1.はじめに
前回のコラムでは、負債を増やさずに活用できる資金繰り支援策を中心にご紹介しました。コロナ禍では特別な施策が実施されてきましたが、国も企業体力と成長性がある企業に対して資金を支援していく方法に舵取りをしようとしています。
そこで今回は2023年度に注目されている新たな資金調達方法として、経営者保証を不要とする資金調達についてご紹介したいと思います。
2.経営者保証について
経営者保証とは、中小企業が融資を受ける際に経営者が個人で保証を行う制度です。つまり会社が債務を返済できなくなった場合に経営者が個人で弁済する義務を負うことになります。経営者自身が弁済義務を負うことによって、企業の信用力のみでは実現できない資金調達を可能とするものです。高度経済成長期に広がった慣行で、今も広く利用されています。中小企業基盤支援機構が平成30年に実施したアンケートでは、全ての借入に経営者保証を提供しているが57.4%、一部の借入に提供しているが29.3%と、回答した中小企業の経営者のうち8割以上が経営者保証を提供しているという結果になりました。
これまで、経営者保証があることで資金調達を可能にした側面もある一方で、大胆な規模拡大や事業展開を躊躇させる要因となっていました。そこで、経営者保証の要らない資金調達を受けるためのガイドラインが策定されました。そして経営者保証に依存しない融資慣行を更に加速させるため、2022年12月には「経営者保証改革プログラム」が公表されました。このプログラムでは①スタートアップ・創業、②民間融資、③信用保証付融資、④中小企業のガバナンスの4分野が重点ポイントとなっています。
それぞれでどのような施策となっているのかみていきたいと思います。
3.スタートアップ・創業
スタートアップ・創業者に対しては、経営者保証が創業意欲の阻害とならないように以下の融資を促進しています。
保証対象者 | ・創業予定者(これから法人を設立し、事業を開始する具体的な計画がある者) ・分社化予定者(中小企業にあたる会社で事業を継続しつつ、新たに会社を設立する具体的な計画がある者) ・創業後5年未満の法人 ・分社化後5年未満の法人 |
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保証限度額 | 3,500万円 |
保証期間 | 10万円 |
据置期間 | 1年以内 |
保証料率 | 各信用保証協会所定の創業関連保証の保証料率に0.2%上乗せした保証料率 |
融資の実行には創業計画書(スタートアップ創出促進保証制度用)の提出が必要となります。
また、保証申込受付時点において税務申告1期未終了の創業者にあっては創業資金総額の1/10以上の自己資金を有していることを要します。そして、本制度による信用保証付融資を受けた方は、原則として会社を設立して3年目および5年目のタイミングで中小企業活性化協議会による「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」(後日掲載予定)に基づいた確認および助言を受けることが求められます。
4.民間融資
保証を徴求する際の手続きを厳格化することで、安易な個人保証に依存した融資を抑制するとともに、新たな融資慣行の確立に向けた意識改革を進めています。
I. 金融機関が個人保証を徴求する手続きに対する監督強化
金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合には、保証契約の必要性等に関して事業者・保証人に対して個別具体的に①、②の説明をし、その結果を金融庁に報告することなどが主な施策となっています。
①どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか
②どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか
II. 経営者保証に依存しない新たな融資慣行の確立に向けた意識改革 (取組方針の公表促進、現場への周知徹底)
金融機関に対し、「経営者保証に関するガイドラインを浸透・定着させるための取組方針」を、経営トップを交えて検討・作成し、公表することなどが求められます。
III. 経営者保証に依存しない新たな融資手法の検討 (事業成長担保権(仮))
金融機関が、不動産担保や経営者保証に過度に依存せず、企業の事業性に着目した融資に取り組みやすくするよう、事業全体を担保に金融機関から資金を調達できる制度の早期実現を目指しています。
5.信用保証付き融資
経営者保証ガイドラインの要件(①法人・個人の資産分離、②財務基盤の強化、③経営の透明性確保)を充たしていれば経営者保証を解除するという取組が行われています。この取組を徹底する施策が予定されています。
また、経営者保証ガイドラインの要件のすべてを充足していない場合でも、経営者保証の機能を代替する手法(保証料の上乗せ、流動資産担保)を用いることで、経営者保証の解除を事業者が選択できる制度を創設するとしています。
6.中小企業のガバナンス
中小企業のガバナンス体制を整備することによって、収益力改善や企業価値の向上を目指す取組について支援策が検討されています。企業価値を向上させることによって企業の信用力をつけ、経営者保証を必要としない資金調達を支援することが目的です。具体的には、以下のような施策があります。
I. ガバナンス体制整備に関する経営者と支援機関の目線合わせのチェックシートの作成を行う
II. 中小企業の収益力改善やガバナンス体制整備支援等に関する実務指針の策定、収益力改善やガバナンス体制の整備を目的とする支援策(経営改善計画策定支援・早期経営改善計画策定支援)における支援機関の遵守を促す
III. 中小企業活性化協議会における収益力改善支援にガバナンス体制整備支援を追加し、それに対応するため体制を拡充することを予定
7.建設業における資金調達の重要性
建設業の一つの特徴として、工事受注から売上代金入金までの期間が長い、ということがあります。業界やビジネスモデルを問わない当然の思考として、売上債権の入金サイトは短いほど好ましいでしょう。建設業は長期工事となることも珍しくない他、天気の影響を受けて工期が伸び、それに伴って入金までの期間も伸びることもあります。最近、公正取引委員会や中小企業庁が支払サイトの短縮について努力を求めている手形についても、建設業では未だに長期サイトのものが多く使われているようです。
こうした背景もあることから、建設業の経営に際しては、資金調達方法の選択肢を広く知っておくことが重要になるでしょう。
8.おわりに
今までは経営者保証があることで事業継承に二の足を踏んだり、継承相手が見つからなかったり、ということがありました。しかし、「5.信用保証付融資」に記載した通り、①法人・個人の資産分離、②財務基盤の強化、③経営の透明性確保の要件を満たせば、経営者保証をする必要はなくなります。
①、③については、本腰を入れて取り組めば実現できる可能性が極めて高い要件です。②については利益計画等をしっかりと立てて、一定以上の利益を出し続けることを示すことが重要です。そのためには支援金融機関と良好な関係を築くことが重要です。
経営層だけで抱え込まずに、適宜金融機関や外部の専門家を頼ることをおすすめします。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
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