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建設産業の現状
建設投資の推移
建設投資は増減を繰り返してきました。今後は、国際情勢や脱炭素化などの課題解決に建設需要が絡み、需要増大創出に向けた動きが活発化すると思われます。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
建設就業者数の推移
2022年の建設業就業者数は、1997年のピーク時から約70%減、うち建設技能者は66%減まで落ち込みました。
時間外労働の上限規制の概要(2)改正前と改正後の比較
改正前、労働時間の上限は特に設けられておらず、月45時間、年360時間の労働時間は大臣告示による運用とされており、違反したとしても特に罰則適用はなく、行政指導のみでした。
法律改正後は時間外労働の上限が明文化され、建設業においても2024年4月以降は、違反した場合は罰則が適用されます。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
若年層と高齢層の推移
建設業就業者の高齢化は、他産業より加速・進展しています。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
就労状況の推移
2012年以降、建設業の入職者数は離職者数を上回っていましたが、2022年は再び逆転し、転職率も10%超となりました。近年は、他業種への転職意識が強まっています。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
採用活動の現状
主要ゼネコン35社への人材採用アンケートから、今春は採用増の方針を継続しつつも、苦戦している様子がうかがえます。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
建設業のリクルート戦略
採用活動が苦戦する中、俳優を起用したドラマ仕立てのテレビCMやアニメキャラクター活用、スポンサー契約などでリクルート戦略を強化する動きが強まっています。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
人材の確保育成
日本建設業連合会(日建連)の調査では、現場技術者の離職理由は「転勤・異動」が最多。若者を中心に働き方の価値観が変化しており、ジョブローテーションや配置転換などこれまでの働き方の見直しが急務となっています。
技能者の割合は急激に低下しています。2025年問題により現場の下支え層がリタイアし、労働力低下や技能承継への影響が懸念されています。
トンネル切羽の作業員は、40歳以上が7割超を占めます。人口減少や高齢層の引退により、今後も大幅に減少する見通しです。
2023年に転職サービスを介し施工管理に転職した人数は、7年前から大幅に増加しました。近年は、異業種からの転職者が全体の半分を占めています。工業高校出身者や理系人材が集まりにくく、中小企業や地方企業では未経験者の転職を受け入れる傾向が強まっています。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
労働時間の推移
建設業の労働時間は他産業より長い傾向にあり、2022年は調査産業計の平均に比べ、約270時間も長くなっています。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
休暇取得状況の推移
建設業の年間出勤日数は減少傾向にありますが、調査産業計の平均より29日、製造業より14日多くなっています。業界全体で建設現場の土日閉所に取り組んでいますが、道半ばの状況です。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
働き方改革
建設業界にも4月から「時間外労働の罰則付き上限規制」が適用されましたが、現場技術者の規制順守には困難があります。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
建設業の年間出勤日数は他産業より多く、技術者・技能者ともに4週8休(週休2日)が確保できない場合が多いです。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
日建連会員アンケートから、各社で時間外労働の上限規制順守に向けて取り組むも、自助努力だけでは解決できない状況が見てとれます。業界全体、受・発注者全体で取り組むことが不可欠です。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
土日一斉閉所に向け、建設業4団体が初の全国運動を展開し、一致団結して取り組んでいます。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
国土交通省は、直轄土木の週休2日推進に向けた取り組みを強化しています。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
直轄土木では通期の週休2日が一般化したことから、2024年度の発注方針は、休暇の「質の向上」に転換しました。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
課題解決を目指しモデル事業を展開することで、普及や水平展開を図る方針です。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
処遇改善
設計労務単価は12年連続上昇していますが、「技能者は賃金の伸びが実感できていない」ことが指摘されています。建設業全体の年収額には小規模事業者や一人親方など多くの技能者の賃金実態が反映されておらず、さらに数十万円低い水準となるようです。
コンクリートや鉄筋などの資材が高騰し、高止まりしています。資材高騰の影響による労務費へのしわ寄せが懸念されています。
処遇改善の一環として、建設業界全体で「建設キャリアアップシステム(CCUS)」に取り組んでいます。登録数に比べ就業履歴登録数は低く、履歴蓄積環境の未整備や蓄積・評価のメリットが感じられないことが指摘されています。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
建設業行政の動向
第3次担い手3法
建設業の課題解決に向け、「担い手3法」改正の必要性が高まりました。担い手3法とは、「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」「建設業法」「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入契法)」の3つを指します。
本年6月7日に政府提出の改正建設業法・入契法が、6月12日に議員立法として提出された品確法等の改正が可決され、「第3次担い手3法」が成立しました。
担い手3法の変遷(第1次・2014年)
第1次担い手3法は2014年に成立しました。5年ごとの見直し規定があります。
担い手3法の変遷(第2次・2019年)
2019年に第2次担い手3法、いわゆる「新・担い手3法」が成立しました。下請業者の環境改善に重きを置いています。
担い手3法の変遷(第3次・2024年)
第3次担い手3法は、「担い手確保」「生産性向上」「地域における対応力強化」が主な目的です。
第3次担い手3法改正(処遇改善)
労働者の処遇確保を建設業者に努力義務化しました。国は建設業者の取り組み状況を調査・公表し、中央建設業審議会(中建審)に報告します。この流れをPDCAで回すことで、建築業者への実効性を強めていきます。
中建審が「労務費の基準」を作成・勧告し、それに基づき著しく低い労務費等による見積もり提出・変更依頼を禁止しました。違反して契約した発注者には、国土交通大臣が勧告・公表するなど、罰則規定も強めています。
現行で発注者に禁止されている「総価での原価割れ契約」を、受注者にも禁止し、強制力を強めています。これは、労務費の圧縮を伴う価格ダンピングに歯止めを掛けるためです。
今回の改正により、これまで建設業法に欠けていた部分を補完し、新たな規制の枠組みを追加しています。
労務費の見積もり規制は、公共/民間を問わず、取引関係者全体に係る規制となります。
受注者にも禁止する総価での原価割れ契約は、労務費や材料費の内訳額で廉売行為が認められなくても、他の経費を削るなどして、トータルの請負額が著しく低い場合に適用することも想定しています。今後は原価算定に標準労務費が組み込まれ、判断基準がより精緻になるため、実効性が高まると見られています。
標準労務費の作成に向けた動きが今、本格化しています。
中建審に「労務費の基準に関するワーキンググループ」が設置され、9月10日の初会合で、基本方針(資料左の要旨)が合意されました。国交省は「新しい商習慣が根付き、現場で働く人の処遇が改善する良い環境を作りたい」と呼びかけました。専門工事業団体からは、検討を進めながらブラッシュアップし処遇改善を進めていく考えが強調されました。民間発注者に近い委員からは、「末端の作業員の賃金まで発注者が確認するのは難しい」との実情が示されました。
取り組みの一環として、本年度から、技能者への適切な賃金支払状況を確認する方法や結果の公表の在り方なども検討し、試行的に実施されています。
国交省は、「著しく低い労務費」の具体的な数値は対外的に明示せず、判断の目安として「警告事例集」を作成し、周知するとしています。一般的なガイドラインよりも具体性を持たせ、不適切な行為を予見可能とする考えです。厳格な取り締まりが現場の混乱に発展しないよう、事例集は柔軟に運用される方向です。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
建設業の休日数
産業全体の年間労働日数は約211日ですが、建設業では240日となっています。全産業対比で約28日も労働日数が多くなっています。休日数の実態を見ると、完全週休二日制に近い4週8閉所の事業所は36%強ですが、週休1日の事業所は27.4%、それ以下の事業所が6.4%もあります。このような働き方では時間外労働の上限規制を守ることは厳しいのではないかと思われます。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
建設業の時間外労働の現状
建設業における時間外労働時間の実態を見ると、全体平均では6割超の人が45時間以内で働いていますが、1割強の人が80時間を超えております。これが続いた場合、また、45~60時間の14.9%、60~80時間の13.5%の人も45時間を超えることが常態化した場合、上限規制に触れることになります。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
長時間労働の要因分析
労働時間は、現場作業時間と事務作業などの付随業務時間に分けられます。この2つを足したものを労働者数で割ることで1人当たりの労働時間が算出されます。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
長時間労働の要因(1)現場作業時間
現場作業が長時間になってしまう要因としては、無理な工期設定が挙げられます。工期延長により損害金が発生することがあるため工期を遵守せざるを得ず、時間外労働や休日出勤の増加につながるという実態があります。無理な工期の契約をしないことや工期の後ろ倒しの相談などが必要になるかもしれません。
2020年10月に建設業法が改正され、無理な工期設定、つまり著しく短い工期の禁止が明文化されました。時間外労働の上限規制に抵触するかどうかが「著しく短い工期」の判断材料の1つになると思います。元請事業者は著しく短い工期を設定しないことが必要になるため、下請企業の時間外労働状況の把握が求められるのではないかと思われます。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
長時間労働の要因(2)付随業務時間
付随業務のうち長時間労働の要因となっているものに移動時間と紙業務があります。会社の命令により一度会社へ集合し現場に向かう場合は、その移動時間が労働時間とみなされるため、現場への直行・直帰が労働時間の削減となります。また建設業には元請企業への報告などの事務作業が多いという印象があり、この紙業務の効率化が労働時間の削減のための需要なポイントだと思います。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
長時間労働の要因(3)人材不足
建設業では若年層や外国人労働者の離職率が高い傾向にあります。その結果1人当たりの労働時間が増えることになるため、離職率の低減が求められます。また作業のきつさや安全性への不安など建設業に対するネガティブイメージがあり、入職率が低くなっていると思われます。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
企業が考える若年技能労働者が定着しない理由として、「作業がきつい」「職業意識が低い」「人間関係が難しい」「賃金が安さ」「休みが取りづらい」などが挙げられています。一方、実際に離職をした労働者が辞めた理由としては「雇用が不安定」「遠方の作業場が多い」などがあり、企業側の認識と大きなギャップがあります。その他離職者側に挙げられている「休みが取りづらい」「労働に対して賃金が安い」「作業に危険が伴う」という理由は企業側の認識にも上位に位置しています。
休みの取りづらさや安い賃金に関しては、長時間労働対策によって改善できる可能性がありますし、作業場が遠方であることの不満に対しては移動手段の効率化などの対策が有効ではないかと思います。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
建設業の抱える課題
労働者の離職防止のためには、労働時間の削減や休日数の増加などの労働環境の整備・改善が必要です。雇用の不安定という課題に対してはキャリアパスを明瞭化していくことが求められます。
入職率を上げるためにはWebサイトからの情報発信やSNSを用いて現場の作業員の状況や雰囲気などを伝えていくことも有効でしょう。また高校や大学へ積極的な相談や連携を行うことも必要になります。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
建設業における長時間労働対策
建設業における長時間労働の要因
長時間労働の要因としては、現場作業、付随作業、労働者数が挙げられます。そのうち自社のみで対応可能なものは、移動時間の効率化、紙業務の削減、離職率の低下です。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
付随業務の長時間化に係るブレークダウン
前述の通り、出社後に現場へ移動する場合、移動時間が労働時間になるケースが多くなります。多くの場合、タイムカードを押したり、日報などの書類作成業務を行ったりするために、出社が必要となっています。これを解決するためには、紙作業をITツールに置き換えることが有効です。タイムカードや日報の電子化により、事務所との往復が不要になり労働時間が短縮できるわけです。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
ITを用いた長時間労働対策
まず、紙を使用する報告書業務の電子化が考えられます。専用のシステムを使用することで、書類の一括管理、入力の無駄の削減、入力ミスのチェックの効率化などができます。これによって移動時間の短縮、ひいては労働時間の短縮が可能となり、離職率の低下につなげることができます。
求められるITツールの要件としては、ネット上で完結し、リアルタイムに情報更新ができること、現在使用中の報告書等の項目が網羅できていること、共有漏れを防止するために必須項目を設けることなどが挙げられます。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
建設業における長時間労働対策
紙作業のために出社が必要な場合の一日の流れです。7時に出社、現場に移動し現場作業の後、事務作業のために会社に戻り19時に退社した場合、実働11時間で3時間の時間外労働時間が発生します。出勤日数を月20日とした場合、60時間の時間外労働が見込まれ、上限規制の45時間を超えることになります。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
紙業務をITツールに置き換えた場合を確認します。現場に直行し、8時にスマートフォンなどから勤怠システムを使用して打刻をし、現場作業の後、18時にWEBアプリで報告などの事務作業を終え帰宅します。この場合直行・直帰の時間は労働時間に含まれないため、労働時間は8時から18時で実働9時間となり、時間外労働時間は1時間となります。月の時間外労働時間は20時間となり、上限規制はクリアすることになります。
紙業務のIT化によるメリットとしては、労働時間の短縮、紙の管理コストの削減、先進的な取り組みのアピールにより求職者の増加などが見込まれます。
一方デメリットとしては、ITツールの利用料がかかることがあります。しかしこれは交通費や割増賃金との相殺が可能です。またITツールの操作学習のための時間が必要です。学習期間を長引かせないためにも、経営陣が主導し、現場の作業員に対してトップダウンで学習推進をしていく必要があります。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
総括
2024年問題が間近に迫り残業時間の短縮が急務となっています。また2024年問題の影響により、更なる人材不足が懸念され、その背景には紙を用いた業務や出社を必要とするがゆえの移動時間など、非効率な業務の影響があります。
今後求められる対応としては、まず2024年4月1日から新たな36協定書の提出が必要です。それと並行して労働時間を適切に管理し、労働時間の削減、休日数の確保が必要になります。紙を用いた業務や移動時間などの無駄なくし、労働時間を削減するためにIT活用が必要不可欠になると思います。時間外労働時間については、今後も注視されるポイントとなることから、迅速に対応を進めることが重要です。
出典:「建設業の2024年問題と長時間労働対策」セミナー資料より
日刊建設工業新聞社
取締役待遇編集局長
遠藤 奨吾 氏
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