建設業法違反にならないために ~インボイス制度編~

公開日:2023.7.19
更新日:2024.10.04

インボイス導入に備えて、建業法の関連条文をチェック!

営業の許可から請負契約の原則までを定めた建設業法は、業界にかかわるすべての人にとって最高規範というべきものです。しばしばニュースで取り沙汰されるとおり、違反による営業停止も起こり得ますので、知識のアップデートは不可欠。本稿では、2023年10月から導入されるインボイス制度に関連する条文を中心に、わかりやすく解説します。

建設業法(建業法)とは?

経済の基盤づくり、インフラ整備や災害対策をはじめとする国民の安全確保など、建設業が担う社会的責務はきわめて重大です。また、そうした事情から、国家予算から割かれる国費もきわめて巨額に達するという産業上の特性があります(令和5年度国土交通省関係予算で5兆8,714億円)。

社会的な影響力が大きい建設業においては、事業者の資質向上と工事請負契約の適正化は常に重要な課題であり、時代に合わせたルール整備が適宜為されてきました。それが建設業法です。

法律イメージ

同法違反による立入検査や逮捕のニュースがしばしば取り沙汰されるとおり、その内容は罰則含め、きわめて厳格です。実刑を免れたとしても、報道による社名公表や公共工事への入札参加資格を失うなどの痛手は避けられません。大手企業でも、同法違反を受けて建設業許可を返上し、以後、通常の営業ができなくなった例があります。

当然ながら、大多数の事業者さまが法令遵守に努めておられますが、近年では電子帳簿保存法インボイス制度など難解な新制度も建設業法に関連してくるため、知らず知らず法令違反してしまうといったケースも起こり得るでしょう。最新知識へのアップデートは、急務といえます。

建設業法の概要

本稿では、建設業法のなかでも特に、導入迫るインボイス制度に関連する条文にフォーカスしてわかりやすく解説します。その前段階として、まずは同法の概要についておさらいして理解を深めましょう。

建設業法が制定されたのは、戦後復興期となる昭和24年(1949年)のことです。当時、特需目当ての建設業者が乱立し、過当競争によるダンピング(過度な安値受注)や一括下請、不適正施工など、さまざまな問題が噴出していました。

そうした時代背景のもと、前年に建設省(国土交通省の前身)が設置されるとともに、本格的な建設行政がスタートします。

制定から一貫して、建設業法の主軸に位置づけられる基本事項は、以下の3つです。

表1 建設業法の基本事項
登録制度の導入
(建設業法第4条)
建設業を営もうとする者は、登録を受けなければならない。登録は2年の更新制で、申請の際、完成工事原価報告書を含む財務諸表の提出が必要
※以前の記事で詳説した建設業会計原価管理がここに絡む
請負契約の原則の規定
(建設業法第18条)
元請負人と下請負人との対等な関係の構築及び公正かつ透明な取引の実現を図る
主任技術者の設置義務
(建設業法第26条)
1級または2級建築士といった有資格者や既定年数以上の実務経験者など、条件をみたす主任技術者を直接雇用し、現場に配置しなければならない

上記三つを柱としながら、高度経済成長期においてはより公正な競争の確保、近年では現場労働者の就労環境改善や担い手不足問題への対応など、時勢に応じた改正が複数回行われています(参考記事:2020年改正建設業法3つのポイント解説!)。

建設業法に違反するとどうなる? ~処分と罰則~

建設業法第28条・第29条に掲げられた各項目に違反した場合、行政庁による監督処分の対象になります。監督処分には、軽いものから順に指示・営業停止・許可取消の三つがあり、情状によって加重、または減軽されます。

また、違反内容によって、上記三つの行政処分とは別に、裁判所を通じた行政罰が科されます。建設業法第8章に定められた罰則がそれです。罰則は、軽いものから過料・罰金・懲役の三つがあります。

それぞれ確認してみましょう。

表2 建設業法違反行為者への処分一覧
監督処分
(行政庁による)
指示処分
営業停止処分
許可取消処分
罰則
(裁判所による)
過料
罰金
懲役

指⽰とは、法令違反や不適正な事実の是正のため、建設業事業者が具体的にとるべき措置を監督⾏政庁が命じるものです。建設業法第28条への違反のうち、故意や重過失によらないものに対して行われます。

建設業事業者が指⽰処分に従わないときや指示処分ののち3年の経過を待たず同種の違反をくり返した場合、営業停⽌の対象になります。

また、建設業法の⼀括下請負禁⽌規定違反のほか、故意あるいは重過失による違反、あるいは独占禁⽌法・刑法など他法令に違反した場合、指⽰なしで営業停⽌を命じられることもあります。

⼀括下請負禁⽌規定とは?

請負った建設工事を別の業者に丸投げすること。建設工事の責任の所在が不明瞭となるため、発注者保護の観点から厳しく禁止されている(建設業法第22条)。下請事業者を使用する場合でも、元請事業者は施工計画作成や工程・品質・安全の管理・技術的指導を行わなければならない。

営業停止期間は、1年を上限として監督処分基準によって行われます。二つの処分事由に該当した場合はそれぞれの営業停止期間が合計されるほか、三以上の違反があった場合や営業停止満了後3年を経過するまでに同種の不正を行った場合には、情状により加重されます。

建設業の許可取消には、許可要件を維持できなくなった/あるいは更新手続きを怠った場合に行われる手続き上の取消と法令違反のペナルティとして行われる不利益処分の取消の二種類があります。

不利益処分の取消が行われるケースとして、営業停⽌に従わない場合や不正に建設業の許可を受けた場合が挙げられます。

表3 建設業法の許可取消処分
手続き上の取消 要件を欠いたために許可取消されるもの
ペナルティはなく要件を満たすことですぐに再取得可能!
不利益処分の取消 法令に基づいたペナルティ
以後5年は許可申請ができない!

また、⼀括下請負禁⽌規定や独占禁⽌法・刑法などの他法令に違反した場合などで特に悪質な場合、指⽰や営業停⽌の段階を踏まず、許可取消となります。当然ながら、公共工事への入札参加資格も失います。

役員個人の法令違反でも処分される?

注意すべきは、経営に携わる役員や株主の個人的な法令違反であっても許可が取り消されるケースがあるということです。

例えば、建設業の役員が酒に酔って喧嘩をしたなどで傷害罪の罰金刑を受けた場合、建設業法第8条の欠格要件に該当し、許可取消が行われます。建設業は社会的な影響力が大きい産業であるため、経営に携わる人物の資質が厳しく問われることが特徴です。

許可取消された場合、再取得はできるのか?

手続き上の取消の場合、許可の再取得もスムーズですが、不利益処分の取消については再取得も困難になります。取消の日から5年経過、あるいは禁錮以上の刑を終えて5年を経過しなければ再取得できません。

建設業法で定められた罰則のなかで、最も軽微なものが過料です。金額も最大20万円までと比較的少額で、行政罰にあたるため前科がつかないことが特徴です。

財務諸表関連の不正や廃業の届出を怠った場合、請負や下請契約に関する事項を記録した帳簿の備えつけや保存を怠った場合などが過料の対象になります。

最大金額が個人に対して最大300万円と大きく、刑事罰であるため前科になるのが罰金です。また、違反内容によっては行為者と同時に法人に対しても罰金が科せられることもあります(両罰規定)。

建設工事現場に主任技術者または監理技術者を置かなかったとき、報告指示あるいは立入検査の際に協力を拒んだ場合などは、悪質と見做され罰金の対象になります。

建設業法で定められた罰則のうちで、最も厳しいものが懲役です。過料や罰金などの財産刑に対し、刑務所などの施設に拘置する自由刑に分類され、禁錮と異なり労役が科されます。

なお、建設業法で最も重い違反事項は第47条に掲げられた以下の5項目です。3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科され、情状によっては併科されることもあります。さらに、法人には1億円以下の罰金が科されます(!)。

建設業法第47条

無許可で建設業を営業した場合
特定建設業者でない者が⼀定⾦額以上の下請契約を締結した場合
※工事1件につき4,500万円(建築工事業の場合は7,000万円)以上となる下請契約を締結する場合、特定区分の許可が必要
営業停⽌に反して営業した場合
営業禁⽌に反して営業した場合
虚偽または不正の⼿段で許可を受けた場合

建設業法違反例 ~インボイス関連編~

ご存知のように、2023年10月より適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度が導入されます。本制度をごく簡単に要約すれば、消費税の仕入れ税額控除を受けるためには新書式の適格請求書(インボイス)の保存が要件になる、というものです。

インボイス制度が建設業で特に問題視されている背景には、一人親方など売上1,000万円を超えない免税事業者に工事を発注する機会が多いという業界における構造上の特徴があるためです。こうした免税事業者は、当然にして適格請求書を発行できません。

単品受注生産という特性上、建設業はけっして利益率が高い業種ではないため、元請事業者の立場としては、仕入れ税額控除を受けられるかどうかは損益分岐の面で無視できないファクターとなります。そのため、制度導入後、多くのトラブルが生じることは想像に難くありません。

国土交通省は、元請事業者に向けて、インボイス制度導入後の免税事業者との取引において特に留意すべき建設業法の条文を抜粋し、注意喚起を図っています。それはつぎのようなものです。

建設業法第19条3(要約)
注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために必要と認められる原価に満たない金額で請負契約を締結してはならない。

インボイス制度導入後に最も予想されるトラブルとしては、元請負人が下請負人との協議を行うことなく消費税額分にあたる金額を減額するケースなどが考えられます。

くり返しになりますが、建設業における一人親方の多くは免税事業者です。免税事業者は、これまで受取消費税について、益税として自身の収益にすることができました。これを理由として、インボイス制度導入後、元請事業者側が消費税額分にあたる金額の実質値引を求めることで生じるトラブルは特に懸念されています。

国土交通省が具体例として挙げているのは、つぎのようなものです。

工事契約トラブルイメージ
工事契約トラブルイメージ

こうしたケースは、建設業法第19条3、不当に低い請負代金の禁止に抵触します。

元来、一人親方の多くは、益税を得ているといっても、受注を優先して消費税分を収益として見込んだ見積額を提示していることがほとんどです。そのため、一方的に消費税分を減額されると、原価割れを起こすケースも少なくありません。

上記のような事例は、元請負人が自己の取引上の優位を利用して、下請負人に一方的に請負金額の減額を強いる行為と見做され、建設業法違反となります。

建設業法第20条第4項(要約)
建設工事の注文者は、請負契約を締結するまでに工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法等について、できる限り具体的な内容を提示しなければならない。

元請負人が曖昧な見積条件により下請負人に見積を行わせた場合、建設業法違反となる可能性があります。免税事業者に対しては、消費税額分の支払有無について、具体的に事前の協議をすることが好ましいでしょう。

建設業法第24条5(要約)
元請負人の建設業法違反について、下請負人が関係官庁に通報したことを理由に、元請負人は下請負人に取引停止その他不利益な取扱いをしてはならない。

前項のようなトラブルが起こった際、元請事業者が支払を保留することで、下請事業者が関係官庁に通報することは当然にして予想されます。ただ、こうした通報を理由に、取引停止や不利益な取扱いをすることは建設業法で禁止されています。

上記いずれのケースについても、元請事業者と下請事業者で綿密な協議を行い、あくまで対等な関係の構築及び公正な取引に努めなければなりません。

まとめ ~インボイス制度対応準備は万全ですか?~

本稿では、建設業法の概要とインボイス制度関連の条文についてお伝えしました。

建設業法は、罰則や処分について定めているだけでなく、建設業の営業許可にもかかわります。そのため、建設業に携わるすべての人にとって、まさに金科玉条ともいうべき最高規範です。

内容は広範で厳格ですが、遵守に努めることで、従業員を守ること、また、建設業全体の利益と発展に繋がっていきます。ぜひ、理解を深めたうえで、きたるべきインボイス制度導入に備えましょう!

また、インボイス制度について準備がまだお済みでない事業者さま、あるいは制度の詳細や対応方法について調査中といった事業者さまも多いことかと思います。

そうした事業者さまむけに、制度詳細から建設業のインボイス対応についてまとめた資料をご用意しました。もちろん、取引先の免税事業者さまに配布して制度説明のためにお役立ていただいても構いません。

こちらのPDFは無料でダウンロードできます。ぜひご活用ください!

DL資料

よくある質問

Q建設業法違反はどうやって発覚するのでしょう?
A通報のほか、発注者側に立入調査が入ったり現場で事故が起こった際、それに付随した調査の結果、関連事業者の違反が発覚するなどのケースが考えられます。
Q建設業法違反の疑いのある行為を目撃したらどうすればよいでしょうか?
A建設業法違反の通報先/相談窓口として、国土交通省が用意した違反通報窓口、駆け込みホットラインが用意されています。通報者に不利益のないよう、法令違反の疑いのある業者に立入検査などが実施されます。
Q免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討しています。法律上ではどのような行為が問題となりますか。
A自己の取引上の地位を不当に利用して免税事業者である下請負人と合意することなく、下請代金の額を一方的に減額した場合など、下請代金の額がその原価に満たない金額となる場合には、建設業法第19条3の「不当に低い請負代金の禁止」の規定に違反する行為として問題となります。
Q建設業法の違反事例にはどのようなものがありますか?
A近年の報告例で、最も多くみられるのは「建設業許可にかかわる虚偽申請」です。役員等について過去に変更があったにもかかわらず、届出がないまま許可を申請している事案が報告されています。また、「主任技術者等の配置義務違反」などもしばしばみられる違反事例です。専任の主任技術者または監理技術者を配置しなければならない⼯事にもかかわらず、営業所の専任技術者が配置されていたり、同期間に重複配置されている事案の報告例があります。
Q昨今、さまざまな電子契約サービスがありますが、建設業法上、工事請負契約の契約書は電子化しても問題ないのでしょうか?
A一定の条件を満たした場合、工事請負契約についても電子でのやりとりが認められます。詳細については別記事「建設業こそ電子契約を導入すべき3つの理由」をご覧ください。

本記事の関連記事はこちら

2023年インボイス制度導入!
今知っておくべき建設業の対応は?

赤伝処理とは? 契約トラブルから
身を守る3つのポイント

建設業法2024-2025年改正総まとめ
事業者が対応すべきポイントは?

2020年改正建設業法3つのポイント解説!

2020年改正建設業法
3つのポイント解説!

プライバシーマーク