一人親方問題の今後は? 建設業の労務・経理がこう変わる!

公開日:2023.1.11
更新日:2023.10.04

2023年、一人親方問題を巡って業界激動!

建設現場で伝統的に高い比率を占める一人親方。近年、一人親方の安全衛生や公的保障を拡充するため、様々な施策が講じられています。2023年以降、建設業事業者様の労務・経理にも大きな変化が求められる内容となっており、正確な把握が必要です。本稿では、一人親方問題の背景から2023年以降の動きまでをまとめました。

一人親方とは?

一人親方とは、労働者を雇用せず自身あるいは家族だけで経営する個人経営の建設業事業者を指します。現場作業に従事しますが、元請けとなる事業者と雇用契約を締結しません。フリーランスの大工といえば、わかりやすいでしょう。

建設業では、伝統的に技能者全体に対する一人親方の比率が大きく、じつに15.6%を占めます(図1)。その総数は、推計約51万人。高い専門技能を備え、建設現場をフレキシブルに行き来する一人親方が建設業を下支えしていることは、疑いようもありません。

ただ、こうした一人親方の働き方は、事業者/技能者双方にメリットがある一方で、多くの問題を抱えています。重くみた国土交通省は、2020年に建設業の一人親方問題に関する検討会を設置。実態の把握と課題解決に乗り出しました。

次項より、一人親方問題の背景、関連する法改正など、最新動向について整理してみましょう。

図1

一人親方のメリット(事業者側/技能者側)

建設業の現場作業では、建機の操縦や測量、電気工事など、様々な専門技能者が必要になります。

作業者

事業者側としては、それぞれの専門技能者を常時雇用するよりも、プロジェクトチームを編成するように現場の特性に応じて一人親方に発注したほうが効率的になる事情があります。

また、一人親方は従業員ではないため、元請けとなる事業者側で労災や雇用保険など社会保険料の負担や煩雑な事務手続きをする必要がありません。

一人親方側も、保険などの手続きや経理業務を自身でこなす必要はあるものの、自由に仕事ができ、受注額をそのまま自分の収入にできるメリットがあります。仕事の受注単価も直接雇用より高いため、一人親方を目指す技能者も少なくありません。

偽装請負の問題

ご存知のように、建設業就業者数は減少傾向にあり、1997年の685万人をピークとして2019年の就業者数は499万人となっています(図2)。

国土交通省はこれまで、建設業の人手不足問題を重く捉え、技能者の処遇改善に取り組んできました。

特に、負傷した際の公的保障を最優先事項に位置づけ、2012年以降、技能者の社会保険加入促進に注力。多くの事業者もそれに応えています。

業界を挙げての取組みの結果、技能者の社会保険加入率は劇的に向上。2011年には57%だった3保険(雇用保険・健康保険・厚生年金)加入率は、2020年には88%まで改善しました(図3)。

一方、社会保険加入を免れるため、実態としては雇用している技能者を一人親方として扱う偽装請負が問題になっています。法定福利費を適正に負担する事業者が競争面で不利になるため、業界にとって好ましい状況とはいえません。

また、2024年以降、建設業でも労働時間に上限規制が敷かれるなど働き方改革が進められています。そうしたなかで、労基法で労働者と見做されない一人親方が取りこぼされていることも、看過しがたい問題です(参考記事:2024年、労働時間に上限規制! 建設業の働き方改革を考える)。安全衛生の観点からも、業界全体で考えるべき時期を迎えているといえるでしょう。

一人親方問題を巡る動向

一人親方の処遇改善を巡り、近年、政府主導で様々な施策が講じられています。建設業の労務・会計も大きく様変わりする内容となっていますので、担当者はチェックが必要です。

2023年4月から、労働安全衛生法に基づく省令改正で、粉塵障害や石綿障害、放射線障害などの危険を伴う11の有害作業を行う事業者には、一人親方に対して労働者同様の保護措置が義務づけられます。

実態として労働者として扱うべきか/一人親方として扱うべきか、適切な判断が必要になっている現況を鑑み、2023年4月から国土交通省の「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」が改訂されます。

国土交通省は、一人親方について請け負った工事に対しみずからの技能と責任で完成させられる個人事業主と定義しました。また、相当程度の実務経験と職長クラス(建設キャリアアップシステムのレベル3相当)の技能を基準としています。

そのうえで、未熟な建設技能者については実質的に一人親方とはいえないため、いち労働者として適正に保護すべきであるとして、雇用契約締結と社会保険加入を促しています。

実態が雇用労働者でもあるにもかかわらず、一人親方として扱われている例

①十代の一人親方

②経験年数3年未満の一人親方

働き方自己診断チェックリストで確認した結果、雇用労働者に当てはまる働き方をしているもの(

図

再三の指導に応じず改善が見られない場合、事業者の現場入場を認めないなど、厳正な内容となっています。

インボイス制度もまた、一人親方問題とは大きな関わりがあります。同制度は2023年10月以降、事業者間の取引で交わされる請求書の書式が変わるというもので、この新書式に則った適格請求書がインボイスです(参考記事:2023年、インボイス制度導入! 今知っておくべき建設業の対応は?)。

適格請求書がなければ、発注事業者は仕入税額控除を受けることができません。経理上、大きな負担となるため、事業者側としては避けたいところです。一方で、一人親方の多くは適格請求書発行事業者の登録を受けていないため、取引先に一人親方を抱える事業者様にとっては悩ましい問題といえます。これまでどおり一人親方と取引するか、あるいは直接雇用に切り替えるか、関係性を見直す必要があるでしょう。

事業者の採るべき選択は?

一人親方と取引するか、直接雇用すべきかは難しい問題です。ただ、いずれにせよ2023年以降、事業者様にとって有形無形の負担増は避けられません。

何度もお伝えしたとおり、建設業では将来の担い手不足が大きな課題となっています(参考記事:2025年問題に備える! 建設業の人手不足対策)。今後も生産人口の減少が見込まれるなか、労働環境を改善することは、人材確保のためにも業界の発展のためにも不可欠といえるでしょう。建設業の労務と経理は、これまで以上の高いバランス感覚が求められるようになります。

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また、本稿で触れたインボイス制度について、別にPDF資料をご用意しました。

制度の背景から詳細、一人親方問題との関わりと建設業への影響、事業者様がとるべき対応、そのソリューションまでを網羅。

こちら無料でダウンロードいただけますので、ぜひご活用ください!

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