1.はじめに
建設業界は長きに渡り業界再編が起こりにくいとされていましたが、近年は少子高齢化が進み建設業界でも人手不足解消のM&Aなどが活発に行われるようになりました。総務省によると日本の生産年齢人口は1995年をピークに2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少すると見込まれております。生産年齢人口の減少による労働力の不足、国内需要の減少による経済規模の縮小など様々な社会的・経済的課題の深刻化が懸念されています。このような背景から今後ますます建設業界のM&Aは活性化していくことが見込まれます。すでに建設業では人手不足解消の施策として特定技能の分野に選定されるなど人手不足解消に向けた様々な取り組みが行われています。令和2年10月には建設業法の改正により事業譲渡・合併・分割(以下、「事業承継」という)に係る建設業許可の取扱いを改め、事業承継等に係る認可の制度が創設されました。今回は令和2年10月に改正された事業承継等に係る認可の制度についてみていきたいと思います。
2.令和2年10月改正前の事業承継等に係る建設業許可の取扱い
令和2年10月の改正前までは事業承継が行われた際に建設業許可業者(合併後消滅会社)が廃業届を提出し、合併後存続会社が新規の建設業許可を行うという運用がなされていました。なぜこのような手続きだったかというと、合併後消滅会社に経営業務の管理責任者(令和2年10月に改正)や専任技術者が在籍していたため、一旦廃業して合併後存続会社に移籍しなければ合併後存続会社側で建設業の許可要件を満たすことができなかったからです。また廃業届提出後すぐに新規の建設業許可申請ができるというわけでもなく、専任技術者の社会保険の手続き等建設業許可に必要な手続きを経た後での申請となるので、合併後存続会社が建設業許可申請を取得するまでかなりの空白期間がありました。
3.手続きの流れ
都知事認可を例に見ていきたいと思います。事前相談は随時行っています。事業承継の形態やケースによって必要書類が異なる場合があるので事前相談で必要書類を確定してもらいます。必要書類が確定したら後は書類の収集及び作成となりますが、書類の作成相談は承継予定日(譲渡及び譲受日、合併日、分割日)の4か月前から可能です。前述した通り事業承継の形態やケースによって書類が変わりますので早め早めに作成相談に行くことをおすすめします。申請受付は承継予定日の閉庁日を含まない前日の2か月前から閉庁日を含まない25日前までです。このため、処理期間は申請日と承継予定日の間に、開庁日が25日必要となります。
4.事業承継の形態及び申請の条件について
形 態:事業譲渡
条 件:建設業許可業者を含む複数の事業者間で、建設業に関する事業の全部譲渡が行われる場合
申請人:承継者(譲受人)、被承継者(譲渡人)
形 態:企業合併
条 件:建設業許可業者を含む複数の事業者間で、既許可業者の消滅を伴う企業合併(新設)又は吸収合併が行われる場合
申請人:承継者(合併後存続会社)、被承継者(合併後消滅会社)
形 態:企業分割
条 件:建設業許可業者が、企業分割によって建設業部門を引き継ぐ新たな建設業者を新設する、若しくは複数の事業者間で、建設業に関する事業が吸収分割により全部譲渡される場合
申請人:承継者(分割承継法人)、被承継者(分割被承継法人)
形 態:相続
条 件:建設業者である個人事業主が死亡後、他の個人事業主への相続が行われた場合
申請人:相続人本人
5.その他注意点
東京都の手引きにも例がありますが、ある業種で、一般(特定)建設業の許可を受けている者が、同一の業種で特定(一般)建設業の許可を受けている者の地位を継承することはできません。例えば被承継者が土木業(特定)、鉄筋業(特定)、舗装業(一般)、造園業(一般)を持っており、承継者が建設業(特定)、鉄筋業(一般)、大工業(一般)、左官業(一般)を持っている場合がこれにあたります。この場合どちらかの鉄筋業(一般・特定が衝突している業種)の一部廃業が事前に必要になります。
承継予定日以降の専任技術者について、承継される許可業種の専任技術者は、承継予定日以降も原則として、業種ごとに同一の専任技術者が引き続き常勤していなければなりません。
事業継承又は相続において、一部の書類は、一定の条件の下、許可受付後に後日提出することが認められています。ただし、法令で定められた期限以内に提出がされない場合、事前認可の取り消し処分の対象となるため、必ず期限内に提出しなければなりません。
6.おわりに
建設業界は働き方改革や人手不足などの影響を受け周辺環境が目まぐるしく変化しています。一方、2011年度以降、東日本大震災の復興や東京オリンピックに向けた需要、民間設備投資の回復により増加傾向となっています。市場の拡大と人手不足等の影響からM&Aという経営戦略をとる企業は今後増えることが予見されます。
このような中、有用な制度利用などを大いに活用することが必要となります。今回のコラムがその一助になれれば幸いです。
執筆者
大学卒業後、事業会社を経て、2017年汐留パートナーズグループに入社。法務事業部においてクライアントに対するリーガル面でのサポートを行う。その後国際コンサルティング事業部にて、多くの外国法人の日本進出、日本での許認可取得、イミグレーション(在留資格)関連業務に従事。外国法人の日本進出案件に関して豊富な知識と経験を有し、また、外国人の在留資格に関する業務についても精通している。様々な許認可に関する業務にも対応可能。申請取次行政書士。
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