はじめに
2024年4月から建設業も残業規制の対象となります。以前は「3K(キケン・キタナイ・キツイ)」を払拭しなければ若者は建設業界に入ってこないと言われていましたが、近年では「給料が安い」「休日が少ない」といったことも、解決すべき大きな課題として浮上しています。特に他産業に比べて「休日が少ない」ということはよく言われており、残業時間の削減と休日の増加、特に「週休2日」は、若者の建設業入職を促進するためには不可欠な要素となりつつあります。ただ、現実には「工期」という問題があり、特に民間工事では思うに任せないということも指摘できそうです。
国土交通省では建設企業2,182社、電気・鉄道・住宅・不動産業界の大手42社を対象に「適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査(令和4年度)」を実施しました。調査時点は2023年1月19日現在(2022年1月以降に請け負った工事)で、「工期設定にあたっての受発注者間の協議の有無」「工期の適正性」「工期変更の理由」「工期変更に伴い増加した工事費の負担」「休日の取得状況」「働き方改革・生産性向上に向けた取り組み」などについて調査しています。
建設企業の調査結果
*提示された工期=注文者から提示された工期は「妥当」という回答が59%を占めています。とは言うものの、この「妥当な工期」での現場閉所率は「4週4閉所」「4週6閉所」が多く、目指す「4週8閉所」との回答は14%に過ぎません。国交省ではこの結果に対し「注文者から提示された工期では完全週休2日が確保されていない場合が多い」と指摘しています。
*最終的な工期設定=「注文者の意向を優先し、協議は依頼しないことが多い」が22%を占めました。下請企業では、特にその割合が高く「下請企業から元請企業に(上位下請企業)に協議を依頼しがたい」姿が浮かび上がります。「注文者と協議を行うが、受注者の要望は受け入れられないことが多い」との回答した建設企業の場合、「著しく短い工期の工事が多かった」との回答が76%を占め、現場閉所率も「4週4閉所(未満)」の回答が56%を占めました。この結果については「週休2日を確保した適正な工期設定に向けては、適切に協議を実施することが重要である」と論じています。
*短工期への対応=工期は直接、収益に関わってくるだけに、民間発注企業としてはなるべく短い工期であることを要望します。それに対して建設企業は「休日出勤」「早出・残業」で対応していることが、改めて示された格好です。逆に「機械化施工」「プレキャスト化」といった作業の効率化で対応しているとの回答は少数でした。
*残業時間=月当たり最大残業時間が100時間超の建設企業は、技術者7%、技能者2%という割合ですが、完工高50億円以上の建設企業では技術者で19%を占めています。来年4月以降、月当たり残業時間が100時間を超えた場合は罰則対象となることから、長時間労働の改善は喫緊の課題となります。
*工期変更がなかった工事=短い工期にもかかわらず工期変更がなかった理由は「使用開始日の制約があった」ためというのが最も多く、最初の工期設定段階で使用開始日の制約を考慮し、余裕のある工期を設定することの重要性を指摘しています。
*工期変更があった工事=元請企業(上位下請企業)から提案されることが多く、変更の要因として元請は「資機材の調達難航」、下請は「関連工事との調整」との回答が多かったことから、工事全体の工程管理を適切に行うとともに、資機材の納入遅れ等を考慮した上で工期設定をしていくことの必要性を指摘しています。
*適正工期確保・生産性向上に向けた取り組み=なんといっても「注文者の理解」との回答が最も多くなっています。生産性向上に向けて「ITツールの活用」「情報共有システムを活用した書類授受の省力化」、経営効率化に向けて「勤務体制の工夫」との回答が多い一方で、完工高の低い建設企業や下請工事を主とする建設企業では「特に取り組んでいない」の回答が多くなっています。
*資材価格高騰等への対応=「資材・原油高騰の影響を受けた」との回答は76%、このうち「注文者へ(契約変更協議の)申し出をした」と「注文者へ申し出中か、今後申し出る予定がある」を合わせた回答は70%を占め、価格高騰の影響の大きさを示しています。とはいうものの、実際の契約変更は「行われなかった」の回答が35%を占めました。受注者にとっては大きな負担になっていることから適切な契約変更が求められるところです。
民間企業の回答
*工期設定方法=「受注者と協議して」の回答が69%を占めています。ただ電力は受注者と協議しないで工期を設定する傾向にあります。受注者から出される工期設定に関する提案内容としては、「工程の見直し(合理化)」が最多で、以下、「工法の見直し」「新技術・プレキャスト製品の活用」という回答が多い傾向にあります。
*工期設定で重視するもの=工事全般としては「供用開始時期」「予算」を重視している回答が多く、「予期せぬリスク」「関連工事」が続いています。発注者の事由で工期変更した理由としては「周辺住民との調整」「資機材の調達難航」「設計不備による仕様・施工の変更」「関連工事との調整」「文化財保護・埋設物の不明解さ」「悪天候・自然災害」など、様々な原因が挙げられています。
*適正工期確保に向けた取り組み=2022年1月以前に受注した工事と「あまり大きな変化はない」との回答が67%であることから、国交省では「適正な工期の工事発注を増やすためにも、発注者に『工期に関する基準』の周知・展開を図り、内容の理解を促していく必要がある」としています。
*資機材高騰への対応=受注者から変更契約協議の申し出(申し出中、予定含む)があったのが90%、そのうち32%は「契約変更しなかった」と回答しています。
調査結果を見て
「妥当な工期」では「4週4閉所」「4週6閉所」が中心なっており、それを「妥当」だと判断することに対しては疑問が生じます。建設企業側がこれを「妥当ではない」とする意識を持つことが、まずは重要なことでしょう。そうしないと次の進展が見えてきません。発注側は民間企業であり、利益追求という観点からは短工期で完成、稼働させることを求めるのは当たり前のことです。
もし、建設企業側が「短い工期に対応」を武器に受注に走るのなら、働き方改革はとても実現できるものではありませんし、実際に「休日出勤」や「早出・残業」で対応しているとの結果も出ています。建設工事従業者の残業時間は、技術者で13%、技能者で5%が月当たり残業時間45時間超となっています。完工高が50億円以上の建設企業では技術者の平均残業時間45時間超との回答が35%と高い数値を示しています。
資材価格高騰と調達困難も現場の混乱に拍車をかけていますが、特に調達困難による工期へのしわ寄せは、発注者と受注者の間での十分な協議が求められてしかるべきです。発注者と受注者の、建設企業で働く人たちに対する思いが、働き方改革の行く先を大きく左右することになることは確実です。
顧問
服部 清二 氏
中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。