公共事業でBIM/CIM原則適用! バックオフィスへの影響は?

公開日:2024.1.18
更新日:2024.5.08

公共事業BIM/CIM原則適用、最新動向をチェック!

2020年4月、国土交通省は「2023年までに小規模を除く全ての公共事業にBIM/CIMを原則適用」することを決定しました。2024年1月現在、現場の混乱もありながら着実な普及が進んでいます。将来的には積算契約業務もBIM/CIMの活用が前提になるとされており、現場のみならずバックオフィスでもその動向には注目が集まるところです。本稿では、公共工事におけるBIM/CIM原則適用の概要や最新動向をわかりやすくお伝えします。

DL資料

BIM/CIMとは?

国土交通省が生産性革命のエンジンと位置づけるBIM/CIM(Building/ Construction Information Modeling, Management ; ビムシム)は、コンピューター上で作成した3次元モデルと部材等の名称・形状・寸法・強度・数量などの属性情報を組み合わせ、施工や維持管理の各工程で活用する技術です。

BIM/CIM

名称の成り立ちからも、単に図面を3D化するというだけでなく、3Dデータの管理と活用までが一体となった概念であることがわかります。

建設業の生産性向上を阻害する要因のひとつに、紙の図面が挙げられます。2次元の図面から完成形を想像するには熟練が必要であり、紙での情報共有には回覧や複写といった手間が必要です。如何にも効率が悪く、前時代的であることは否めません。

BIM/CIMは、こうした課題に対する有力なソリューションと目されています。自動車産業をはじめとした製造業で普及している3次元モデルを建設生産・管理システムに採り入れることにより、視覚効果と生産性の大幅な向上が見込めます。

BIM/CIMを活用することで、より精度の高い図面作成、内外の関係者間でのスムーズな情報共有が容易になり、手戻りや追加工事を防ぎます。将来的には積算や契約業務もBIM/CIMの活用が前提になるとされており、バックオフィスの業務への影響も非常に大きいでしょう。

ICTの活用により建設業の生産性向上を図る取組み、i-Constructionにおいても、3次元データの利活用はICT土工と並んで主軸に据えられています。

BIM/CIMは、それ単体で効果を発揮するというよりも、UAV(ドローン)やレーザースキャナーを利用した3次元測量やICT建機(MG/MC)とのデータ連携を前提としており、建設作業全体の最適化をめざす性格のものです。こうした新しい建設業の在り方は、副次的に働き方改革や若年世代を呼び込むことにも繋がると期待されています。

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BIM/CIMの原則適用

2020年4月、国土交通省は「2023年までに小規模を除く全ての公共事業にBIM/CIMを原則適用」することを決定しました。建設生産システムの計画、調査、設計、施工、管理の各段階において必要となる情報を3次元データで共有することにより、受発注者間のコミュニケーションを円滑にし、建設事業全体の効率化を図ることが目的です。

BIM/CIM適用対象外となる工事

 費用対効果が出にくい小規模工事(維持工事や単独の機械設備工事・電気通信設備工事)
 災害復旧工事等の緊急性を要する業務・工事

現場の混乱もありながらも、予定どおり公共工事でのBIM/CIM原則適用が始まっています。もともとは令和7年(2025年)を予定していましたが、新型コロナウイルス禍によるテレワーク需要に対応するため、スケジュールが前倒しになったという経緯があります。

BIM/CIMに対応しなければ多くの公共事業に参加できないことになるため、詳細のチェックは必須といえるでしょう。原則適用の具体的な内容については下記にまとめました。

BIM/CIM適用の流れとして、業務・工事ごとに発注者が活用目的を明確にし、受注者が3次元モデルを作成・活用します。活用目的の設定にあたっては、業務・工事の特性に応じて義務項目/推奨項目から発注者が選択します。

義務項目に関しては、未経験者も取組み容易な内容となっており、まずは普及の裾野を拡げることを第一義としていることがわかります。推奨項目はより高度な内容を含んでおり、一定規模・難易度の事業において、発注者が明確にした活用目的に基づいて受注者が1個以上の項目に取組むことを目指します。ただ、該当しない業務・工事であっても、積極的な活用が推奨されることはいうまでもありません。

発注者の義務として、業務・工事の契約後、すみやかに受注者に設計図書の作成のもととなった情報を説明、また、受注者が希望する参考資料(電子データを含む)を貸与することが求められます。

3次元モデルを活用した業務・工事においては、3次元モデルの作成、ソフトウェアの調達など必要な経費を受注者からの見積により計上します。実施内容及び費用については、受発注者間で事前協議を行うものとし、発注者が必要と認めるものに限り費用計上の対象となります。

BIM/CIM活用業務・工事の実施状況

長期にわたる国土交通省の取組みにより、直轄工事でBIM/CIMを活用する動きは着実に拡大しています。

令和4年度(2022年度)のBIM/CIM活用実績は、994件でした。

国土交通省が公開しているグラフを見れば、急ピッチで普及・拡大していることがおわかりいただけるでしょう。

実施状況

BIM/CIM適用、国土交通省のロードマップは?

BIM/CIMの普及に向けて、国土交通省が発表したロードマップについて整理してみましょう。これまでの達成状況のほか、令和5年以降を含めた新たなロードマップが追加されています。

BIM/CIMに関連する規格等の標準化

建設生産には設計から施工、メンテナンス管理に至るまで、多岐にわたる工程が発生します。この段階でBIM/CIM運用が個別に行われることのないよう、統一規格でプロジェクトを遂行することで、情報のシームレスな運用が可能となります。令和2年(2020年)時点のロードマップでは、主な達成項目として、形状および属性情報の標準化、ワークフローの標準化、国内規格の標準化が掲げられていました。

令和5年(2023年)現在、ワークフローの標準化や3D納品仕様、国内プロセスの改善については、関係する基準要領の制改定を計画どおり完了予定となっています。データ管理手法の検討及び技術の進展、今後の海外動向に合わせて、必要に応じて改定・検討する旨が発表されています。

BIM/CIMの普及と促進

BIM/CIMの高度な利活用を進めるために、高い普及率を達成する必要があります。さらなる業務の効率化に向けた普及と啓蒙による環境整備を促進します。主な達成項目として、適用事業の順次拡大、BIM/CIM技術者の活用、効率化に資するツール等の普及が掲げられています。

BIM/CIMを活用するうえでの各種実施要領は順次改定が為されており、啓蒙体制と普及の拡大が進んでいます。令和5年度(2023年度)以降、パラメトリックモデルなどのモデル作成支援ツールのソフトウェアへの実装をめざしています。

パラメトリックモデルとは?

あらかじめ定義されたテンプレートに寸法値等のパラメータを入力するだけで簡易に作成及び修正が可能な3次元モデルのこと。3次元モデルの作成作業が簡略化され、作業時間の短縮が期待できる。

BIM/CIMの高度利活用の推進

公共事業の効率化と高度化に向け、BIM/CIMを活用することを前提とする業務改革の実現を目指します。また、BIM/CIMを導入するだけでなく、導入後も継続的な評価を繰り返し、業務改善を進めていくことが目標です。主な達成項目として、公共事業の品質確保と向上、発注関係事務の抜本的な見直し、そしてデータ活用が掲げられています。

BIM/CIMが原則適用となる令和5年度(2023年度)は、中小規模事業者への裾野拡大、対応できる技術者の増加が優先されていました。ただ、令和6年度(2024年度)以降は、より高度なデータ活用に主軸が移る見込みです。

2025年度目標には、BIM/CIMによる設計照査や監督・検査の要領への反映、BIM/CIMを主とする契約の標準化、データプラットフォームにおける3次元情報の活用促進などが挙げられています。

バックオフィスへの影響

BIM/CIMは、現場での施工のみならず、バックオフィス業務にも大きく影響します。国土交通省は、BIM/CIM活用の今後の展開として、発注者の積算作業や契約手続きの効率化までを視野に入れています。BIM/CIMをもとに数量算出など積算作業の大部分を自動化できれば、入力作業の省力化や違算防止の効果が期待できます。契約時や設計変更時においても、受発注者の迅速な合意形成が可能になるでしょう。将来的には、3Dモデルによる契約に完全移行することが理想とされています。

デジタル化が困難とされていた建設業でも、現在、さまざまな建設DXが推進されており、今回紹介したBIM/CIMはあくまでその一例にすぎません。それぞれの試みが有機的に結びつくことで、まったく新しい建設業の在り方が実現されていくでしょう。同業界で課題となる、若年世代の呼び込みにも繋がっていくはずです。

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よくある質問

QBIM/CIM適用対象となる工事にはどのようなものがありますか?
A2023年現在、BIM/CIMは、費用対効果が出にくい小規模工事(維持工事や土木工事に含まれない単独の機械設備工事・電気通信設備工事)を除くすべての公共工事に適用されています。また、緊急対応が最優先となる災害復旧工事も対象外とされています。
QBIMとCIMはなにが違いますか?
ABIMとCIMはいずれも建設業における3Dモデリングの利活用を指しますが、名称からもわかるとおり「対象となる分野」に違いがあります。BIMが建築分野を対象としているのに対し、CIMは土木分野を対象としています。
ただ、こうした分類は日本だけのものであり、海外では建設分野全体の3次元化をBIMと総称します。国土交通省では、平成30年(2018年)5月から従来のCIMという名称をBIM/CIMと整理・変更しています。
QBIM/CIM活用のメリットはなんですか?
A BIM/CIMは、計画から施工に至るまでの全工程で情報共有と視覚化を促進し、大幅な業務効率化を可能にします。二次元よりも精緻な図面をもとに作業が進むことで、手戻りや追加工事が減り、コスト削減効果も期待できます。積算の正確性向上や契約業務の効率化など、バックオフィスへの好影響も期待されているほか、リモートワークなど、新しい働き方にも対応しやすくなるでしょう。
QBIM/CIM活用のデメリットや課題はありますか?
ABIM/CIMを扱う人材の教育や確保が難しいこと、また、必要なソフトウェアやハードウェアを揃えるための投資の必要は、短期的にみた場合、デメリットといえるでしょう。ソフトウェアの互換性については、現在も国土交通省が検討段階であり、その他、発注者側/受注者側の体制不足、高スペックPCなどの機材不足、費用対効果への懸念、BIM/CIMに対応できる人材の確保など、多くの課題が山積しています。
QBIM/CIMとCADの違いはなんですか?
A建設業で馴染み深い CAD(Computer Aided Design)は、コンピューターで設計図を作成できるツールです。手書きよりも簡単で正確に図面が作成できること、修正しやすいことが特徴として挙げられます。CADには従来の二次元図面を三次元化した3D CADもありますが、BIM/CIMとは別物です。BIM/CIMでは、三次元モデルだけでなく、属性情報(部材等の名称・形状・寸法・強度・数量など)が追加されるため、より精度の高い設計図を作成できます。

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