2024年6月7日に政府提出の改正建設業法・入契法が、6月12日に議員立法として提出された品確法等の改正が可決され、「第3次担い手3法」が成立しました。就労状況や労働者の処遇改善など建設業の課題解決に向けた内容になっています。
改正法の主眼となる「担い手確保」「生産性向上」「地域における対応力強化」の3つのポイント、施行までのスケジュールから事業者の対応まで、日刊建設工業新聞社 取締役待遇編集局長、遠藤 奨吾 氏に解説いただきます。
建設産業の現状
建設投資の推移
建設投資は増減を繰り返してきました。今後は、防衛関係や脱炭素化などの課題解決に建設需要が絡み、建設投資はしばらく堅調に推移すると思われます。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
建設就業者数の推移
2022年の建設業就業者数は、1997年のピーク時の約70%、うち建設技能者は66%まで落ち込みました。
建設業就業者の高齢化は、他産業より加速・進展しています。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
就労状況の推移
2012年以降、建設業の入職者数は離職者数を上回っていましたが、2022年は再び逆転し、転職率も10%超となりました。近年は、他業種への転職意識が強まっています。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
採用活動の現状
主要ゼネコン35社への人材採用アンケートから、今春は採用増の方針を継続しつつも、苦戦している様子がうかがえます。
採用活動が苦戦する中、俳優を起用したドラマ仕立てのテレビCMやアニメキャラクター活用、スポンサー契約などでリクルート戦略を強化する動きが強まっています。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
人材の確保育成
日本建設業連合会(日建連)の調査では、現場技術者の離職理由は「転勤・異動」が最多。若者を中心に働き方の価値観が変化しており、ジョブローテーションや配置転換などこれまでの働き方の見直しが急務となっています。
技能者の割合は急激に低下しています。2025年問題により現場の下支え層がリタイアし、労働力低下や技能承継への影響が懸念されています。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
トンネル切羽の作業員は、40歳以上が7割超を占めます。人口減少や高齢層の引退により、今後も大幅に減少する見通しです。
2023年に転職サービスを介し施工管理に転職した人数は、7年前から大幅に増加しました。近年は、異業種からの転職者が全体の半分を占めています。工業高校出身者や理系人材が集まりにくく、中小企業や地方企業では未経験者の転職を受け入れる傾向が強まっています。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
労働時間・休暇取得状況の推移
建設業の労働時間は他産業より長い傾向にあり、2022年は調査産業計の平均に比べ、約270時間も長くなっています。
建設業の年間出勤日数は減少傾向にありますが、調査産業計の平均より29日、製造業より14日多くなっています。業界全体で建設現場の土日閉所に取り組んでいますが、道半ばの状況です。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
働き方改革
建設業界にも4月から「時間外労働の罰則付き上限規制」が適用されましたが、現場技術者の規制順守には困難があります。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
建設業の年間出勤日数は他産業より多く、技術者・技能者ともに4週8休(週休2日)が確保できないケースが目立ちます。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
日建連会員アンケートから、各社で時間外労働の上限規制順守に向けて取り組むも、自助努力だけでは解決できない状況が見てとれます。業界全体、受・発注者全体で取り組むことが不可欠です。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
土日一斉閉所に向け、建設業4団体が初の全国運動を展開し、一致団結して取り組んでいます。
国土交通省は、直轄土木の週休2日推進に向けた取り組みを強化しています。
直轄土木では通期の週休2日が一般化したことから、2024年度の発注方針は、休暇の「質の向上」に転換しました。
課題解決を目指し民間工事を含めたモデル事業を展開することで、普及や水平展開を図る方針です。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
処遇改善
設計労務単価は12年連続上昇していますが、「技能者は賃金の伸びが実感できていない」ことが指摘されています。建設業全体の年収額には小規模事業者や一人親方など多くの技能者の賃金実態が反映されておらず、さらに数十万円低い水準となるようです。
コンクリートや鉄筋などの資材が高騰し、高止まりしています。資材高騰の影響による労務費へのしわ寄せが懸念されています。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
処遇改善の一環として、建設業界全体で「建設キャリアアップシステム(CCUS)」に取り組んでいます。登録数に比べ就業履歴登録数は低く、履歴蓄積環境の未整備や蓄積・評価のメリットが感じられないことが指摘されています。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
建設業行政の動向
第3次担い手3法
建設業の課題解決に向け、「担い手3法」改正の必要性が高まりました。担い手3法とは、「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」「建設業法」「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入契法)」の3つを指します。
2024年6月7日に政府提出の改正建設業法・入契法が、6月12日に議員立法として提出された品確法等の改正が可決され、「第3次担い手3法」が成立しました。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
担い手3法の変遷
第1次担い手3法は2014年に成立しました。5年ごとの見直し規定があります。
2019年に第2次担い手3法、いわゆる「新・担い手3法」が成立しました。下請業者の環境改善に重きを置いています。
第3次担い手3法は、「担い手確保」「生産性向上」「地域における対応力強化」が主な目的です。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
第3次担い手3法改正(処遇改善)
労働者の処遇確保を建設業者に努力義務化しました。国は建設業者の取り組み状況を調査・公表し、中央建設業審議会(中建審)に報告します。この流れをPDCAで回すことで、建築業者への実効性を強めていきます。
中建審が「労務費の基準」を作成・勧告し、それに基づき著しく低い労務費等による見積もり提出・変更依頼を禁止しました。違反して契約した発注者には、国土交通大臣が勧告・公表するなど、罰則規定も強めています。
現行で発注者に禁止されている「総価での原価割れ契約」を、受注者にも禁止し、強制力を強めています。これは、労務費の圧縮を伴う価格ダンピングに歯止めを掛けるためです。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
今回の改正により、これまで建設業法に欠けていた部分を補完し、新たな規制の枠組みを追加しています。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
労務費の見積もり規制は、公共/民間を問わず、取引関係者全体に係る規制となります。
契約前に各プロセスをルールで縛ることで、受注者に工事種別ごとの労務費や材料費を内訳明示した材料費等記載見積書を作成する努力義務も課されます。一方、注文者はこの見積書の内容を考慮する努力義務が生じます。こうした過程により、労務費等も受注者による廉売行為や、注文者による買いたたき行為を禁じます。法定福利費なども見積書に内訳明示する事項と定め、見積もり段階で規制対象としています。
受注者にも禁止する総価での原価割れ契約は、労務費や材料費の内訳額で廉売行為が認められなくても、他の経費を削るなどして、トータルの請負額が著しく低い場合に適用することも想定しています。今後は原価算定に標準労務費が組み込まれ、判断基準がより精緻になるため、実効性が高まると見られています。
標準労務費の作成に向けた動きが今、本格化しています。
中建審に「労務費の基準に関するワーキンググループ」が設置され、2024年9月10日の初会合で、基本方針が合意されました。国交省は「新しい商習慣が根付き、現場で働く人の処遇が改善する良い環境を作りたい」と呼びかけました。専門工事業団体からは、検討を進めながらブラッシュアップし処遇改善を進めていく考えが強調されました。民間発注者に近い委員からは、「末端の作業員の賃金まで発注者が確認するのは難しい」との実情が示されました。
取り組みの一環として、本年度から、技能者への適切な賃金支払状況を確認する方法や結果の公表の在り方なども検討し、試行的に実施されています。
国交省は、「著しく低い労務費」の具体的な数値は対外的に明示せず、判断の目安として「警告事例集」を作成し、周知するとしています。一般的なガイドラインよりも具体性を持たせ、不適切な行為を予見可能とする考えです。厳格な取り締まりが現場の混乱に発展しないよう、事例集は柔軟に運用される方向です。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
<しわ寄せ防止
改正法では、資材高騰に伴う請負代金等の「変更方法」を契約書の法定記載事項として定めることとしています。これまでのルールは解釈に曖昧さがあり、民間工事で契約変更条項を設けないケースは6割近くあるといわれています。今回の義務化で、資材高騰分の転嫁協議が円滑化され、労務費へのしわ寄せ防止が期待されています。
受注者による資材高騰の「おそれ情報」の事前通知を義務化しました。注文者はリスク発生時の契約変更協議の申し出に誠実に応じる努力義務が課され、申し出された協議の門前払いや、申し出を理由に不利益に扱う行為が禁止されます。この規定は12月までに施行されます。国交省は、運用上の留意点をガイドラインにまとめる方針です。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
働き方改革・生産性向上
第3次担い手3法では、働き方改革や生産性向上についても明示されています。
これまで発注者に禁止されていた工期ダンピングを、受注者にも禁止します。また、「工期変更の協議円滑化」によりダンピング対策を強化する方向です。これらの取り組みを働き方改革へつなげる考えです。
ICT活用により現場専任技術者の兼任を可能とする仕組みを新たに創設しました。また、一定規模以上の元請業者に、ICTを活用した効率的な現場管理を努力義務化しました。国が作成した指針では、施工管理システムなどのソフト機器と省力化につながるハード機器の両方を網羅する他、ASP(情報共有システム)による元下間のデータ共有や、現場とバックオフィスの連携の円滑化、ウエアラブルカメラを用いた遠隔臨場などの具体事例を示し、活用を促しています。これらの取り組みにより、生産性向上を推進します。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
品確法関連
改正品確法では、「担い手確保のための働き方改革・処遇改善」「地域建設業の維持に向けた環境整備」「新技術の活用等による生産性向上」などが明記され、実効性をさらに高めています。また、「公共工事の発注体制の強化」のため、発注者への支援充実や、入札契約の適正化に係る実効確保などの取り組みが行われます。
担い手確保の観点から、測量士等の確保や、測量業の登録に係る暴力団排除規定など、測量法の一部改正も今回の改正に盛り込まれています。
国交省は法改正により、2029年度までに全産業を上回る賃金上昇率の達成と、技能者と技術者の週休2日を原則100%達成することを目指しています。無理な価格や工期を強いられてきた受注者や下請業者にとり、発注者や元請業者との交渉の場で、法令順守を盾に、正当な主張が可能となることが期待されています。
日建連など元請団体幹部は、第3次担い手3法の成立を元請会社として評価する一方で、協力会社に対して発注者の立場になるため、協力会社の要望にどう応えるかが大きな問題になると認識しています。
施行スケジュール
改正法による措置は、資料のグラフに示したとおり、段階的に施行されます。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
実行体制の強化
第3次担い手3法の実行体制を高めるため、「建設Gメン」の実地調査が積極的に展開されます。本年度の建設Gメン体制は、前年度のほぼ倍となる135人に増強されました。不適当な取引行為に対して改善指導を徹底し、取引の適正化を目指します。
生産性向上の取り組み
生産性向上の取り組みとして、国交省を中心に「i-Construction」が進められてきました。建設生産システムのプロセス全体を3Dデータでつなぎ、新技術を社会実装する取り組みです。
ICT施工の普及に向け、無人化・自動化対応の建設機械やドローン、3D測量などのツールが開発され、導入が進んでいます。また、BIM/CIM(Building / Construction Information Modeling, Management)など、3Dモデルを川上段階から使える取り組みも注力されています。
国交省は、2023年度から直轄土木工事で原則化したBIM/CIM適用フォローアップ結果を公表しました。導入効果が実感されている一方、「モデル作成に手間がかかる」などの課題が挙げられています。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
国交省はこの春から「i-Construction 2.0」を始動しました。省人化対策を前面にし、施工/データ連携/施工管理の3分野で自動化を促進します。
2040年度までに建設現場で「少なくとも省人化3割」「生産性を1.5倍に向上」を達成し、多様な人材が活躍でき、未来へ前向きな新3K(給与、休暇、希望)の実現を目指します。さらに、新3Kに「かっこいい」を加えた、新4Kの実現に向けた取り組みが加速される予定です。
国交省インフラ分野DX推進本部では、分野網羅的に取り組むことで、インフラ分野全般のDXを推進する方針です。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
まとめ:持続可能な建設業の取り組み
第3次担い手3法では、持続可能な建設業の実現が大きな目標になっています。それぞれの取り組みが相互に影響し合い、スパイラルアップし、新4Kの実現に向け、業界全体で取り組みが加速される見通しです。ぜひ今後の動向にも注目してください。
出典:「建設産業の現状と展望 ―第3次担い手3法で変わる未来像―」セミナー資料より
日刊建設工業新聞社
取締役待遇編集局長
遠藤 奨吾 氏
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