1.はじめに
今回は2022年4月で運用開始から3年が経過する建設キャリアアップシステム(以下、CCUS)の最新動向を取り上げたいと思います。技能者の就業履歴や保有資格などを業界統一のシステムで一元管理することにより、技能者の処遇改善や技能研鑽、工事の品質向上、現場作業の効率化を図ってきた同制度ですが、2022年度1月末時点で技能登録者数は811,462人となっており、当初の計画を大きく下回っています。
このコラムでは、国や業界が一丸となって制度の理解・普及に向けて行っている取組みについてご紹介していきたいと思います。
2.CCUSの現状
2019年の運用開始時には、324万人といわれる建設技能労働者全員に対し、5年後までにCCUS発行のカードを普及させるとの目標が立てられていましたが、前述の通り2022年1月末時点で81万人、普及率にして約25%と非常に厳しい状況になっています。
当初の「初年度で100万人、5年後に全就労者」という目標に対して利用者が少ないことは、普及率の問題のみならず、システムの利用料収入の面でも大きな課題となっています。国が行った各建設業界団体に対する追加拠出の求め等からも、厳しい運営状況となっていることが分かります。これ以上の追加拠出は難しく、このまま利用者が伸び悩めば制度の存続が危ぶまれるため、国と業界団体とが一丸となって制度普及に努めているところです。
次項以降で、現在進められている取り組みについてまとめていきます。
3.CCUS認定アドバイザー制度
最初にご紹介するのはCCUS認定アドバイザー制度についてです。
CCUS認定アドバイザーとは、CCUSの登録・現場運用等に係る専門的知識を修得し、CCUSの利用者に対する適切な指導及び助言等を行うことができ得ると建設業振興基金により認められた総合アドバイザーです。2021年4月より運用が開始され、2022年度末までに300人以上の育成を目指しています。
建設業振興基金が実施する講義と課題を完了させ、修了考査で75点/100点を取得すると、CCUS認定アドバイザーとして認められます。
認定を受けると、技能者登録や事業者登録、現場登録などを支援できます。建設業界に従事する方はもちろん、行政書士の方も多く認定を受けています。建設業振興基金のホームページでCCUS認定アドバイザーの名簿が掲載されており、指導や助言を求めることができます。
4.建退共の電子申請義務化
建退共とは建設業退職金共済の略で、共済契約者となった事業主が被共済者である労働者の働いた日数に応じて掛金を納付することにより、その労働者が建設業界の中で働くことをやめたときに、共済から退職金が支払われるというものです。
これまでは共済契約者である事業主が掛け金を納付するにあたり証紙貼付方式が採用されていましたが、2021年3月より電子申請方式の受付が開始されました。
電子申請の流れを簡単に説明すると以下のようになります。
- ①CCUSの就業履歴情報を下請業者がCCUSと連携している就労実績ツールで読み込む
- ②そのデータをメール等で元請業者に提出する
- ③元請業者は就労実績報告書を作成し、建退共に電子申請する
CCUSでは現場にカードリーダーを設置し、それにタッチすることで就業履歴を蓄積していることを想定していますが、実際には小さい工事現場ではカードリーダーを設置することが難しい場合もあります。そのような現場においては、電子申請で建退共に就業履歴を登録することで、逆にCCUSの就業履歴として蓄積することも可能になります。
建退共の電子申請とCCUSは共に制度を普及していくことでメリットを増大させることが期待されており、2023年度より建退共では電子申請に完全移行となる予定です。
5.建設人材育成優良企業(国土交通大臣賞)の募集
2021年9月に「CCUS活用をはじめ人材育成に取り組む企業顕彰制度」の創設が発表されました。国土交通省と建設産業人材確保・育成推進協議会では、建設産業の担い手の確保及び育成に向けた取組みの推進を図るべく、CCUSをはじめとして、技能や経験に応じた給与の引き上げや、キャリアパスに基づいた計画的な人材育成、これらを可能にするための環境整備など、「建設産業の担い手の確保・育成」に向けて、顕著な功績を挙げている企業等を「建設人材育成優良企業」として表彰するという制度です。
取組み内容として以下の8つが挙げられています。
- ①CCUSの就業履歴情報を下請業者がCCUSと連携している就労実績ツールで読み込む
- ②CCUSの活用
- ③若年者入職促進
- ④適正な下請け代金による請負契約締結促進
- ⑤キャリアパスに基づいた人材育成
- ⑥処遇の改善
- ⑦女性定着促進
- ⑧その他担い手育成に貢献した取組み等(①~⑦以外で)
ご覧の通り、必ずしもCCUSの活用事例が求められているわけではありませんが、応募企業の要件としてCCUSの事業者登録を行っている必要があります。
応募締め切りは2022年5月9日、表彰式は同年7月に予定されています。
6.おわりに
建設業は、技能者がさまざまな現場を渡り歩いてキャリアを形成していくという特殊な業界であり、資格を除いて経験や技能の証明について業界共通の手段がありませんでした。その為、建設業界全体の待遇改善やキャリアプランの見える化を行うことで、減少が続く担い手の維持・増加を目指すことがCCUSの大きな目的となっています。
反面、これまでなかったシステムの業界全体での導入となることから費用がかさんだためか、CCUS実施2年目の2020年10月に利用料の値上げが行われました。この利用料が壁となって新規登録が鈍化した感が否めません。
現在の所、成果より課題が目につきやすい状況でしょうし、成果やメリットの実感が僅かな状況では、いたずらにコストがかかるばかりに思われるでしょう。
しかしながら、2023年度には少なくとも公共工事においてCCUSを原則化する議論も進んでいる点から見て、今後建設業において大きな論点であり続けることは間違いありません。国としても今後更に普及策などを検討すると思われますので、いつ登録するかの議論は別として、是非目を離さずに追っていくことをお勧めします。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
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