建設業におけるDX推進、その現状は?
経済産業省は2018年のDXレポートで「2025年の崖」と表現し、これにより、日本企業がDXを採り入れなければ国際的競争力を失い、2025年からの経済損失が年間約12兆円に達する可能性があると警告しました。この試算を踏まえ、各業界では急速にDXを推進する動きが見られました。本稿では、建設業のDXに焦点を当て、その動向について説明いたします。
CONTENTS
01.建設DXとは
02.建設DXの背景 ~DXは建設業の3大課題を解決するか?~
03.建設DXの実例と成果
04.これからDXを進める建設事業者さまへ
05.よくある質問
建設DXとは
あらゆる要素がデジタル化/グローバル化されていくなかで、さまざまな業種でビジネスモデルの抜本的な変革が求められています。データとデジタル技術を駆使することでの変革と競争力の優位性を確立すること、これがDX(Digital Transformation;デジタルトランスフォーメーション)です。2018年、経済産業省の「デジタルガバナンス・コード2.0」のなかで定義づけられて以後、いまや単なるバズワードに留まらない、ビジネスシーンにおける一大テーマに位置づけられています。
労働集約型で人的コストが高い建設業においても、DXによる省人化/省力化は注目度が高いテーマです。一方で、DX導入のハードルが他業種より高いことも、また、事実でしょう。製品が規格化された製造業とちがい、受注生産方式である建設業が扱う成果物は一品一様、画一的な機械化が難しいことがひとつ。また、勘や経験、技術など、職人気質が重んじられる現場とICTが円滑に連携しづらいことなども、DXが進まない要因として挙げられます。
ただ、経済産業省がいうところの“2025年の崖”まで、いくらも猶予はありません。国土交通省が主導するi-Construction(アイ・コンストラクション)(※)などの後押しを受けて、近年、大手ゼネコンを中心に、建設業界でも革新的な最新技術が続々と導入されています。
※建設業界へのICT導入などによる生産性向上の取り組み
2025年の崖とは?
2018年のDXレポートのなかで、経済産業省は、2025年までにDXを採り入れなければ日本企業は国際的競争力を失い、それによる経済損失は年間で約12兆円にのぼるだろう、と報告している。これがいわゆる“2025年の崖”である。DX推進は、企業レベルの話というよりも、政府の経済政策の要衝に位置づけられるものといえる。
以前の記事でも「建設工事業におけるDXの現状と展望」をご紹介しましたが、今回はより具体的に事例/成功例を挙げながら、さらに掘り下げて解説します。
建設DXの背景 ~DXは建設業の3大課題を解決するか?~
DX導入にあたっては、当然ながら、けっして安価でない投資が必要です。また、担当者のスキル開発など、習熟面も大きなハードルとなります。
にもかかわらず、なぜ多くの建設業事業者が積極的にDXに取り組んでいるのでしょうか? 費用以上のメリットが見込めることはもちろんですが、それ以上に、建設業界が抱えるいくつもの課題を鑑みれば、DX推進しか活路はない、という強い危機感を共有しているからだといえます。
1.人手不足問題/就業者の高齢化
昨今の労働人口減少を受けた人手不足問題は、全業種にとって大きな課題です。国土交通省が発表した統計では、令和2年(2020年)の建設業の就業者数は492万人。ピークである平成9年(1997年)から比較すると、28.1%の減少となります(図1)。
特に建設業では技能者の高齢化が進んでいます。熟練世代が一斉に引退すれば、業界は立ち行かなくなるでしょう。
人手不足の解消は喫緊の課題ですが、建設業の労働環境は1980年代よりいわれる3Kのイメージがいまだに根強く、全業種間で激化する人材獲得競争で大きく不利です。また、このまま人手不足が進めば、人材獲得競争に勝ったとしても必要な人員を確保できる保証はありません。
現在、国土交通省と建設業界は協同で新3Kに向けた取組みを進めています。ただ、一度根づいたイメージの刷新に時間がかかることはまちがいありません。並行してICTを活用した省人化を進めることこそ、改革の両輪といえるでしょう。
3K・6K・新3Kの違いは?
バブル期以降、「きつい・きたない・危険」の3Kや「帰れない・きびしい・給料が安い」を加えた6Kなど、従来の建設業の労働環境についてイメージ低下を助長するような表現がしばしば使われてきた。担い手確保のために、国土交通省と業界は新3Kを掲げ、その実現に取り組んでいる。ICT施工を中心にするi-Constructionもその一環。
新3Kは「給与・休暇・希望」の頭文字から成る。
2.労働生産性の低さ
国土交通省の調査では、建設業の労働生産性が他業種と比較して大きく見劣りすることが報告されています(図2)。
製造業とは異なり機械化による大量生産を図れないこと、また、受注単価の低さに対して必要となる人員が多いことなどが主な理由です。業界特有の重層下請構造も、大きな重しとなっています。
また、建設業では労働生産性の規模間格差が特に大きいことがわかっています。中小企業は、競争力の面で、大きな不利を強いられます。
3.働き方改革と2024年問題
人手不足と労働生産性の問題に拍車をかけるのが、働き方改革と2024年問題です。
平成31年(2019年)に施行された働き方改革関連法による労働基準法改正を受け、現在、多くの企業で時間外労働についての是正が図られています。
改正労働基準法では、時間外労働の上限が原則として月45時間/年360時間と定められており、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできません。また、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下を超えることはできないと定められています。
■年720時間
■複数月平均80時間
■月100時間未満
※上記に違反した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれあり
※災害時における復旧及び復興事業には、時間外労働と休日労働の合計について、複数月平均80時間以内、月100時間未満とする規制は適用されない
改正労働基準法は、大企業では平成31年(2019年)4月より、中小企業では令和2年(2020年)4月より適用されています。
ただ、建設業では慢性的な人手不足による長時間労働が常態化しており、災害の際の復旧工事など臨時的な対応が常に必要であるため、例外として本規制について5年の猶予が設けられていました。
その猶予も令和6年(2024年)4月に解かれます。多くの事業所で対応に追われることは、必至といえるでしょう。これが建設業界の2024年問題です。
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~2024年問題を乗り越えるために~
建設DXの実例と成果
上述の課題から、建設業ではDXの成否が産業/企業の維持に直結します。現在、官民挙げてさまざまな新技術を採り入れながら、生産性向上への道を模索しているところです。建設DXの代表例を、以下に挙げてみました。
1.IoT ~建設現場のDX~
従来、インターネットに接続されていなかったさまざまな機器をネットワークで繋ぐことで情報交換する仕組み、IoT(Internet of Things)。令和2年(2020年)に国内で5Gのサービスが開始されたことで、高速・大容量の通信を活用できるようになり、一気に実用化が進みました。
建設工事現場での実用例としては、経験の浅いドライバーをコンピューター制御でサポートするMC(Machine Control)/MG(Machine Guidance)建機や規格の異なる様々な重機にフレキシブルに対応できる遠隔操作型人工筋肉ロボットが挙げられます。いずれも建設現場の大幅な省人化を可能にする新技術です。
より身近な例としては、急ピッチの法整備で後押しされるUAV(ドローン)やウェアラブル端末が挙げられます。
まず、ドローンについては、2022年の改正航空法からレベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)が解禁されました。それを受けて、建設業でも測量や橋梁などの定期点検・災害時の現場調査・定点観測による施工管理など、汎用性の高さを活かしてさまざまな場面で活用されています。大掛かりな人員や点検車輛を必要としないため、大幅なコスト削減が可能です。
表 ドローンの飛行レベル
レベル1 | 目視内での操縦飛行 |
---|---|
レベル2 | 目視内での自律飛行 |
レベル3 | 無人地帯(道路・鉄道除く)での目視外飛行 |
レベル3.5 | 無人地帯(道路・鉄道含む)での目視外飛行 |
レベル4 | 有人地帯での目視外飛行 |
また、身に着けるIoTともいうべきウェアラブル端末についても、令和2年(2020年)以降、国土交通省が生産性向上のためのリモート化、遠隔臨場への取組みを進めていることもあって、急速に普及が進んでいます。スマートグラスを通して工事現場の映像や音声をリアルタイムで事業所に送信、ハンズフリーでコミュニケーションを図りながら作業を進めることが可能です。監督職員が現場に出向くことなく、立会や材料確認をリモートで済ませることができるため、大幅な時間の短縮と効率化を図れます。
国交省に報告されている主な導入効果
MC建機:施工日数15日縮減
UAV測量:23人日⇒3.5人日
ウェアブル端末:移動時間を片道90分削減
人手不足とともに世代間の技術継承は建設業にとって避けて通れない課題ですが、ウェアラブル端末を活用すれば、事業所にいる熟練者から遠隔による助言・支援を送ることができるため、人材育成の面でも有力なソリューションです。クラウドに蓄積したビッグデータを活用できるなど、多くの可能性を秘めたデバイスといえるでしょう。
2.BIM/CIM ~設計段階の効率化~
国土交通省が建設業の生産性革命のエンジンと位置づけ推進しているのがBIM/CIM(ビムシム;Building / Construction Information Modeling, Management)です。建設業では従来、二次元の図面をもとに設計・施工を進めていましたが、三次元モデルを導入することで情報共有を容易にし、建設生産・管理システムの効率化・高度化を図るというものです。
本項目については別の記事に詳細をまとめていますので、ご関心のある方はそちらも併せてご覧ください。
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バックオフィスへの影響は?
3.ERP ~バックオフィス業務の統合~
建設DXといえば建設現場のDXのイメージが強いですが、バックオフィスのDXも併せて考える必要があるでしょう。工事原価管理や労災管理など、他業種と比較して複雑な事務作業が多い建設業では、管理部門の省人化/業務効率化も現場と同等に重要です。
建設業ERP “PROCES.S” は、建設業の原価管理や財務会計、JV管理など、基幹業務を網羅しているだけでなく、昨今の法改正で対応が必須となる電子帳簿保存法や電子化が進む工事請負契約に対応するオプションも用意されており、バックオフィス業務についてトータルで効率化を図ることができます。
350社以上ある豊富な導入実績から今回は、自社で構築していた基幹システムを建設業向けERPに移行することで属人化を解消し、拠点ごとに異なっていた業務フローの統一と大幅な業務効率化を実現した成功事例をご紹介します。
導入事例
システム管理の属人化を解消し、
拠点間で異なっていた業務フローの統一を実現
西田工業株式会社
4.施行管理システム ~部門間の連携強化~
建設業のDXは、IoTのように大掛かりなものだけではありません。現場情報の連携アプリであれば、既存のスマートフォンやタブレットをそのまま活用できるため、比較的低コストで導入が可能です。
建設業では、ひとつの工事で大量の図面や作業指示書、工程管理表が必要になります。現場情報の連携アプリがあれば、事業所からも工事現場からも工事ごとに整理された情報にアクセスできるため、端末ひとつを持ち運ぶだけで事が足ります。部門間のコミュニケーションも、スムーズかつ活発になるでしょう。
5.AI ~建設業ではどう活用されるか?~
2023年以降、第四次AIブームともいえるほど注目を集めるAIですが、建設業とも非常にかかわりが深い分野です。
二次元CADをAIに解析させて三次元化したり、遠隔操縦を超えた自律作業型の無人建機などはさかんに研究されてきましたが、より身近な例として、ChatGPTなどの生成系AIを施工管理や経営管理に活用する動きもあります。
本項目については、たいへん好評だった建設セミナーをレポートにまとめました。関心のある事業者さまは、ぜひそちらもご覧ください!
Seminar Report
ChatGPTを活用して
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解決する方法
これからDXを進める建設事業者さまへ
前述のとおり、建設業はデジタルの導入にあたって特殊な事情を抱えた業界ですが、新型コロナウイルス禍の影響による外圧も相まって、現在、多くの企業がDX推進に取り組んでいます。
本稿では、建設業におけるDX推進の代表的な事例や製品例をご紹介しましたが、新しいワークフロー構築にご不安を抱える事業者さまも多いのではないでしょうか。そういった事業者さまに向けて、建設現場とバックオフィス双方の建設DX事例をPDF資料にまとめました。
インフラ維持・国民の安全な暮らしを守るうえで、建設業は最重要の役割を担う基幹産業であることは、疑いようもありません。多くの課題を乗り越えて、今後も成長産業としての躍進が期待されています。本稿と本資料が、貴社のDXと発展の一助になれば幸いです。
よくある質問
- Q建設DX導入にあたりデメリットはありますか?
- Aやはりまとまった費用がかかること、それに担当者の習熟が必要になることはデメリットとして挙げられます。ただ、前者についてはIT導入補助金など政府からの支援をうまく活用して導入を進めた事例が数多くあり、後者の問題については信頼できるベンダーから導入すれば、知見豊富な専任スタッフの支援を受けることができるでしょう。
- QIT化とDXの違いは何ですか?
- A意味合いが似ているため混同しがちですが、IT化とDXは別物と考えたほうがよいでしょう。例えば、会計業務をデジタル化することで業務効率を改善することはIT化といえますが、会計を含む基幹業務のデータを一元管理し、迅速な経営判断に活かすなど、ワークフローの刷新・社内の変革を伴って、初めてDXといえます。単なるデジタル化やシステム化ではなく、まったく新しい変革こそがDXの目的です。なお、DX化という表記も見かけますが、DX自体に変革の意味合いが含まれるため、厳密にいえばDXと表記したほうが適切といえるでしょう。
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