1.はじめに
平成30年3月30日に、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「本会計基準」)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「本適用指針」)が公表されました。前々回より本会計基準の概要及び建設業に与える影響の概要に触れ、前回は8つある個別項目の内、①工事進行基準の適用の要件、②原価回収基準の認容、③工事損失引当金についてみてきました。今回は、個別項目「④複数の履行義務」にフォーカスし、本会計基準の建設業に与える影響についてみていきたいと思います。
2.建設業に与える影響(個別論点)
④複数の履行義務
本会計基準では収益の計上単位は、契約単位ではなく、履行義務単位となります。
工事契約には、設計、基礎工事、調達、建設、設備の据付、アフターメンテナンスなどをまとめた契約や、解体と新築工事をまとめた契約など、複数の履行義務を含む契約が多く、契約期間も比較的長いケースが多いと思います。このような場合に、各々の履行義務を別個の履行義務として識別するか、統合した単一の履行義務として識別するのかが論点となります。
本会計基準第34項の2要件のいずれも満たす場合には別個の履行義務として識別します。その際に本適用指針第5項及び本適用指針第6項も考慮します。
上記の通り、本会計基準及び本適用指針の記載は大変難解な表現となっていますので、ここでは本適用指針の設例5-1を取り上げることとします。
設例5-1は病院を建設するという契約内容に、設計、現場の清掃、基礎工事、調達、建設、配管と配線、設備の据付及び仕上げが含まれるケースです。契約に含まれる履行義務の多くは、独立して提供することも可能であり、本会計基準第34項(1)の「単独で顧客が便益を享受することができる」といった要件を満たしています。
しかし、各々の履行義務はあくまで最終的なアウトプットである病院に統合するものであり、履行義務を移転する約束は、契約に含まれる他の約束と区分して識別できないと判断され、本会計基準第34項(2)の要件は満たしません。
以上より、本会計基準第34項の2要件の両方が満たされていないため、このケースでは複数の履行義務をまとめて単一の履行義務として処理するものとされています。
このように建設業において設計、調達、建設、設備の据付など複数の履行義務が含まれる契約であっても、顧客仕様のものに施すサービス、又は財又はサービス間の相互依存性や相互関連性が高い場合は、各々の履行義務を区分できず、単一の履行義務として処理することになります(下記図参照)。
出所:ASBJオープン・セミナー(平成30年7月25日開催)資料より一部抜粋
また、上述のような1つの契約に複数の履行義務が含まれているケースだけではなく、1つの建物を完成して引き渡す工事契約にあたって、工期毎に第1期工事、第2期工事というように契約を複数に分けて締結するケースも考えられると思います。この場合も、履行義務としてみた場合には1つの建物を完成して引き渡すという一連の単一の履行義務として処理されるものと考えられます(契約の結合)。
3.おわりに
今回は、本会計基準の建設業に与える影響として、④複数の履行義務についてみてきました。契約上の履行義務をどう捉えるかは、本会計基準適用にあたってキーになる部分かと思います。一方で基準の表現は難解な部分も多いことから、設例などの具体例により理解を深めて頂ければと思います。今回取り上げた複数の履行義務の説明も、その参考の一つとしていただければ、幸いです。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
新たな会計ルール
「新収益認識基準」とは