働き方改革やICT技術の進歩などを踏まえ、監理技術者・主任技術者の専任制度の変更が相次いでいる。技術検定受検の資格要件などが本年度から見直されたほか、4月には国土交通省が監理技術者制度運用マニュアルを改定。この件で監理技術者等が現場を不在にする際の合理的な理由などを明確にし、休暇などを取りやすくするとともに、監理技術者などの雇用形態の特例措置「企業集団制度」を導入した。12月には今年6月に成立した改正建設業法などを踏まえ、請負金額1億円(建築一式2億円)未満の工事を2現場に限り兼任を可能にする方針だ。ただ、これには条件も付けられ、現場状況の遠隔監視や施工体制の確認が可能なICTの導入などが挙げられている。
専任技術者の休暇を取得しやすいように改善
建設業法では、建設業者が建設工事を施工する際、工事現場の技術上の管理を行う監理技術者・主任技術者を置かなければならないと定めている。一定額以上の工事はその技術者の「専任」も求めている。建設工事に関する請負契約の適正な締結やその履行を確保するためのもので、品質の確保の観点からも重要な技術者・技能者制度となっている。運用方法の詳細は「監理技術者制度運用マニュアル」に規定している。
今年4月、建設業界にも時間外労働の上限規制が適用された。国土交通省は現場の働き方改革が急務と判断し、4月に監理技術者制度運用マニュアルを改定。専任となる監理技術者が不在とする際の規定を緩和し、超過勤務が懸念される現場技術者が休暇を取得しやすいよう見直した。
具体的には、専任技術者が「不在にする合理的な理由」の例示として、勤務間インターバルなど働き方改革の観点を踏まえた勤務体系、工事書類の作成などを追加。1~2日程度の短期間の不在であれば、終日現場を離れるのが週の稼働日の半数以上などの場合を除き、適切な施工体制の確保を前提に受注者の裁量で可能とした。その際、施工体制を確保する手段として遠隔施工管理を明記。バックオフィス支援を念頭に、監理技術者などを支援する者の配置などの特別な条件は求めていない。
3カ月後配置可能型と即配置可能型の2つの制度
また、在籍出向技術者の現場配置を特例的に認める「企業集団制度」の新たな運用ルールも開始した。出向元と出向先の経営事項審査(経審)の有無を問わず、在籍出向後3カ月以上経過していれば、連結子会社間などの技術者配置を可能とする「3カ月後配置可能型」を新設した。親会社と連結子会社の間では、民間工事の場合、在籍出向後すぐに配置が可能で、公共工事の元請となった場合は在籍出向後3カ月以上経っていれば配置ができる。確認書の事前申請は不要で、個別工事で必要に応じ注文者に関係資料を提出することで運用ができる。国土交通省への事前申請が必要な親会社と連結子会社の間で在籍出向を認める現行制度「即配置可能型」も従来通り利用(有効期限を3年に延長)できる。
親・子会社間の出向社員の配置が可能な現行制度は、経営審査事項の受審が出向元と出向先のどちらか一方に限定されていたが、新ルールでは経審の有無を問わず、親・子会社間、子会社間の出向社員の配置も認めた。その代わり出向先での技術習得のため出向後3カ月以降に配置可能という条件を設けている。
ゼネコンなどは親・子会社ともに経審を受審しているケースが多く、これまで国土交通省が認定した企業集団は25グループにとどまっていた。国土交通省によると、新ルールを導入後、地場の企業グループなどからの問い合わせが増加。認定が不要なため、どの程度の企業グループが新ルールを活用しているか不明だが、いくつかの企業グループがすでに利用しているようだ。新旧制度を上手に使い分ける企業グループもあり、技術者を流動化させながら上手に受注活動や施工監理を展開し、技術者の働き方改革を同時に進めている。
国土交通省は2025年度以降、各地域の建設業団体に協力依頼し、新ルールの活用状況を調査する方針。制度改善の要望も同時に収集し、品質上の問題の有無などを公共発注者にも確認する予定だ。
1億円(建築2億円)未満工事の2現場で兼任可能に
6月に成立した改正建設業法では、現場配置技術者の兼任制度を認める制度が盛り込まれ、12月に施行することが明記された。国土交通省はこれを踏まえ、11月に関係規定の政省令案が提示。監理技術者・主任技術者の兼任を請負金額1億円(建築一式2億円)未満の工事を2現場に限り認める方針を示した。現場状況の遠隔監視や施工体制の確認が可能なICTの導入等を要件とし、これらを満たす留意点などを「監理技術者制度運用マニュアル」に追加する意向だ。営業所専任技術者も同条件で1現場の兼任を可能にする方針(表)。
監理技術者等が兼任可能な条件の方向性
工事現場について
・工事請負金額がいずれも1億円未満(建築一式工事は2億円未満)の2現場を兼務。
・監理技術者等と各現場との間に、現場の状況確認と意思疎通に必要なリアルタイムの音声・映像の送受信が可能な環境(スマートフォン・Web会議システム等で可)が整備
・各現場が一日に巡回可能な範囲(現場間を2時間程度で移動できる距離)に存在する
施工体制について
・連絡要員(1年以上の実務経験を有する者)の配置(専門工事業の場合は各下請業者への連絡体制の確保により代替可能)
・当該建設業者からの下請次数が3次以内である
・日々の施工体制がCCUS等※により遠隔から把握可能
(※技能者情報の真正性を確保する観点からCCUSまたはCCUSとAPI連携したシステムであることが望ましい)
運用について
・兼任にあたっては、技術者の労働時間が過大とならないよう十分に留意しつつ、施工管理の手段及び人員配置に関する計画書を作成、保存
※適正な施工確保のための技術者制度検討会(第2期)の資料から抜粋
専任配置が必要な工事の請負金額も12月中旬に引き上げる。現行の4000万円(建築一式8000万円)以上から4500万円(9000万円)以上に変更する。前回引き上げた2023年1月以降のさらなる工事費高騰に対応したもので、建設工事費デフレーター(建設工事にかかる費用の相場を示す指標)の数値が2015年を「100」とした場合、2021年が「113・2」、2023年が「123・2」と直近2年で8・8%上昇したため、それに対応した措置となる。
同時に施工管理技術検定の受験手数料も2025年度から値上げする方針が打ち出された。こちらは人件費などの上昇を勘案し試験事務の安定的な実施と受験環境の改善を図るのが目的。全7種目が対象で、関係政令の公布時点で具体的な料金設定を公表する。
監理・主任技術者の専任が必要な請負金額の引き上げを踏まえ、特定建設業の許可や監理技術者の配置、施工体制台帳の作成が必要な下請金額を現行の4500万円(建築一式7000万円)以上から5000万円(8000万円)以上に変更。下請の主任技術者の配置が免除される特定専門工事の下請金額の上限も現行の4000万円から4500万円に引き上げる方針だ。
一方、公共工事で義務化されている施工体制台帳の提出をICTで代替可能とする改正公共工事入札契約適正化法(入契法)の措置も12月に施行する。入契法施行規則の改定案では台帳記載事項を閲覧できる適切なシステムを利用し発注者が施工体制を確認する場合に適用すると規定し、具体例として建設キャリアアップシステム(CCUS)を明記している。
導入後にモニタリングし、更なる改善の可能性も
技術者不足などから監理技術者・主任技術者の専任制度の緩和を求める声は数年前から建設業界から上がっていた。国土交通省では、働き方改革の推進に加え、日々進歩するICTの活用などを進めることで専任制度の見直しが可能かどうか、有識者会議「適正な施工確保のための技術者制度検討会(第2期)」(座長・小澤一雅東京大学大学院工学系研究科特任教授)を立ち上げ、検討を進めていた。
今回の見直しは、同検討会が示した方向性がほぼそのまま反映されている。検討会では新制度を導入後、モニタリング調査を行い、現場を兼任することで問題が生じていないか、追加の要件が必要かどうかなどを調べ、さらに改善を提案していくという。同時に監理技術者等の途中交代の条件の見直しや、営業所専任技術者の複数営業所の兼任なども引き続き検討する方針だ。いずれにしても配置技術者制度の見直しは、企業経営にも大きな影響を与えるため、その動きを注目していきたい。
執筆者
日刊建設工業新聞社 常務取締役事業本部長
坂川 博志 氏
1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。
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