業者が適格請求書発行事業者として登録すれば納税する金額が増えることは間違いありません。その中で、経過措置や簡易課税制度を理解し、できるだけ納税額を少なくすることが可能です。
税金関係の制度はわかりにくいものが多いですが、少しの手続等で納税額が大きく変わることもありますので、ぜひ検討してみてください。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
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