無駄なコストを削減し、経営を適正化する工事原価管理とは
建設業にとって、工事原価管理は経営判断のうえで非常に重要な意味を持ちます。わが国の原価計算の基準としては、大蔵省企業会計審議会による「原価計算基準」がありますが、建設業の実情に合わせた独自の原価管理・原価計算基準を把握することが重要です。本稿では、適切な工事原価管理を行なう目的、また、それによりどのようなメリットがあるのか、発生しやすい課題などをわかりやすく解説します。
CONTENTS
01.建設業における原価管理とは
02.なぜ、いま工事原価管理を見直すべきか
03.建設業の工事原価管理 実施のメリット
04.建設業の工事原価管理 課題
05.建設業向け原価管理システム/ソフトのご紹介
06.よくある質問

建設業における原価管理とは
原価計算研究部会がまとめた「建設工事原価計算基準」によれば、建設業の原価管理については「受注した個別工事の原価を望ましい水準に維持すること、さらにはより厳しい水準の原価に縮減する努力に貢献すること」と定義されています。
まず、建設業における原価の扱いについて整理してみましょう。大前提として、建設業における総原価とは、工事原価に販売費・一般管理費を加えたものを指します。
原価の定義とは?
経営過程における価値の消費
経営のなかで生み出された一定の給付に転嫁される価値
経営目的に関連したもの
正常的なもの(災害などによる支出は含まない)
このうち、工事原価は建設工事にかかった費用を指し、材料費・労務費・外注費・経費の4つの費目から成ります(表1)。製造業における製造原価では、外注費は外注工賃や外注加工費として経費に含めるのが通常ですが、一人親方など下請事業者に協力を求めるケースの多い建設業では、独立した費目として扱うのが特徴となります。
このように費目別に区分して原価を把握することを形態別原価計算といいます。
なお、営業外費用や特別損失などは非原価項目となり、原価には含めません。
総原価 | 工事原価 | 材料費 | 建設工事のための鉄筋・木材・コンクリートなどの主体材料のほか、釘・結束線等の部品を含む 購入・受入れと同時に建設工事原価に算入する |
---|---|---|---|
労務費 | 工事現場で働く人の賃金 個々の建設工事を構成する工種別に各々の労働の対価を集計し、当該工事の建設工事原価に算入する 付帯する健康保険料・厚生年金保険料等の法定福利費(労災保険料を除く)は労務費に含める |
||
外注費 | 一人親方など外部事業者への委託費用 ※建設業会計特有の費目。他業種では多くの場合、外注工賃として経費に含む |
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経費 | その他の費用、工事事務所の賃借料や光熱費・材料の運搬や保管に伴う諸費用など ※従業員給料手当、退職金、法定福利費、福利厚生費などは労務費と切り分け、経費扱いになる ※現場作業員の安全衛生管理にかかわる費用は一般管理費等ではなく経費に含む |
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販売費 | 宣伝広告費、旅費交通費、接待交際費など | ||
一般管理費 | 水道光熱費、修繕費、通信費、新聞図書費、減価償却費など ※本社の家賃は工事事務所と違いこちらに該当する |
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非原価 | 営業外費用 | 有価証券評価損、支払利息、雑損など、営業活動に関するとはいえない費用 | |
特別損失 | 災害損失や固定資産売却損など、事業活動から発生したものでない臨時の費用 ※2005年以降、会社法により条件付きながら役員賞与金などもここに含まれることとなった |
完成工事高から総原価を差し引いたものが売上総利益、いわゆる粗利です(図1)。
当然ながら、利益を最大化するためには原価を低く抑える必要があります。そのために、総原価を分解し、それぞれの費目ごとに正確に把握・分析・改善を図る業務が原価管理です。建設業の基幹業務のなかでも、とりわけ重要な位置を占めるものです。
建設業(施工管理)の5大管理とは?
建設業・施工管理で重要な5大管理として、QCDSEの5つはよく知られています。Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(工程・工期)・Safety(安全)・Environment(環境)の5つの頭文字から成り、人件費や材料費といった原価を管理する原価管理も重要な位置づけになっていることがわかります。
建設業における工事原価管理の目的
通常、会社法、法人税法、金融商品取引法などの法律によって、税務申告書の提出時には財務諸表の添付が義務づけられています。建設業では先述の法律に加えて建設業法が絡むことになります。
投資家や取引先などのステークホルダーに財政状態を示すために、建設業法では「原価」報告が義務となっており、建設業許可の取得・更新の際、工事原価を材料費・材料費・労務費・外注費・経費にそれぞれ振り分けた完成工事原価報告書を提出しなければなりません(参考:建設業法違反をしないために ~インボイス制度編~)。工事収益の確定方法には工事完成基準と工事進行基準がありますが、いずれの場合においても完成工事原価報告書を作成する必要があります。
もちろん、事業者側にとっても、コストを抑え利益を確保し、適切な事業計画の策定や予算編成につなげるためにも、精緻な原価管理は不可欠です。経営/施工管理の適正化を図るうえでの要といえます。
建設業における工事原価管理の流れ
見積計算した予算原価、あるいは理論的に算出した標準原価(目標となる原価)に対して実際原価をそれぞれ算出し、月次で原価差異を割り出して、どの時点のどの費目でコスト超過が起こったか特定し効率化を図るという流れは、工業簿記と変わりません。※建設業では工事原価管理台帳に記帳することで管理されます。
多くの製造業と違う点として、総合原価計算ではなく個別原価計算を行なうことが挙げられます。「建設工事原価計算基準」の総則においてもその原則が示されています。
建設工事原価計算は、測定対象として選定された各工事別の個別原価計算によって実施される
個別原価計算は、建設業や造船業など、個別受注生産(オーダーメイド)を行なう業種に適した原価計算方法です。個々の工事ごとの原価を計算する方法であるため、工事ごとに発生した費用を把握することができます。直接費と間接費を分けて計算することで、正確な原価管理を行なえるのが個別原価計算の特長です。
建設業の工事原価管理はなぜ難しい?
他業種と異なり、建設業では納品にあたる竣工・引渡しまでの期間が長いという特徴があります。そのため、建設業の経理業務では「建設業会計」という特別な会計基準を用います。
勘定科目も国土交通省の「建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類」の定めに従い使用しなければならず、一般的な簿記と比較してもかなり特殊です。例を挙げると、一般的に使われる「売掛金」は「完成工事未収入金」、「仕掛品」は「未成工事支出金」といったように、建設業ならではの勘定科目になっています(表2)。
そのため、他業種の経理業務経験者であっても、実務のなかで戸惑う場面が多くなる筈です。
一般的な会計 | 建設業会計 | ||
---|---|---|---|
貸借対照表 | 資産 | 売掛金 | 完成工事未収入金 |
仕掛金 | 未成工事支出金 | ||
負債 | 前受金 | 未成工事受入金 | |
買掛金 | 工事未払金 | ||
損益計算書 | 収益 | 売上高 | 完成工事高 |
売上総損益 | 完成工事総損益 | ||
費用 | 売上原価 | 完成工事原価 |
その他、建設業の工事原価管理は、費目別・部門別・工事別と、計算のステップも複雑です。※費目別に把握する形態別原価計算に対して、工事種類別(工種別)に把握する場合、これを工種別原価計算といいます。収益と費用の独特な計算基準による管理(工事進行基準など)への対応も、他業種の経理では馴染みが薄く、対応には熟練を要します。
なぜ、いま工事原価管理を見直すべきか
建設業にとって、公共工事の受注は非常に重要な収益源です。そのため、入札の際、競合より有利な見積額を算出するための事前原価計算は、非常に重要視されてきました。社会情勢がめまぐるしく変わる現代において、原価計算・原価管理の重要性はますます高まるばかりといえます。
建設業は利益率が低い
建設業は労働集約型の個別受注型産業であるため、工業製品の製造のように大量生産による効率化やスケールメリットの追求が難しい業種です。一方で、受注を優先せざるを得ない事情から、採算性が低くなります。
近年、ICTの導入により利益率の改善が目覚ましいとはいえ、業種ごとに売上総利益率を比較した際、やはり他業種より見劣りしがちです(図2)。

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高騰する資材価格
さらに、昨今取り沙汰される問題に資材の高騰があります。ロシア・ウクライナ情勢を受け、国際的に原材料費やエネルギーコストが急騰するなかで、円安の加速も止まる気配をみせず、建設資材の値上がりは過去例がないほど深刻です。
建設資材の総合的な価格動向を示す建設資材物価指数をみればわかるとおり、2021年以降、建築・土木ともに急激な上昇をみせています。今後、下がる材料もなく、よりシビアな原価管理が必要になることはいうまでもありません(参考記事:建設業の最新動向2023 ~倒産数増加をどう食い止めるか~)。

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工事進行基準での収益計算
~資材高騰による見積原価変更の会計処理〜
労務費アップも待ったなし
材料費のみならず、労務費の高騰も建設業にとっては看過できない問題です。新型コロナ禍からの経済回復を背景にした人手不足を受けて、現在、労働市場の実勢価格が大きく高騰しており、同時に、働き方改革の一環として2023年(令和5年)4月から中小企業の割増賃金も大企業を追う形で大幅に引き上げられました。60時間を超える時間外労働に対しては、通常の賃金に50%を乗じた額を割増賃金として支払うというもので、長時間労働が常態化しがちな建設業では負担増を避けられません(参考記事:2023年4月、割増賃金引き上げへ! 事業者が対応すべき3つのポイント)。
そうした時勢を受け、国土交通省は2023年3月から公共工事設計労務単価について大幅な引上げを行いました。全国全職種単純平均で、前年度比5.2%増です。
労務費の高騰は生産年齢人口の減少による構造的な問題でもあるため、今後も加速するでしょう。短期的にみても、長期的にみても、より高い水準の労務費管理が求められることは明らかです。
公共工事設計労務単価とは?
公共工事の積算に用いる労働者の月額労務単価のこと。国土交通省では、毎年、公共工事に従事する労働者の県別賃金を職種ごとに調査し、その調査結果に基づいて公共工事設計労務単価を決定する。2023年時点、5%以上の伸び率はじつに9年ぶり、11年連続の上昇。

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建設業の工事原価管理 実施のメリット
先の表で示したとおり、建設業における工事原価は材料費・労務費・経費・外注費の4つの費目から成ります。工事原価管理を行なうメリットは、以下のとおりです。
- 適正な完成工事原価報告書により、投資家や取引先などのステークホルダーに財政状態の健全さを示せる
- コストを把握し、無駄をなくして利益を確保できる
- 黒字と赤字の境界である損益分岐点を把握できる
上記の通り、工事原価管理を行なうことで、必要以上の稼働や材料購入といった無駄なコストを減らすことが可能になります。また、着工前に利益の額や割合を計算することで、コスト改善の施策を講じやすくなるでしょう。
さらに発展して、内製すべきか外注するかなどの戦術的意思決定や設備投資を行なうか否かの戦略的意思決定についても、原価管理に基づいた正確な経営判断ができるようになります。随時発生するこうした経営上の選択的事項の決定に必要な原価調査は、制度としての原価計算の範囲外として特殊原価調査と呼ばれます。
建設業の工事原価管理 課題
複雑な原価計算方法
建設業の工事費の構成は、工事原価や純工事費、現場管理費、共通仮設費など細分化されており、一見してわかりにくいのが実情です。共通費についても、内容は非常に複雑です。
従業員の担当業務ひとつ取っても、例えば現場管理している担当者の費用は工事原価に含まれますが、営業担当者が動いたときにかかる費用は一般管理費に分類されます。工期が長い建設工事ではそれに比例して稼働管理を何度も行なう必要があり、現場へ行くだけで担当者の労務費や車両費などのコストがかかるため、工事工程表を綿密に作成しなければなりません。

経理担当者の負担が大きい
経理担当者の負担が大きいことも、工事原価管理が難しいとされる要因です。
大抵、原価の情報は現場から経理部門へ届き、経理部門で集約・管理されます。積算ソフトなど現場ごとに適したシステムを導入している企業もありますが、操作自体が難解で、担当者のスキルが追いつかず結局Excel(エクセル)で作った原価管理表に戻してしまったというケースも少なくありません。この場合、経理担当者にとっては、各現場から届いた異なるフォーマットのExcel情報を会計システムに手入力する必要が生じます。二重入力の手間が発生するだけでなく、配賦基準のもと工事間接費を計算して配賦することになり、非常に煩雑です。当然ながら、入力する伝票の数も膨大になります。

工事直接費(現場個別費)/工事間接費(現場共通費)とは?
原価のなかで、どの工事にどれだけかかったかわかるものを工事直接費(現場個別費)、わからないものは工事間接費(現場共通費)という。例として、現場作業員の固定給は工事直接費となり、複数の現場に材料を運搬するトラックのガソリン代などは工事間接費に分類される。
建設業向け原価管理システム/ソフトのご紹介
ここまでご説明したように、建設業会計・工事原価管理は、一般的な会計とは勘定科目や原価の扱いが異なり、計算も複雑です。事務担当者の負担も小さくありません。
ただ、建設業会計に対応した原価管理システム・ソフト登場以降、手軽に精確な原価管理を行なえるようになりました。Excelで独自の原価計算表を作成して活用している事業者さまも少なくないのが現状ですが、そうしたやり方は、どうしても属人的になります。担当者が退職した際などに問題が起こるのを避けられません。また、会計基準や法律が改正された際なども、保守作業が煩雑です。
Excelや無料・フリーのアプリでの対応は、スモールスタートが可能な反面、長期的にみた場合、業務効率化/業務標準化が難しくなります。やはり建設業向けに開発されたERPシステムの導入が最適解となります。
原価管理に最も便利なERP
原価管理システム・ソフトの選定時においては、建設業会計に対応していることはもちろん、複数システムへの二重入力が発生しないよう、複合的な機能を併せ持っているかどうかに着目したいところです。
「複数システムに同じ内容を登録しなければいけないので、手間がかかる」
「建設業独自の商慣習にシステムが対応しておらず不便だ」
「直近の法改正や会計基準に対応していない」
上記のような課題を建設業向けERPシステム PROCES.Sが解決します。統合データベースで基幹業務に必要なデータ・マスタを一元管理するため、二重入力の手間を削減。会計・原価管理・JV管理等、建設業特有の業務や勘定科目、工事進行基準や工事完成基準など、それぞれの収益認識基準での原価計算にも標準で対応しており、カスタマイズの必要がありません。
日々変化する会計基準や法改正にもいち早く対応し、常に成長し続けるパッケージシステムですので、保守・サポートの面でもご安心いただけます。
ERPシステム選定には、すでに導入した事業者のレビュー(口コミ)が大きな参考になります。ユーザーの生の声をチェックすれば、実際の使用感や自社に導入した際のイメージを掴みやすくなるでしょう。
カスタマーレビューからみえてくるPROCES.SのポイントやERP選定のコツをまとめたPDF資料をご用意しました。
工事原価管理の効率化にお悩みの事業者さまは、ぜひこちらもご活用ください!
よくある質問
- Qなぜ建設業では原価管理が重要ですか?
- A工期が長い建設業では、工期中の原価の乱高下の影響が大きく、上昇分については多くの場合、元請であるゼネコン側が被ることになります。元請と下請間でのトラブルになりかねないため、精緻な原価管理は不可欠です。
- Q建設業の原価管理は、Excel(エクセル)でもできますか?
- AExcelは非常に汎用性の高い計算ソフトであり、数式やマクロを駆使すれば、自社オリジナルの原価管理表を作成することが可能です。コストの面でも導入ハードルが低いというメリットがあります。
一方で、そうしたやり方にはデメリットもあります。プログラム知識のある人員がいなければ管理ができず、複数人で使用する場合、人的ミスが発生した場合の損失も大きくなります。他のシステムとの連携の面でも、非効率になることがしばしばです。 - Q現場管理費は工事原価に含まれますか?
- A一般管理費と混同しやすい現場管理費ですが、工事原価に含まれます。現場以外、つまり本社の営業/バックオフィス人員の給与や福利厚生費・広告費などは、一般管理費に分類され、こちらは工事原価には含みません。現場管理費は工事ごとに変動費としてかかる性質のものであるため、工事原価に含まれます。
- Q工事原価率の目安はありますか?
- A 一般財団法人 建設業情報管理センターの「建設業の経営分析(令和3年度)」によれば、建設業の粗利率は25%、つまり工事原価率は75%程度になります。粗利率25%というのはひとつの目安になるでしょう。
- Qクラウド型ERPとオンプレミス型ERP、建設業にとってはどちらがおすすめですか?
- A自社サーバーを持たず、クラウドを介してサービスを利用するクラウド型ERPには、導入/保守コストが圧倒的に低いというメリットがあります。一般的に利益率が低いとされる建設業にとっては、低価格で導入できるクラウド型ERPをおすすめします。また、使用端末を問わないため、テレワークや出張先/現場での使用も可能になります!
- Q建設業における積算と実行予算の違いはなんですか?
- A積算とは、工事の図面などから人件費、材料費、経費、外注費など各費用を予想すること。そこに利益と一般管理費を上乗せして、施工主へ提案する金額が見積もりです。実行予算は、見積もりを基に工事現場で発生する金額を計算したもの。建設業では、製造業のように同じ製品を量産することはありません。そのため、着工の都度、実行予算を算定して原価管理することは、利益確保の観点から非常に重要となります。
- Q施工管理と原価管理の違いは?
- A建設工事現場を管理する施工管理には、工程管理や安全管理とともに工事原価管理が含まれます。施工管理のひとつを構成するのが工事原価管理といえます。
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