1.はじめに
日本で初めて新型コロナウィルスの感染者が発見されたのは2020年1月でした。未だに収束はしていないものの、社会全体がコロナ禍での生活に慣れてきたようにもみえます。感染時の隔離等はあるものの、その期間は当初に比べ大幅に短縮され、イベント等への規制もだいぶ緩和されてきました。
コロナ禍が未だに経営に大きく影響している事業者もある一方、“ウィズコロナ”での社会経済活動をニュースタンダードとして動き始めている事業者も多くいます。
そんな中、経済産業省は政府系金融機関による実質無利子融資の申請を2022年9月末で終了としました。
今回は、コロナの影響と融資の状況を確認しながら、建設業における資金繰りについて考えていきたいと思います。
2.新型コロナウィルスの影響の現状
今回の無利子貸付の終了について中小企業庁は、貸付の申請件数は落ち着いてきており、前向きな投資へのニーズが高まってきている段階にあるため、としています。実際に現場での影響はどうなのか、日本政策金融公庫が実施したアンケートの調査結果をみていきたいと思います。
推移をみると、新型コロナウィルス感染症によるマイナスの影響が「現時点で大いにある」、または「現時点で少しはある」と回答した事業者の割合は感染拡大が始まった2020年度の8月をピークに減少傾向であるといえるかもしれません。しかし、いまだに「ある」と回答している割合は合わせて67.3%にのぼります。
(出典:コロナ禍の影響により調達難の割合が6割超に上昇「新型コロナウイルス感染症の中小企業への影響に関する調査」結果~「中小企業景況調査」付帯調査~)
また、建設業だけでみてみると、マイナス影響が「ある」としている割合は63.6%と全業種とほぼ同水準です。一方で、その内訳をみると「現時点で大いにある」としている事業者の割合が全業種では28.2%であるのに対して、建設業では14.9%となっており、他業種と比較して、新型コロナウィルスの影響は小さくなってきているともいえます。
3.コロナ融資の返済開始
上記アンケートの結果から少しずつ状況は良くなってきているという見方もできます。ただ、ここで注意が必要なのは融資返済の開始時期です。コロナ禍で行われていた実質無利子・無担保の融資は、据え置き期間が最大5年間となっているものの、据え置き期間終了後の返済負担を考慮し、実際には2年以内にとどめている企業が多いといわれています。つまり、新型コロナウィルス感染症が流行し始めた2020年に借入を実行しているとすれば今年からその返済がはじまる計算になります。
景況の面から見てもコロナから立ち直ったとは言い難い状況で返済が始まると、なんとか資金繰りをできていた事業者も、本当の資金難に陥る恐れがあります。
4.資金繰りに係る建設業の特徴
ここからは建設業における資金繰りの特徴を確認したいと思います。
建設業の大きな特徴の一つは工期の長短の差が大きいことです。一定の前渡金が施工前や施工期間中に入金されるケースもありますが、工事代金の入金は施工後というのが一般的でしょう。その為、工期の長短が資金繰りに大きく影響します。
工期中は人件費をはじめとするキャッシュアウトが継続する為、基本的には工事期間中は出金が先行し、入金が遅れるという傾向が他の業界に比較して強いと言えるでしょう。
こうした特徴から、出金から入金までの資金繰りが極めて重要になります。
5.資金繰り表の基礎
資金の管理においてどの会社でも使いやすいツールの一つが資金繰り表です。
資金繰り表という言葉を聞くと、面倒くさそうといった印象を持つ方が多いかもしれません。しかし、簡単にいうと「会社のおこづかい帳」にあたる物であり、貸借対照表や損益計算書よりもずっとわかりやすく、現在の資金の状態を把握するのに非常に優れたものです。似たような資料としてキャッシュ・フロー計算書というものもありますが、これは決算等一時点までのお金の流れをまとめることを目的とする会計上の書類で、将来視点を含んだ現在進行の資金管理は目的としていません。
資金繰り表では、まずお金の流れを3つのカテゴリーに分けて考えます。1つが「営業キャッシュ・フロー」、2つ目が「財務キャッシュ・フロー」、3つ目が「投資キャッシュ・フロー」です。
1つ目の「営業キャッシュ・フロー」は本業で得たお金です。このカテゴリーには「売掛金の入金」や「現金売上」などがあります。
2つ目の「財務キャッシュ・フロー」は会社の資金調達にかかわるお金の動きです。例えば、借入金の借入や返済、出資の受入などが考えられます。
3つ目の「投資キャッシュ・フロー」は会社の事業規模拡大や維持のために使用されるお金のことです。設備投資や事業譲渡などが該当します。
上記3カテゴリーはどの事業者でも共通しますが、各カテゴリーにどんな収支項目を入れるべきかは、各企業の事情や業界によって異なりますので、会計処理で使用している出金伝票や入金伝票を用いて一度自社の収支項目に何があるのか整理してみるといいでしょう。
6.資金繰り表の運用
資金繰り表はよりシンプルで誰でも理解できることに加えて、“運用する”という考え方を持つことが大きなポイントです。
運用と言っても複雑なことは無く、例えば前月分の売上や債権債務が確定したタイミング、工事の受注が決まったタイミングなどで資金繰り表に反映し、返済予定や資金が出ていくタイミングを確認する等で十分です。
資金繰り表を運用するメリットは、出入金や資金が薄くなるタイミングの見える化によって、資金が底を尽きるといった事態を防止できることです。建設業であれば請け負う工事の規模や工期の重なりによって、資金が薄くなるタイミングが定まらない事業者も多いかと思いますが、資金繰り表によって、そのタイミングを把握することが可能です。
資金が薄くなるタイミングが分かれば、社内に対して予定外の出費に気をつけるよう伝達したり、分析によって無駄な資金使途に気付いたりするきっかけになります。また、借入がある場合には返済を先延ばしにするタイミングを図ったり、繰上返済によって継続的な出金負担を押さえたりということも可能になります。
資金繰り表を作成したことがある事業者でも、借入の際に銀行に提出して以来、ということも多いかと思います。自社の管理に非常に有用なものですので、改めて更新を掛けてみてはいかがでしょうか。
図:資金繰り表例
7.おわりに
前述のようにコロナ禍の影響は徐々に落ち着きを見せているかもしれません。しかし資材価格に大きな影響を受ける建設業では、年始以来の円安やウクライナ侵攻など、多様な事象が利益率や資金状況に大きく影響します。
首都圏の再開発や国土強靭化のための公共投資は手堅く推移するとみられますが、当然ながらそうした需要予測は将来の利益や資金流入を確定するものではありません。
国としても貸付について一つの舵取りを行ったこの機に、今一度会社の資金繰りについて見直してみてはいかがでしょうか。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
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