1.はじめに
前回から2回にわたり中小企業における脱炭素化の取組みについて解説しています。
前回は中小企業が脱炭素化に取り組むことのメリットを中心にご紹介しました。今回は脱炭素化や地球温暖化対策を実施する企業が受けられる補助金や、どう取り組めばいいのかについて解説していきたいと思います。
2.脱炭素化へのステップ
温室効果ガスを削減に向けた省エネ対策等は様々ありますが、大幅に削減させるためには温室効果ガスの排出量がそもそも少ないエネルギーへの転換の検討が必要となるでしょう。そこで、環境省では利用エネルギーによる温室効果ガス削減の可能性を探る過程として以下のようなステップが紹介されています。
STEP1 長期的なエネルギー転換の方針の検討
将来の技術開発を見据えた上で、主要設備のエネルギー転換の方針を検討します。例えば主要設備に都市ガスを使用している場合、技術や導入コスト等を勘案しながら電化する、あるいはバイオマス燃料に転換するといった方針を決定します。
STEP2 短中期的な省エネ対策の洗い出し
長期的な方針に基づくエネルギー転換の内容や時期を踏まえ、既存設備稼働の最適化やエネルギーロスを削減する方法を考えます。ここまでのステップで大まかに自社の温室効果ガスの削減余地を把握します。
STEP3 再生可能エネルギー電気の調達手段の検討
前の2つのステップのみでは、十分な温室効果ガスの削減効果が得られない場合がほとんどです。そのため削減目標を達成するには、どのくらいの再エネ電気の調達が必要になるかをここで明確にします。そして、再エネ電気の調達手段を検討します。
STEP4 地域のステークホルダーとの連携
多くの事業者では自社努力だけで高い目標を達成するのは困難です。自治体や地域金融機関などに相談・連携し、支援制度等がないか確認することも必要になります。また、同じような事業者の取組事例の紹介を受ける、計画について助言をもらうといったことは効果的です。
STEP5 削減対策の精査と計画へのとりまとめ
ここまでで計画した対策にかかるコストを明確にし、キャッシュフローに落とし込みます。設備投資額や想定される光熱費の増減もシュミレーションし、補助金等の補填も勘案し、スケジュールを組みましょう。合わせて温室効果ガスの想定削減量もスケジューリングします。
STEP6 削減計画を基にした社内外との議論
計画が完成したら積極的に発信していくことが望ましいといわれています。特にこれらの計画は社員の協力も含めた社内外との連携が無ければ達成できません。社員の理解を得るためにも、金融機関に融資を受けるためにも、STEP5での計画の精度を高めておくことが有益です。
建設業界でも大和ハウスのようにサプライヤーに温室効果ガスの削減目標を求める企業も出てきました。この流れは今後拡大していくものと予想されます。
3.再エネ電気調達手段の検討
ここでは多くの中小企業において導入を検討することになるであろう、再生可能エネルギーの検討についてもう少し詳細にみていきます。
多くの場合、購入する電力を切り替える、もしくは発電施設を設置するということになるでしょう。
まず購入する電力を切り替える場合についてです。小売電気事業者が提供する再生可能エネルギーを電源としたプランに切り替えるという手段があります。様々なプランがありますが、再生可能エネルギー割合が100%のプランであれば、CO2排出量実質ゼロの電気となります。まとまった投資をしなくても、契約を切り替えるだけで脱炭素の取組みとなるところが最大のメリットです。
また、発電設備を設置する場合、自家太陽光発電設備を設置する、あるいはPPAモデルを導入するといったものが主な手段となるでしょう。太陽光発電は、時間帯や天気、季節により発電量が異なり、立地や周辺環境にも大きな影響を受けます。そうした特性を踏まえた上で、設置する発電量を決定する必要があります。屋根や遊休地を活用できるメリットがありますが、稼働までにある程度の期間を要し、メンテナンスが必要である点も考慮する必要があり、初期投資も必要です。初期投資を必要としない方法としてPPAモデル(第三者モデルとも呼ばれる)というものがあります。PPAはPower Purchase Agreementの略で電力販売契約という意味で、企業が保有する施設の屋根や遊休地を事業者が借り、無償で発電設備を設置し、発電した電気を施設で使うという仕組みです。メンテナンスも事業者が行い、一般的には電気代の削減が可能といわれていますが、10~20年間の長期契約を締結することになり自由度は低いといえるかもしれません。
4.再エネ関連の補助金
再エネ関連の補助金は国や地方自治体などで用意されています。その中でも代表的なものがSHIFT事業です。SHIFT事業は工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業のことで、工場・事業場における脱炭素化のロールモデルとなる取組を支援する制度です。
補助事業の内容としては以下のようになっています。
①CO2削減計画策定支援(補助率: 3/4、補助上限: 100万円)
中小企業等による工場・事業場でのCO2削減目標・計画の策定を支援
※CO2排出量をクラウド上で、リアルタイムで見える化し運用改善を行うDX型計画は、補助上限200万円
②省CO2型設備更新支援
A.標準事業 工場・事業場単位で15%以上又は主要なシステム単位で30%以上削減するCO2削減計画に基づく設備更新を補助 (補助率:1/3、補助上限:1億円)
B.大規模電化・燃料転換事業 主要なシステム単位でi)ⅱ)iii) の全てを満たすCO2削減計画に基づく設備更新を補助 (補助率: 1/3、補助上限:5億円)
ⅱ)CO2排出量を4,000t-CO2/年以上削減
ⅲ)CO2排出量を30%以上削減
C.中小企業事業 中小企業等によるCO2削減計画に基づく設備更新に対し、以下のi)ⅱ)のうちいずれか低い額を補助 (補助上限:0.5億円)
ⅱ)補助対象経費の1/2(円)
③企業間連携先進モデル支援(補助率:1/3、1/2、補助上限5億円)
Scope3削減目標を有する企業が主導し、複数サプライヤーの工場・事業場を対象とした計画策定・設備更新・実績評価を2カ年以内で行う取組を支援(金融機関も参画の場合は重点支援)
④補助事業の運営支援(委託)
CO2排出量の管理・取引システムの提供、実施結果の取りまとめ等を行う。
令和3年度から始まっており、過去のスケジュールでは公募時期は春頃になることが多いようです。令和6年度補正予算に基づく公募予告は2025年の年明け頃に発表されるものと予想されますので、制度を利用したい場合は前もって準備しておくことが望ましいです。SHIFT事業のホームページでは過去の公募要項等も閲覧できます。建設業で利用している事業者はまだ非常に少ないようですが、温室効果ガスの削減に向けてまとまった投資を考えている場合は、一度検討頂きたいと思います。
5.おわりに
2回にわたり脱炭素化への取組みについてご紹介しました。2050年のカーボンニュートラルに向けて、大企業のみならず、中小企業や個人での取り組みも求められる時代がやってきています。会社の経営にマイナスの影響を及ぼすような無理な計画をする必要はありませんが、一方で一切取り組みを行わないというのもリスクとなりえます。
特に建設業においては、ZEH・ZEBなど建造物でのエネルギー収支にフォーカスしたものをはじめ、エネルギー消費に関する施策が存在しています。業界におけるエネルギー施策の動向に乗り遅れないようにするためにも、こうしたトピックは随時押さえ、先々動き出すことも踏まえて、計画立案を開始しておくことが好ましいでしょう。
本コラムを、リスクヘッジの意味合いも含めて無理のない計画立案の素地として頂けますと幸いです。
執筆者
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
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