1.はじめに
建設現場では、以前から技能実習生として就労する外国人がおりましたが、2019年4月から受け入れを開始した在留資格「特定技能」の創設により、外国人建設労働者の流入はますます増加しています。国土交通省によれば2023年10月現在で建設現場に携わる技能実習生数は70,489人、特定技能外国人は12,776人となっております。また、現場作業に従事しない、いわゆる現場監督や施工管理者として建設業に従事する外国人の方もおります。このように同じ建設現場に異なる在留資格で従事する外国人がいるため、それぞれの在留資格の違いを峻別することが難しいのではないでしょうか。今回は建設業に従事する外国人労働者の在留資格の種類と選択肢についてそのおおよその概要をみていきたいと思います。
2.「技術・人文知識・国際業務」という選択肢
「技能実習」や「特定技能」などは建設現場でもよく聞くと思いますが、「技術・人文知識・国際業務」という在留資格はあまり馴染みがないかもしれません。「技術・人文知識・国際業務」という在留資格は、学歴や職歴を背景とする一定水準以上の業務に従事することが必要な在留資格です。いわゆるデスクワーク業務であり、管理業務、企画開発、法人営業、プログラマー、翻訳・通訳業務などがこれに該当します。
建設業界では施工管理業務を行う方が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得して建設業に携わるケースがあります。例えば洋上風力発電など海外が先行している事業を日本で行う場合、経験者が国内で不足しているため海外から適正な人材を招へいするケースがあります。
後述する「技能実習」や「特定技能」が現場で作業を行うことを主とするのに対し、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で就労する場合は、前述の通り現場での作業を原則行うことはできません。そのため「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を有する外国人を雇用する場合、対象者の学歴や職歴、従事する業務の内容に十分注意を払う必要があります。
3.「技能実習」という選択肢
「技能実習」という資格については、多くの方がご存知かと思います。ですが現在、この制度は、改正または存続について、全12回の有識者会議で議論され、最終報告案が法務大臣に提出された段階です。「技能実習」から「育成就労」への名称変更や、今まで「技能実習」がもたらす問題の原因とされていた原則転職禁止の廃止(全面廃止ではない)など、一応の方向性は見えてきたものの、制度改正の正確な全体像はつかめないため、改正論点の詳述は控え、従来制度について簡単に振り返りをさせていただきます。
「技能実習」という制度は、我が国の技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を目的としたものです。「技能実習生」は現場作業への従事が可能であるため、建設現場においても技能実習生の外国人が働いております。
日本の企業が海外の現地法人等から直接受け入れる企業単独型と事業協同組合等が受入団体となって傘下の中小企業において技能実習等を実施する団体管理型があり、後者が圧倒的なシェアを有しております。在留資格「技能実習」には1号から3号まであり、1年目は1号、2~3年目は2号、4~5年目は3号なっております。このうち技能実習生2号を良好に修了した者は、移行対象職種等の条件を満たせば後述する「特定技能」への移行も可能となります。
なお、制度趣旨にもかかわらず技能実習生を安価な労働力の確保として捉える事例が多くあったことから、前述の議論において、「育成就労」では目的の改正も検討されています。
4.「特定技能」という選択肢
特定技能制度は、生産性の向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を受け入れていく仕組みを構築するために創設されました。この背景には、中小企業・小規模事業者をはじめとした人手不足が深刻化し、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきている、という懸念があります。
受入分野は全12分野あり、「建設分野」もその1つです。「特定技能」は「技能実習」と同じく現場での就労が可能ですが、一定の専門性・技能を有し「即戦力となる外国人材」を受け入れていく制度なので、実習を前提とした技能実習生とは外国人労働者に求められる能力水準が異なります。具体的には分野別の技能水準試験の合格及び日本語能力試験4級以上、もしくは前述の技能実習2号の良好修了者などです。分野によっては追加で要件を満たすことも求められます。
また雇用する企業側等にも多くの要件や義務が課せられます。外国人支援もその1つです。受入機関には特定技能外国人に対する事前ガイダンス、出入国をする際の送迎、住居確保・生活に必要な契約支援、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習の機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援(人員整理等の場合)、定期的な面談・行政機関への通報などを行う義務が課されます。列記したものだけでも大変なのですが、運用要領ではさらに細かく定められており、例えば事前ガイダンスには「対面又はテレビ電話装置若しくはその他の方法(インターネットによるビデオ通話など)により、本人であることの確認を行った上で、実施することが求められます。文書の郵送や電子メールの送信のみによることは認められません。」とあります。他の規定に関しても細かく定められているので確認が必要です。これらの支援は、法務大臣が認めた登録支援機関に委託することも可能です。
受け入れる事業者も入管法のみならず、労働関係法令、税関係法令の遵守が求められるため、これに対応できる管理体制の構築が必要です。また特定の事象が起きた場合に届出義務が生ずる「随時の届出」や定時に届出る「定期の届出」があることにも注意が必要です。
「特定技能」には1号と2号があり、1号は通算して5年間在留することが可能です。ただしこの間家族の帯同は原則認められません。2号は建設分野に従事する外国人が初めて取得したことでも知られています。在留期間の更新が可能で、家族の帯同も要件をみたせば認められます。また1号で求められる支援も2号は対象外となります。
5.おわりに
上記の通り、建設業に携わる外国人の在留資格には大きく分けて3つあることを述べさせていただきました。「技能実習」や「特定技能」だけでなく「技術・人文知識・国際業務」で業務が行えるケースについては新たにインプットされた方もいらっしゃったのではないでしょうか。
昨今、特定技能外国人の在留者数が増加しております。上記をみてもわかる通り、登録支援機関に委託する場合や受入機関に課せられる義務など同様の経験・知識を有する日本人を雇う以上のコストがかかります。特に建設分野は分野別の決まり事として、受入企業と特定技能外国人の「建設キャリアアップシステム」への登録、特定技能外国人受入事業実施法人(JAC)への加入、建設特定技能受入計画の認定などより一層のコストと手間がかかります。特定技能外国人の受け入れを検討する場合、まずはこの前提を理解することが必要です。制度を理解する入口として本コラムがお役に立てれば幸いです。
執筆者
大学卒業後、事業会社を経て、2017年汐留パートナーズグループに入社。法務事業部においてクライアントに対するリーガル面でのサポートを行う。その後国際コンサルティング事業部にて、多くの外国法人の日本進出、日本での許認可取得、イミグレーション(在留資格)関連業務に従事。外国法人の日本進出案件に関して豊富な知識と経験を有し、また、外国人の在留資格に関する業務についても精通している。様々な許認可に関する業務にも対応可能。申請取次行政書士。