建設・インフラ分野のDX最前線

 将来的に労働人口の減少が見込まれる中で、より少ない人数で、より良い品質の都市や社会基盤を整備・維持することが、建設産業に求められています。2024年4月から建設業にも時間外労働の罰則付き上限規制が適用されるなど、生産性向上は不可欠です。

 国土交通省による建設・インフラ分野への対応やBIM/CIMの展開、自動化・省人化技術、ロボティクス、スマートシティーを見据えた動き、分野横断的な連携など、日刊建設工業新聞の報道を踏まえつつ最新動向を解説します。

DXが求められる背景

建設投資の動向

 現在、建設需要は概ね堅調に推移していますが、建設生産を支える体制に課題があります。具体的なデータを踏まえて、DXが求められる背景について見ていきます。

 建設投資の動向です。2021年度の日本における建設投資は、政府が24.5兆円、民間が38.1兆円で、全体で62.7兆円となっています。中長期的には人口減少による減少基調に入り、建設投資の比重が新設から維持更新に移るでしょう。

建設投資の動向

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

2022年度 政府予算の動向、⺠間投資の動向

 政府予算の動向です。2022年度の公共事業関係費は全体で6兆575億円となっています。防災・減災、国土強靱化に重点配分されており、カーボンニュートラルやDXなども重要なテーマになっています。一方、民間の大型開発は堅調という印象を持っています。

2022年度政府予算の動向

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

⾃然災害・インフラ⽼朽化

 自然災害とインフラの老朽化があります。東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨などの自然災害、今年3月の福島県沖地震による東北新幹線の被害など、インフラに打撃を受けています。また、懸念される巨大地震への緊急事態の対応や、インフラ老朽化への対応も求められるでしょう。

⾃然災害・インフラ⽼朽化

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

多様化する社会、加速する変化、労働⼒の変化

 新型コロナによるニューノーマルな暮らしを支えるインフラが必要になってきます。しかし、建設産業の就業者は減少傾向にあります。人数の減少も深刻ですが、労働力の高齢化も進展しています。このような状況で、いかに若い方を建設産業に迎え入れていくかが大きな問題となっています。

多様化する社会、加速する変化

労働⼒の変化

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

迫られる働き方改革

 もう一つ重要なことが働き方改革です。2024年4月から建設業も規制の対象になり、時間外労働の罰則付き上限規制が適用されます。需要が堅調、かつ労働力が減少する現状において、DXによる生産性向上と働き方改革が求められています。

国の動き

政府・国⼟交通省による対応、BIM/CIM

 国はDXに対して本腰を入れて取り組み、方向性が見えて、推進の段階に入ってきたのではないかと思います。2000年代後半から建築でビルディング・インフォメーション・モデリング(以降、BIM)が、2010年代から土木でコンストラクション・インフォメーション・モデリング(以降、CIM)が広がりました。その後、2016年にi-Constructionが始まり、建設現場の生産性を2025年までに20%高めるという目標が掲げられました。DXの取り組みが広がっていくにつれ、さまざまな基準や取り組みについて検討を深度化していく必要が出て、BIM/CIM推進委員会や建築BIM推進会議などが設置され議論が進みました。

政府・国⼟交通省による対応

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

 BIM/CIMは国土交通省の大規模工事では原則化されました。BIM/CIMを使用することにより、成果物がデジタル化するため、作成要領を改訂するなどの動きも進んでいます。

BIM/CIM

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

インフラDXの全体像、アクションプランの方向性

 国土交通省が2020年3月に「インフラ分野のDXアクションプラン」を策定しました。53の施策で目指す将来像、2025年度までの工程や利用者目線で実現できることなどを提示しています。そして、2022年はDXによる変革への「挑戦の年」と位置付けられています。

 アクションプランの大きな狙いはi-Constructionの拡大です。業界内外が連携し、インフラサービス全体を高めていきます。そして、業務や組織、プロセス、文化、風土、働き方の変革を目指します。

アクションプランの方向性

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

アクションプランの全体像

 アクションプランの三つの柱は、「行政手続きのデジタル化」「情報の高度化とその活用」「現場作業の遠隔化、自動化、自律化」です。そして、データをいかに収集して、提供し、そのデータをつなぎ合わせて、蓄積するかのデジタルの部分が重要であると説明されています。

アクションプランの全体像

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

アクションプラン 防災・減災、データ基盤

 防災・減災の分野では、水害等のリスク情報を分かりやすく表示する取り組みが進んでいます。また、河川の浸水範囲の画像などを自動解析し、デジタル技術によって情報を集約することによって、災害対応を高度化する動きもあります。

 データ基盤については、道路データプラットフォーム「xROAD(クロスロード)」やDXデータセンターを構築する取り組みも進んでいます。

アクションプラン 都市・建築、施工自動化

 3D都市モデルの整備・活用、オープンデータ化を推進する「Project PLATEAU」という取り組みがあります。国際規格に基づいた3Dモデルの標準仕様を策定し、多様なデータと連携しながら、オープンイノベーションを導き出そうという流れです。また、国土交通省の官庁営繕事業でもBIM活用が進んでいます。

 建設施工における自動化、自律化の促進、飛躍的な省人化や生産性向上に向けて、安全の標準ルールや技術指針等の整備も進んでいます。さらに、施工の面では、5G、高速の通信網を使って無人化施工による災害復旧の迅速化が推進されています。

アクションプラン 施工自動化

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

アクションプラン AI・ロボット・人間拡張技術

 AI・ロボットなどの革新的技術の導入も進んでいます。例えばドローンで橋梁のコンクリート状況を撮影し、撮影したデータをAIで評価する「AI開発支援プラットフォーム」を設置しようという話が出ています。また、パワーアシストスーツ等により人間の能力を拡張する技術を導入することによって、体の負荷をできるだけ少なくしながら重たい物を運ぶなど、苦渋・危険作業から解放していくという流れもあります。

アクションプラン AI・ロボット・人間拡張技術

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

民間企業の動き

日本建設業連合会、DX戦略

 国のDXアクションプランを受けて、民間企業でもさまざまな動きが出ています。民間における大きな動きとして、日本建設業連合会(日建連)による生産性向上の目標の設定があります。今年1月には、会員企業のDXの技術・ノウハウを項目別に紹介する「建設DX事例集」が出されました。

 建設関係の年頭の訓示などを見ると、変革やデジタル化、脱炭素などのキーワードが上がっています。各企業のDXへの取り組みの情報発信も進んでいます。

日本建設業連合会、DX戦略

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

ドローン活用、ロボット点検

 ドローンの活用も進んでいます。例えば、屋内の現場にドローンを飛ばして工事の進捗(しんちょく)状況を確認する、ドローンを全自動で飛行して測量と現場の巡視を円滑に進める、災害時の安全性を検証するために実証実験を行うなどの取り組みがあります。自律飛行で水中を撮影するものも出てきています。

 4本足で動くロボットを現場で巡回させて現場の状況を調べる、二酸化炭素の濃度をロボットで計測するなど、現場の巡回の手間を軽減するためにロボット点検の活用が始まっています。

ロボット点検

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

さまざまな⾒える化

 今後はデータをどのように使うかが鍵となります。例えばデジタル空間で収集したデータを一元的に管理し、全体を把握して、人や物の動きを最適化したり、施工上の問題点を洗い出したり、デジタルツインで施工をシミュレーションしたりすることで、無駄や手間、手戻りをなくす動きが進んでいます。また、これまで熟練した人たちの頭の中だけにあったノウハウや技術の暗黙知をデータ化して、水平展開する動きなどもあります。

苦渋作業削減

 苦渋作業の削減に向けて、民間企業でも開発が進んでいます。例えば鉄筋供給から結束までを自動化したり、配筋の検査を自動化したり、ロボットを使った墨出し作業などの取り組みも進んでいます。定型業務や簡単な繰り返し業務はツールやロボットに任せ、端部などの難しい場所は熟練者が行う。このようにうまく役割分担して、苦渋作業を減らしていく方向に向かうと思われます。

建設資材の自動搬送

 搬送の効率化・自動化も進んでいます。無人フォークリフトが自律移動したり、AGVという自動搬送の機械がエレベーターと連携して物を運んだり、小さいロボットが複数フロアに少量搬送をするなど、さまざまな取り組みが進んでいます。夜間にロボットが搬送することで、エレベーターでの物の移動が削減し、人が移動しやすくなります。建築現場の中でエレベーター渋滞は待ち時間になってしまうため、待ちの時間を減らして、作業できる時間を増やせれば、全体を効率化することが可能となります。

建設資材の自動搬送

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

重機、材料

 重機の自動化・自律化、タワークレーンを遠隔で動かすなどの動きが進んでいます。また、材料について、3Dプリンターやロボット加工により多彩な造形が可能になっています。どの素材を使うか、どれぐらいの強度が出るか、生産性向上にどうやって生かすかの検討がこれから進んでいくのではないでしょうか。

カーボンニュートラル

 カーボンニュートラルも非常に重要な動きになります。建設業界ではCO2排出量を把握し、サプライチェーン全体で対応することが求められています。世界的に「地球に優しい」構造物・建築物かが問われる時代になっています。

今後に向けて

加速する連携

 今後、企業やさまざまな組織での連携が増え、オープンイノベーションが当たり前になるでしょう。新しい技術を「作る」能力とともに、効率的なサービスを選んで「使う」能力が求められると思います。

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

改善すべき点

 現場が楽になるためには、負担が減り、生産性が向上することによって利益が上がって、処遇が改善していくことが重要です。そのためにも、現場の人が今やるべき領域に集中できる仕組みや環境をつくっていくことが大切になります。

安全性

 現場の安全のためにも、接触を防止するためのシステムの活用や、ランサムウエア対策などセキュリティーも重要になります。DXを安全に使いこなすための備えをしっかり行い、安全を念頭に置きながら進めていく必要があります。

出典:「建設・インフラ分野のDX最前線」セミナー資料より

魅⼒ある世界へ

 生産性が向上し、処遇が良くなり、頑張る人が自分のキャリアを高めることでさらに処遇が高まる。このような好循環をつくっていくことが重要です。建設キャリアアップシステムへの登録が増えてきています。これは建設業界一丸となって普及・拡大に取り組んでいくべき重要な取り組みです。「きつい・汚い・危険」と言われる3Kから、新3K「給料・休暇・希望」が持てる産業への転換が大切になります。

推進⼒

 今、DXは建設に限らず全ての産業で進んでいるため、DX人材を確保しなくてはいけません。結局は人が進めます。使った人がもっと使いたいと思うのか、周りに広めたいと思うのか、そういう目利きをしながら、自分たちにとって望ましい技術を選ぶことが重要です。

 併せて意識改革も必要です。変えるべきところは勇気を持って変えていく。そして、成功体験を得ながら、前向きに取り組んでいただきたいと思います。また、リーダーシップも大切です。経営の皆さん方のリーダーシップはもちろん、現場で引っ張っている人自身がリーダーシップを持って取り組んでいくことも重要だと思います。

 DXで求められるのは飛躍的な変革です。変革にどう取り組んでいくか、次世代の人たちがどんな現場だったらもっと働きたいと思うかと少し未来を描きながら、そのためにどういう技術が必要なのか、どういう技術を取り入れるかを検討することが重要になってきます。

 今回のセミナーをご覧になる方々は、意識の高い方々だと思います。次世代にとっていい現場を引き継ぐことが、日本全体にとって安全・安心で、豊かな社会を支えていくことになると思いますので、ぜひ周りを引っ張って取り組みを進めていただければと思います。

日刊建設工業新聞社 編集局編集部 部長 牧野 洋久 
 講師ご紹介 

日刊建設工業新聞社
編集局編集部 部長
牧野 洋久 氏

<講師プロフィール>
東京都立大学工学部土木工学科卒
建設会社勤務などを経て日刊建設工業新聞社に入社
中央省庁担当、日本建設業連合会担当、東北支社赴任を経て企業面キャップとして民間企業の取材を担当

【資格】
1級土木施工管理技士、宅地建物取引士

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