今どき、ただ働きってありですか?-前年、建設業は2000件余

今どき、ただ働きってありですか?-昨年、建設業は2000件余

日本の賃上げはどうなったか-2024年春闘など

「物価上昇を上回る賃上げを」という岸田文雄総理の発言を受け、2024年の民間主要企業の春季賃上げ要求の結果は、348社(平均年齢39・9歳)の平均賃上げ率が5・33%となり、要求額平均1万8,767円に対して妥結額は1万7,415円となりました。前年のそれは364社平均で3・60%、妥結額は1万1,245円でした。

 建設業は集計企業数26社(平均年齢35・9歳)で、要求額は2万1,590円、妥結額は2万1,548円、賃上げ率は5・94%となり、平均賃上げ率を上回りました。ちなみに賃上げ率のトップは鉄鋼の12・49%で唯一2桁の賃上げ率となりました。

 次いで機械、造船がいずれも6%台となった一方で、運輸は3・25%と低い水準にとどまりました。「5%以上を」という岸田総理の「願い」が届かなかったのは、紙・パルプ、自動車、その他製造、電力・ガス、金融・保険ということになりました。

最低賃金も5%上がります

 厚生労働省の中央最低賃金審議会(藤村博之会長、独立行政法人労働政策研究・研修機構理事長)は、7月25日に開かれた第69回会合で、2024年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申しました。ちなみに、地域別では全国の都道府県をA、B、Cの3ランクに分けています(別表)。Aランクは6都府県、Bランクは28道府県、Cランクは13県という内訳となっています。

各都道府県に適用される目安ランク
ランク 都道府県
A 埼玉 千葉 東京 神奈川 愛知 大阪
B 北海道 宮城 福島 茨城 栃木 群馬 新潟 富山 石川 福井 山梨 長野 岐阜 静岡 三重 滋賀 京都 兵庫 奈良 和歌山 島根 岡山 広島 山口 徳島 香川 愛媛 福岡
C 青森 岩手 秋田 山形 鳥取 高知 佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島 沖縄

 答申では引き上げ幅を全ランクで50円としました。この答申に至るまでには、中小企業の代表者から「値上げ幅によっては経営できなくなる」と言った声が寄せられました。

 この額は地方最低賃金審議会に示され、各地の審議会で、この答申を参考にしつつ、賃金の実態調査や参考人意見を踏まえながら、地域ごとに各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定するという流れになりますが、全地域で50円アップになると見られています。

 同省では「仮に目安どおりに各都道府県で引き上げが行われた場合の全国加重平均は1,054円となる」とし、この場合は1973年度に「目安制度」が始まって以降で最高額になり、引き上げ率に換算すると5%(前年度は4・5%)になるとしています。

賃上げとは裏腹、賃金未払いが増

 岸田内閣の掲げる「新しい資本主義」は、物価上昇を上回る賃金アップを実現することが大前提になっています。そのために打ち出した数字が「5%以上の賃上げ」でした。「24年春闘」では、とりあえず主要企業の平均としては、これを達成しました。最低賃金引き上げも、もし全都道府県で目安が「満額」認められれば5%賃上げが達成されることになります。

 しかし、その一方で「賃金不払い事業所」が増えているという実態も浮かび上がってきました。厚生労働省による、2023年の「賃金不払いが疑われる事業場に対する監督指導結果」では、全国の労働基準監督署で取り扱った賃金未払い事案件数は2万1,349件で前年比818件増、対象労働者数は18万1,903人(2,206人増)、金額は101億9,353万円(19億2,963万円増)という結果になりました。

 このうち建設業はそれぞれ2,047件(占有率10%)、1万2,046人(7%)、10億円(10%)となっています。件数では商業、製造業、保健衛生業、接客娯楽業に次いで5番目、労働者数と金額は保健衛生業、製造業、商業に次いで4番目に位置しています。

 ちなみに労働基準監督署が指導し、使用者が賃金を支払って解決した案件は、件数、労働者数、金額とも90%以上となっています。

賃金の支払い5原則

 労働基準法第24条では賃金を、①通貨で②直接労働者に③全額を④毎月1回以上⑤一定の期日を定めて支払わなければならないと定めています(賃金支払の5原則)。今では「銀行振込」が当たり前になっていますが、以前は、銀行振込が「通貨で」という原則に当てはまらないとして、違法ではないかという議論が湧き起こりました。奥さんに内緒で給料袋から現金を抜くという「荒技」も、振込ではできなくなります。こうした議論の背景には、そんなこともあったのでしょうか。最近では仮想通貨での支払いでもいいのではないかという声もあるようですが、仮想通貨はあくまで「民間の通貨」であって、国の通貨ではないため、今のところ実現は難しいと思われます。

賃金はきちんと払いましょう

 労働基準監督署による是正事例として、時間外労働をしているにも関わらず36協定が未届けで、かつ法定の割増率を下回る割増率で賃金を計算したり、割増賃金の基礎として算入すべき賃金である役職手当、精勤手当等を除外して割増賃金を計算していたケースがありました。

 だが、これらはまだいい方で、総額1,000万円を超える定期賃金を支払われなかったり、時間外・休日労働をしたにも関わらず割増賃金を支払わなかった疑いで送検された事例もありました。

 後者は技能実習生がらみで、実際の時間外・休日労働時間を過小に偽装して、割増賃金を支払っていたという事例です。この例では使用者は書類送検されています。

 当たり前ですか、働いた分はきちんと賃金として、通貨で直接支払う義務が使用者側にはあります。建設業では2023年に約2000件、1万2,000人の労働者に10億円の賃金不払いがありました。

 建設工事の完成時期が迫ってくると、それに間に合わせるために、多くの人が長時間労働をしなければならないケースが、少なからずあります。労働時間をきちんと把握することで、賃金の未払いをなくす努力は、当然、なされているはずです。

 未払いの事例で示したようなことが起きないよう、細心の注意が求められています。建設業のイメージを悪くしないよう、くれぐれも賃金未払いによる「送検」などという事態を招かないようにしていただきたいものです。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
顧問
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。

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