2022年の建設業界はどんな年になるのだろうか。コロナ禍で昨年から建設資材が高騰し、ゼネコンの業績に直撃している。国土交通省は新年早々、総合評価方式で賃上げ企業を優遇する措置を打ち出し、業界内には困惑も広がっている。一方、専門工事業界では労働者不足を懸念する声が上がる。事業量が伸びていないのにもかかわらず、なぜ労働者不足が指摘されるのか。海外との往来を規制するコロナ対策の長期化で、外国人材の出国者数が増え、入国者数が減っているためだ。外国人材を多く受け入れている業種で今後、人材難になる可能性もでてきている。
首都圏の生コンが一斉に値上げ
1月初旬、首都圏の生コンクリート協同組合は一斉に値上げに動いた。千葉中央生コンクリート協同組合(長谷川茂理事長)は1月引き合い分から1立方メートル当たり1000円値上げ。神奈川生コンクリート協同組合(大久保健理事長)も4月から3000円程度、東京地区生コンクリート協同組合(斎藤昇一理事長)も6月から3000円値上げの方向だ。原燃料のコストアップが要因でこうした状況は全国に共通する。今後の工事契約に影響するため建設業界で警戒感が強まっている。
建設資材の値上げはセメントや生コンだけではない。昨年から鋼材や塩化ビニール、アスファルト合材、外装建材、化粧板、防水関連資材などで値上げ表明の動きが相次ぐ。ゼネコン関係者は資材価格の上昇を一定程度織り込んでいるとしつつも、「値上げが顕著になると今後の見積もりには反映せざるを得ない。競争が厳しい中でどこまで上乗せできるかが難しい」と困惑する。集中購買や施工効率化で上昇分を吸収するなど「知恵の出し所になる」とみる。
特に値上がりが激しかったのが鋼材。橋梁メーカー各社は、上昇基調にある鋼材価格に対応するため、価格上昇分を請負金額に反映してもらうよう発注者に設計変更などを昨年末に要望。生産効率を高めて鋼材の歩留まり率を改善したり、使用する鋼材の種類を減らしたりしてコスト抑制に取り組んでいる。ある業界関係者は、新型コロナウイルスの影響で低調だった景気が欧米などで回復基調にあり、鉄鋼需要も増加したと分析。脱炭素社会の実現を見据え、加工を行う高炉の操業停止が価格上昇に追い打ちを掛けているようだという。
建設物価調査会が昨年9月に公表した「主要資材動向(東京)」によると、H形鋼は1トン当たり10万2000円と試算。2008年以来の高水準に達した。5カ月連続で上昇している中、調査会は「鋼材メーカー各社が価格優先の販売姿勢を崩していない。流通筋も採算確保に向けて値上げ交渉を継続する」と先を読む。
半導体不足で設備機器の納入にも遅れが
原油価格の高騰で苦しんでいるのが道路舗装業界だ。昨秋、道路舗装会社は相次いで、アスファルト合材の出荷価格を値上げした。1トン当たり1000円引き上げで、道路舗装用資材の原材料となるストレートアスファルト、改質アスファルトの価格が高止まりしているためだ。道路舗装各社はコスト削減などで価格上昇分を吸収してきたが、原油価格の先行きが見通せないことから、出荷価格の改定が不可避と判断した。
半導体不足も建設業界に影響を与えている。空調設備や給湯器、電気制御機器などには多くの半導体が使われ、設備機器の調達が難しくなっている。ある設備工事会社のトップは「数か月前まではメーカー側から設備機器の納入時期が2~3カ月遅れるという回答だったが、最近はいつ納入できるか分からないという返事がきている。全国で行っている工事の進捗状況をリアルタイムで把握しながら、優先的に設備機器を回す工事を決めながら、なんとか工期に遅れないよう対応している」という。
鉄筋業は5人に1人が外国人材、研修生頼みで作業実施
一方、専門工事業業界では人手不足を危惧する声も上がる。これまで担い手不足を解消しようと、技能労働者の処遇改善などを進め、若年労働者の入職を懸命に進めてきた。だが、結果的には思うような人材の確保ができておらず、最終的には人が足らない穴を、外国人研修生などの外国人材に頼ってきた。
全国鉄筋工事業協会(全鉄筋、岩田正吾会長)がまとめた会員企業の2021年度就労人口調査結果によると、鉄筋工事業の外国人就労者数は7647人で、全就業者数の18・2%を占める。おおむね5人に1人が外国人労働者という割合で、いまや外国人材抜きでの作業は考えられなくなってきている。
現在、技能実習生はコロナ禍で在留期間(3年間)が延長され、国内の仕事に従事しているが、ある鉄筋工事会社のトップに聞くと、「早く帰国したいという外国人実習生が増えており、彼らが一斉に帰国し始めると、それを補うだけの新たな外国人技能実習生は確保できないのではないか」という。
専門工事業の人材確保状況を勘案しながら円滑な工事を
新たに創設された外国人特定技能者数も伸び悩んでいる。建設技能人材機構(JAC、三野輪賢二理事長)と専門工事業協会などが連携して行う特定技能評価試験がコロナ禍で思うように開催できておらず、海外で実施する試験を急きょ国内試験に切り替え、対応するケースも増えている。
ある専門工事会社の幹部は「担い手確保に向け、日本人労働者の入職に取り組んでいるが、なかなか定着しない。技能実習生や特定技能の外国人材が減れば、都市部を中心に今後業務に支障をきたすこともあるかもしれない」と、危機感を示す。
2024年4月には罰則付き残業規制が建設業界にも適用される。建設業界は現場の労働時間の短縮に向け、働き方改革を懸命に進めている。だが、その足下では外国人材の不足で、工事が滞る可能性もある。今年は資材の高騰対策だけでなく、現場労働者対策も視野に入れて工事を進めないと、思わぬ落とし穴にはまる可能性もある。
執筆者
日刊建設工業新聞社
常務取締役編集兼メディア出版担当
坂川 博志 氏
1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。