景況は好調、にもかかわらず倒産増?
東京五輪に続き、大阪万博やリニア中央新幹線など、大型特需に沸く建設業。一方で、2022年の建設業の倒産件数は、増加に転じています。活況にもかかわらず、なぜ倒産数が増えるのか? 本稿では、建設業を取り巻く環境の変化を俯瞰し、2023年以降の各種法整備についてわかりやすく整理、建設業が抱える課題へのソリューションまでをご紹介します。
CONTENTS
01.建設業界の現状―増加する倒産件数
02.建設業界の課題
03.政府の取組み
04.2023年以降、建設業の今後はどうなる?
05.関連サービスのご案内
06.よくある質問
建設業界の現状―増加する倒産件数
以前の記事でお伝えしたとおり、大阪万博やIR、リニア中央新幹線など、建設バブルともいえる大規模プロジェクトが続く建設業界ですが、一方で不穏なニュースも取り沙汰されています。建設業における倒産件数の増加です。
中小企業庁の発表では、2022年の建設業の倒産件数は1,194件。2021年の1,065件まで順調に減少傾向で推移していた倒産件数は、12%増に転じました。
前述した特需のほかにも防災・減災、国土強化のための5か年加速化対策を受けたインフラ整備の公共工事も続き、建設需要は堅調といえるなか、なぜ倒産件数が増加しているのでしょうか?
1.新型コロナ禍
建設業は、東京オリンピック開催による建設ラッシュや公共工事の恩恵で、新型コロナウイルス禍の直接的な影響を免れた数少ない業種といえます。一方で、宿泊や外食業、商業施設の廃業・業績不振を受け、関連する電気設備工事や内装工事の受注数が低迷。中小規模の建設業事業者は、小さからぬ打撃を受けました。
新型コロナウイルスによる経済影響に対する政府の資金繰り支援施策・持続化給付金の業種別給付比率をみても、建設業はじつに19.3%。全業種中でみても、突出して高い数値です(図1)。
こうした政府の給付金や民間金融機関の無利子無担保融資(いわゆるゼロゼロ融資)の下支えによって、2021年の倒産件数は見かけ上、抑えられていました。
ただ、2022年以降も収益を回復させることができず、負債に圧迫されての廃業が増加しています。2023年以降、この傾向はより顕著になるでしょう。
2.資材高騰
ウクライナ情勢を受けたエネルギー価格の上昇、また、昨今の円安を主因とする資材価格の暴騰も、建設業の先行きに大きな影を落としています(参考記事:工事進行基準による収益計算 ~資材が高騰した際の会計処理は?〜)。
建設業は受注から工事完成までの期間が長期にわたるため、工事期間内に資材価格の高騰が進んだ場合、納期の遅れや利益率の圧迫、価格転嫁のトラブルなど影響が出やすい業種です。
国土交通省が公表する建設工事費デフレーターをみても、昨今の物価指数と連動した建設工事費の上昇傾向は明らか。今後、下降に転じる材料も見当たりません(図2)。
3.人手不足
倒産件数増加の要因3つめは、建設業で急速に深刻化する人手不足です。
これまで感染法上の分類で2類相当に位置づけられていた新型コロナウィルス感染症の分類が、2023年5月8日以降、季節性インフルエンザなどと同じ5類にまで引き下げられます。
それを受け、経済回復は急速に加速しており、企業の採用意欲も全産業で大幅に上昇。2023年は新卒採用を中心に、空前の売り手市場になる見込みです。
人手不足倒産とは?
必要な人員を確保できずに倒産してしまうこと。2022年の建設業では、特に従業員退職型人手不足倒産が目立った。
建設業は建設工事を進めるにあたり、必要な有資格者が多いという特性がある。
そうした人材の流出が重なった際、たとえ黒字であっても事業そのものを継続できない。
物価の高騰は労働者の生活にも影響が色濃く、賃金アップを求めての人材流出は活発化するのが必然。慢性的な人手不足に悩む建設業は、人材確保の面でさらに窮地に立たされることは避けられません。
帝国データバンクの調査では、2022年の人手不足倒産の件数は140件。これは前年比の26.1%増に相当します。業種別では建設業が最多であり、建設業という業種の特性が如実に顕れた結果といえるでしょう。
建設業界の課題
人手不足倒産は、多くの建設業事業者にとって大きなリスクです。早急な人材確保と安定した雇用は急務といえるでしょう。ただ、建設業の実態を鑑みれば、それが決して簡単でないことがわかります。
1.技能者の高齢化
図3は建設業と全業種の就業者の年齢区分の推移をグラフ化したものです。建設業では55歳以上の割合が約34%と、他産業に比して極端な高齢化に陥っていることがわかります。
現場を支える高齢の職人が大量離職すれば、熟練の技術が継承されることなく失われてしまいます。人手不足倒産の増加はもとより、産業の維持そのものが危ぶまれることになるでしょう。
2.長時間労働問題
以前の記事でお伝えしたように、建設業は年間平均労働時間が2,078時間と運輸・郵便業についで長い業種です。休日数でみても、建設工事現場では約65%が4週4休以下。離職率の高さも頷ける数値といえます。
これまでの建設業では、人手不足問題を従業員の長時間労働で補ってきました。ですが、そのやり方もすでに限界を迎えているといえるでしょう。
3.労働災害の多さ
労働時間もさることながら、ほかの面でも、建設作業現場の労働環境は優れているといえません。
2022年の労働災害発生状況の内訳をみると、全産業の死亡者758人に対し建設業は273人。死亡者のじつに4割弱を占めており、いわゆる3K(きつい・汚い・危険)職種の代表とされる所以です。これでは若年世代の新規入職はおろか、雇用を繋ぎとめることも難しいでしょう。
政府の取組み
インフラを維持し国民生活を支えるうえで、建設業はまさに日本経済の屋台骨というべき業種です。政府も建設業の維持・発展を重視しており、そのためには建設業技能者の処遇改善が欠かせないという見解をたびたび示しています。
2023年以降の政府主導による変革について、簡単に整理してみましょう。
1.働き方改革の推進
まず、2023年4月以降、中小企業でも60時間を超える時間外労働について、25%だった割増賃金率が50%へ大幅引き上げとなります。さらに、建設業では2024年問題も目前に控えているので注意が必要です(参考記事:2024年、労働時間に上限規制! 建設業の働き方改革を考える)。
労働時間に上限規制を設けた改正労働基準法は2019年に施行されましたが、建設業については5年の猶予期間が設けられていました。この猶予が明けることで、人件費の大幅な上昇は避けられません。
2024年問題とは?
2019年に働き方改革関連法のなかで設けられた労働時間の上限規制について、即時の対応が困難な業種、建設業と物流業に対して特別に設けられていた猶予期間が2024年3月で終了することを指す。
改正労働基準法では、時間外労働について原則として月45時間/年360時間の上限が設けられている。
また、臨時的な特別の事情があったとしても以下を超えることはできない。
(1)年720時間以内
(2)複数月平均80時間以内
(3)月100時間未満
建設業の特例として、災害時における復旧及び復興の事業には(2)と(3)の規制は適用されないものの、いずれにせよ従来型の労働環境を見直す対応は必須となる。
2.建設業法の改正
2023年1月から、改正建設業法も施行されています。
工事の際に専門的な技術者が複合的に必要になる特性から、建設業では伝統的に重層的な下請構造が特徴となってきました。
元請事業者が中間事業者に発注し、さらに下請事業者に仕事が流れるこうした構造は、合理的である一方、価格交渉の際に下請事業者の立場が弱くなる問題も長年、指摘されています。
近年のように資材や人件費が急激に高騰すると、そのしわ寄せは下請事業者が被ること場面が多くなります。そうした問題を受けて、2022年に工事請負下限金額の引上げが閣議決定され、今回、短いスパンでの施行となりました。
現行 | 改正後 | |
---|---|---|
特定建設業の許可・監理技術者の配置・施工体制台帳の作成を要する下請代金額の下限 | 4,000万円 (6,000万円) |
4,500万円 (7,000万円) |
主任技術者及び監理技術者の専任を要する請負代金額の下限 | 3,500万円 (7,000万円) |
4,000万円 (8,000万円) |
特定専門工事の下請代金額の上限 | 3,500万円 | 4,000万円 |
国土交通省報道資料を基に作成
請負契約の時点にかかわらず、同日以降はすべての工事について改正後の金額要件が適用されることになるため、注意が必要です。
3.賃金上昇に向けた取組み
2022年の物価急騰を受けて、2023年2月、国土交通省は公共工事設計労務単価等の改訂を発表しました。これは国土交通省が発注する委託の積算に用いる全国一律の単価のことで、新たな設計労務単価は全職種平均でプラス5.2%と、大幅な引き上げになっています。
今回に限らず、国交省は技能者の処遇改善のなかで賃金上昇を最優先事項に据えており、令和3年にも新型コロナ禍を受けて総合評価落札方式における賃上げを実施する企業に対する加点措置が設けられました。公共工事の落札に際し、賃金引上げ計画の表明書を提出した企業から優先的に調達を行うというものです。今後もこうした取組みは活発になると予想され、従業員の賃金引上げに向けた対応は必須になるでしょう。
労働者の処遇改善や賃金引上げは、短期的な人手不足の解消だけをめざすものではありません。長期的な事業の継続や収益、ひいては建設業という産業の持続可能性に繋がっていく性格のものといえます。
2023年以降、建設業の今後はどうなる?
以上の課題と取組みを踏まえ、2023年以降、建設業界の景況はどう変化するでしょうか。
1.建設需要は増加~海外へのインフラ展開も
くり返しになりますが、建設需要自体は堅調といえます。長期的にみれば人口減少による市場縮小が懸念されますが、一連の大規模プロジェクトが終わったあとも、産業維持に向けた様々な施策が控えています。
2022年、国土交通省はインフラシステム海外展開行動計画2022を発表しました。
ひとことでいえば、縮小する国内の建設市場に留まらず、海外のインフラ建設に活路を見出すというもので、単純な経済的利益のほかにも国際標準の技術基盤を再構築する目論見があります。
再生可能エネルギーの活用など、国際的に優位にある日本の脱炭素技術の提供は、国際貢献の面からも大きな価値があるでしょう。新興国の旺盛なインフラ建設需要を日本企業で受注する土台を整えることができれば、わが国の建設業の見通しは明るいといえます。
2.海外人材の活用
建設業の問題はむしろ、仕事があるのに人手が足りず、結果として事業を継続できなくなる状況が常に身近にあることでしょう。少子高齢化による生産人口の減少から、人手不足は全産業共通の問題です。地方ではさらに深刻な状況で、若年者のみを担い手として期待することはすでに現実的ではありません。
こうした人手不足の解消に期待されているのが、外国人技能者の活用です。
従来、建設分野の特定技能制度は19の業務区分を設定して運用されてきましたが、区分の多さから職種間の横断を妨げられる問題がありました。2022年の改正では、「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3区分への統合が行われ、より柔軟な人材供給の態勢が整備されています。
これにより、外国人との協働は今後、より身近な光景になるでしょう。
3.DXは避けて通れない
建設業の人手不足問題は根強く、外国人労働者を受け入れたとしても抜本的な問題解決は容易ではありません。また、労働関連の法改正や国際的な賃金上昇の機運を受け、2023年以降、建設業では人件費の急騰が予測されます。お悩みの事業者さまも、多くおられるのではないでしょうか。
そうしたなか、今後の建設業にとって生命線になるのは、まちがいなく労働生産性向上への取組みでしょう。
i-Construction(アイ・コンストラクション)を通して、国土交通省はAIやロボット、ICTを駆使した新しい建設業の在り方を提唱してきました。高度な情報化によって、人手不足解消や労働環境の改善をめざすという取組みです。
最も手近な設備投資として、DX(デジタルトランスフォーメーション)はコストパフォーマンスの面できわめて有用といえるでしょう。
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よくある質問
- Q建設業の人手不足倒産の原因はなんですか?
- A新型コロナ禍からの回復に伴う各産業の人手不足、長時間労働がつきものとなる建設業の労働環境から、若年世代を中心に建設業離れが起きています。建設需要は高まっているものの、建設工事は有資格の専門技術者なしには対応できません。人件費と資材費の高騰も相まって、廃業に踏み切る事業者が多いのが現状です。
- Q建設業の人手不足問題を解決する取組みとしてどんなものがありますか?
- A官民挙げた動きとして、外国人労働者の受け入れのための整備や賃金上昇・処遇改善などが挙げられます。国土交通省が推進する建設業のDX化、i-ConstructionではAIや建設現場でのロボット活用などが続々と実用化されていますし、民間レベルではERPなど基幹業務のシステム導入を検討する事業者さまも多くおられます。
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・農林水産省・国土交通省「令和5年3月から適用する公共工事設計労務単課」
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